9 初めてのダンジョンマスター
マスタールームへと戻ってきた俺たち。
その瞬間、兵士長が勢いよく頭を地面に擦り付けた。
「も、申し訳ありませんでした!数々のご無礼をどうかお許しくださいノルン様!今までの軽率で不遜なる言動は全て私の一存でございます!他のゴブリンは一切関係なく!」
「あぁ、もういいから」
さっきから何度も何度も頭を擦りつけている兵士長を許してやる。
そのうちやめるだろうと放置していたのだが、やめなかったのだ。
「許すからその顔を上げろよ兵士長」
「は、はい!お許しくださるのですか?!何とも慈悲深いお方だ!」
そう言ったあとに兵士長はミーナ達に顔を向けて同じく土下座した。
「あなた達にも酷いことを言ってしまった。真実とは全く違うことを言ってしまいました。馬鹿でアホで盲目で世間知らずで、ゴブリンとしての知識でものを言ってしまった、恥ずべき存在は私でございました。本当に申し訳ございませんでした!」
「もういいですよ」
ミーナがそう許すと
「そうだね」
「先生の凄さが分かったみたいだし私も許しちゃう」
エリーもクレアも許し始めた。
「な、何と慈悲深い方達だ。我々は何たる幸せ者だ。このようなお方達に導いて頂けるなど、我々ゴブリン族は世界で1番幸せな種族です」
そこまでか?
そう思っていたら
「ちょっと待ってください?!1番幸せなのはそんなノルン神様に拾われたこの私なんですけど?!」
何故か張り合うミーナだが兵士長の方はそんなミーナなんて視界に入っていないようだ。
「あぁ、ノルン様。帰ったら貴方の素晴らしさを森の他のゴブリン達にも言い聞かせなくては。ノルン神話というものも作らなくてはいけません。ノルン様は初めに大地を作られた……そして魔王様を作られ」
そう言いながら出ていく兵士長。
なんだよノルン神話って。
変な宗教だけはやめてくれよ?
出ていく兵士長を見送ってリシアが口を開いた。
「やれやれ。私もようやく現実を飲み込めてきた。ノルンお前は規格外過ぎるな」
「規格外?それってもしかしてレベルが低すぎるって意味か?」
ならばもっと結果を出せるよう頑張らないといけないな。
「違う。お前が強すぎるという意味だ」
「え?強すぎる?」
「ふむ。少しは力を隠した方がいいかもしれないな。後々厄介な事になるかもしれない」
「分かった。これからはセーブしようか」
と言っても今までもセーブしていたが。
これからはもっとセーブした方がいいかもしれない。
「あまり目立つと厄介なことになるからな。その辺は覚えておいてくれ。それから、この前の続きをしよう。石碑に触れてくれ」
言われた通りに石碑に触れる。
「ようやく正当に認められたわけだ。このダンジョンをお前に任せるに当たって色々と教えておくことにしよう」
ブーン。
ウィンドウが立ち上がる。
【ダンジョンマスター権限を確認しました。現在以下の項目が利用可能です】
・モンスター配置変え
「ここからモンスターの配置変えが出来る」
「ふむ」
「このダンジョンはフロアが1つしかない平面マップだから適当にやってくれたら構わないが、人間が攻めてくることもある。くれぐれも陥落しないように気をつけてくれ」
そう言うと他に分からないことはあるか、と聞いてきたリシア。
特には無いな。
「今日は色々とあって疲れた。こんなに驚いたのは久しぶりだ、私はもう帰るぞ。それともし突破されたら魔王城に戻ってこい。マスター権限を利用すれば即座にテレポートできる」
そう言って帰っていった。
とりあえず詳細を見てみよう。
項目に触れる。
━━━━━━━━
ダンジョン名:ゴブリンの森
攻略推奨レベル:3
攻略難易度:E
ダンジョンマスター:ノルン
ダンジョン総コスト:180
ダンジョンの広さ:とても狭い
━━━━━━━━
「まぁ、適当にやってみるか」
ゴブリンの森、ゴブリンしかいないので新米冒険者が来ることで有名だ。
俺も来たことがある。
レベルで言うと3とか5の冒険者が入ってくるはず。
そんなことを考えながら編成と書かれた項目を押した。
全体マップが現れたが、右と左で分かれていた。
どうやらダンジョンをいくつかのフロアに区切ってフロア毎にモンスターを配置していくらしい。
とりあえずは入口に近い左側のフロアからやろう。
さて、どうしようか。
【現在利用できるコストは残り90です】
→ゴブリン Lv8 ×8 コスト4
ゴブリン Lv3×56コスト2
と、その他にも色々いたが俺が今回使うのはこの辺りだろうか。
とりあえず入口近くにLv8のゴブリンでも置くか。
俺が色々と弄って遊んでいると隣にいたクレアが口を開く。
「先生?定石を知らないの?」
「定石?」
「ここ見て」
そう言って彼女が指を指したのは先程俺が弄った森の入口だ。
そこにはレベル8のゴブリンを何匹か置いてある。
「先生、レベル8のゴブリンはこの森にあまり多くいなくて、それ未満のゴブリンが結構多いんだよ。それならレベル3とかのゴブリンを最前列に置いて徐々に高くしていくっていうのが定石だよ。低レベルゴブリン相手に魔力やアイテムを消費させて後は高レベルゴブリンで倒すの」
そういうことか。
俺が新米冒険者の時は確かにそんな配置だった。
でも
「いや、それも考えてこの配置にしてる」
「え?」
「まぁ見ているといいよ」
今度は別のウィンドウに目をやった。
そっちには各地の森の様子が浮かび上がっている。
丁度今目にしているのは入口近くの映像。
「入ってきましたね」
ミーナが言った通り今このダンジョンにお客様が入ってきたところだった。
『よーし。ゴブリン共を倒して金やアイテム、経験値稼ぐぞ!俺達もSランクになるんだ!』
『おー!!!』
『ゴブリン共俺の魔法で皆殺しだー!!!』
駆け出しらしい冒険者パーティが森に入ってくるところだった。
さて、俺の配置がどうなるのか、じっくり見させてもらうことにしようか。
「先生?ほんとに大丈夫なの?」
心配そうに見てくるクレア。
「ただでさえゴブリンの森は難易度が低いんだよ。突破は当たり前だって言われてるダンジョンなんだよ?定石崩したりなんてして」
「逆に考えれば今まで定石通りにしていたから突破され続けたんじゃないか?」
突破が当たり前と言われているダンジョンでこれまで通りを続ければ当然のように突破されるだろう。
「あっ!そういうことだったんですね!」
そこで気付いたような顔をするミーナ。
彼女は俺の狙いに気付いたようだ。
「任されたダンジョンだ、何もせず突破なんてさせない」
「流石ノルン様です!こんな大事な場面でも冷静に考え、答えを出して勝ちを狙いにいくなんて誰にでも出来ることではありません!やはり天才ですよノルン様は!」
俺に抱きついてキャッキャと騒ぐミーナ。
さて、みんなの信頼を裏切る訳にもいかないよなぁ。