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レベル1

 総合司会のサムが声を張り上げ、興奮した声で言っている。


「さ〜〜て次の試合。第14回VR剣術世界選手権。ベスト4進出を決めるこの戦いで〜〜、はたして、勝利するのは前回優勝者のグレッグか? 或いは〜〜、初出場のフレイアか?

 まもなく〜〜、試合が始まろうとしていま〜〜す!」


 200万人を収容できる巨大VR競技場でオレは、妹の横で次の対戦を見守っている。妹に誘われて、今日始めて「トゥルーワールド・オンライン」にログインした。通称「TW」。


 今まで興味の無かったVRゲームだった。けれど昨日、妹のエリカが居間で見ていたアバターの動きに興味を引かれた。エリカが言うには、アバターの動きは現実に操作している人間の顔の表情から、指の細かな動きまでも正確に表現していると。


 エリカはこのゲーム内の世界大会で、日本代表の1人として出場してベスト16に進出したのだけれど、惜しくも敗れてしまった。その対戦相手がこれから戦う一人で、名前はフレイア。


 オレがなぜフレイアに興味を持ったのかといえば、八極合気の技を使ったからだ。オレを生んでくた母さんが俺に教えてくれた流派の技を、水が流れるように見事に相手を投げ飛ばしたのをオレは見て、超〜〜驚いたからだ。

 投げ飛ばされたのはエリカだけれど……。


 エリカはフレイアに負け、なぜ負けたのかを動画を何回も再生して見直していた。横にいた俺は、フレイアの動きに釘ずけになってしまった。どうして母さんと同じ流派の技を、彼女が使えるんだろうと……?


 余りにも真剣に横から見ていたオレに、ニヤニヤしながらエリカが言う。


『そこまでフレイアが気になるんだったら、その目で見たら……、兄さん?』


 フレイアのアバターは美少女で、白に近い金髪をなびかせていた。現実の世界で,これ程の美少女がいるわけが無いのだけれど……。

 エリカは、オレがフレイアのアバターに興味を示したと思ったみたいで、終始ニヤニヤしていた。エリカと俺は連れ子同士で血が繋がってないからか、亡くなったオレの母さんの事を話した事は一度もない。今回も、フレイアに興味を持った本当の事を言えずにいた……。

 そして俺が、フレイアと同じ技を使える事も。


 とう言う訳で、この巨大競技場にオレは居るのだけれど、VRの世界は想像を遥かに超えていた。ログインしてからは、見るもの触るもの全てが現実と同じなので少なからずショックを受けている。競技場の観客席からは、熱気も現実と全く変わらなかった。1つだけ大きく違うのは、アバターが座っていたことだけだ。


 でも、実際に操作している人間と同じ様な姿でログインしている人達もいるとエリカが言っていた。立体写真を自撮りして、それをアバターの入力画面にポチッとするだけで時短になるからだ。今回はフレイアを見るためだけに来たので、立体写真を自撮りして、アバターの入力画面でポチった。


「いよいよ始まるわね、兄さん」


 エリカが指差す方を見たけれど、この席からは余りにも遠すぎて選手が小さく見え、入場したとしか認識できなかった。近くで観戦するには、かなりの金額を払わなければならず、少ない金額で観戦できる場所は当然のごとく遠くなる……。


「エリカ、ここからだと遠すぎて試合がよく見えないんだけれど?」


 オレがそう言うと、エリカはめんどくさそうに言う。


「操作画面の中で、試合に関する所に移動すると望遠機能があるから」


 え、……。

 早く教えろよ、っと思ったけれど、ここでエリカに言い返すのは良くないと判断。何故ならオレは、この世界ではレベル1。実戦経験が全くなく、エリカのお荷物でしかない……。予備知識が殆ど無いのにTWログインしたので、エリカの経験がどうしても必要だからだ。


 エリカに言われた通りに操作画面を起動して、試合に関する画面に移動。色々操作して決定ボタンをポチッと。

 目の前には、さっきと違って何かの毛が大きく見えるだけで、他には何も見えなくなった。

 間違った操作をしたみたいで、これでは試合を見るどころではない。仕方ないので、エリカに助けを求める。


「エリカ、そのう……。

 何かの毛しか見えないんだけれど?」


 苛立つような感情がエリカからしてきたけれど、オレの操作画面を渋々見てくれた。


「胸毛よそれ!

 兄さん、拡大しすぎ!」


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