8 何故かみんな信じてくれないのだがどうしたんだろう
「竜王の宝玉、それを持ってくることが出来たのならば俺たちゴブリンはお前をダンジョンマスターとして認めよう人間」
兵士長の声で一気にザワつく。
「竜王の宝玉なんて無理に決まってるだろ?!」
「そうなのか?」
よく分からないので聞いてみることにした。
俺はそのアイテムをよく知らないのだが入手難易度が高いのだろうか。
「りゅ、竜王の宝玉ですよ?!」
ミーナがそう言ってくるが知らないものは知らない。
そう思っていたらリシアが話してくれる。
「竜王の宝玉はドラゴン族の宝だ。ドラゴン族に力を与えている宝とも呼ばれており手にしたものは凄まじい力を与えられると言われている。だが、入手出来たものは誰一人としておらず、その存在だけが確認されている」
「あれ、厳しい感じ?」
話を聞くに取得はかなりしんどそうだな。
「でも、やるしかないな」
「ノルン、死ぬぞ?ドラゴン族は我々魔族とはルーツが違うし私の言うことも聞かない。黙って宝玉を渡せと言ったところで渡さないし確実に闘いになる。戦闘力はこの世界でも1,2を争う種族だぞ?」
「そう言われてもやるしかないんなら、やるだけだよ」
そう言うと兵士長に目をやる。
「取ってこよう。竜王の宝玉を。認めてくれるんだろ?」
「しょ、正気か?」
酷く驚いたような目で見てくるがその姿に呆れる。
「正気だよ。それにお前が言ったんだろ兵士長」
そう言って兵士長を睨み付けるように見ると再度続ける。
「約束しろ兵士長。俺が成功したならミーナ達に言った失言の数々、謝罪しろ」
「取ってこれるもんならな。謝ってやるよ」
「その言葉、忘れるなよ?ここにいる全員が聞いたぞ?」
「取ってこれるわけないからな。地獄に落ちろ人間」
酷く嫌われたものだな。
「じ、地獄に落ちろですって?!貴方が落ちるべきですよ!兵士長!」
ミーナが反論するがまた拗れそうなのでやめさせる。
「本当に行くのか?ノルン」
リシアの声に頷く。
「この兵士長を黙らせて謝罪させる」
それに、ここで後顧の憂いは絶っておけば面倒事に巻き込まれる可能性の芽が1つ潰れる。
もうセシルとも遭遇せずにこれからはのんびりと暮らしたいと思っていたからそういうのは1つでも潰しておきたいのだ。
俺はスローライフというやつを送りたいのだ。
「必ず生きて帰ってこい」
「分かってるよ」
リシアにそう言って俺は彼女に連れられて竜王の宝玉がある場所まで案内してもらうことにした。
◇
そうして案内されたのは人里離れた崖だった。
目の前に聳え立つのは天を貫くほどの反り立つ崖。
テッペンは雲の上だ。
地上からは見えないくらい高い。
「どどど、ドラゴンがいっぱいいますー!!!!」
俺の後ろに隠れるミーナ。
「ひ、ひぃぃぃ!!!!モンスター最強と呼ばれているドラゴンがこんなに?!」
確かに多い。
俺は今崖の下側にいるのだが上に行くに連れ増えていっているようだ。
「この切り立った崖の上に竜王の宝玉は眠っている。本当に行くのか?」
「行くしかないんだろ」
俺がそう言うと隣にいた兵士長が口を開く。
「おいおいおい、行かなくてもいいんだぜ?」
リシアの弱音を聞いて調子に乗っているらしい。
「お前こそ謝罪の言葉は考えたのか?」
槍を抜いて地面に突き立てる。
そのまま足に力を入れるようにしゃがみ込んだ。
「何をしているのだ?」
その様子を見て問いかけてくるリシア。
「そんな事より登り方を考えた方がよいのではないか?」
「ん?登り方?」
「あぁ。飛空船を使う、とかな」
「あーそれなら考えてある」
これはそのための準備なのだから。
「竜騎士専用技のジャンプを使う」
「ぶふっ!!!おいおいおいジャンプってお前なぁ。笑えるぜゲラゲラゲラ。てめぇのジョブは竜騎士じゃなくて芸人だろ、ゲラゲラ。ここから頂上まで何kmあると思ってるんだよ。ジャンプで昇ってたら日が暮れちまうよ。いや、そもそも力尽きるだろ」
ゲラゲラ笑う兵士長に向かって答える。
「俺は竜騎士だ」
そう答えて設定を開始する。
「目標確認……位置設定……高度設定……」
だが俺を見て怪訝な顔をする兵士長。
そんなに見てどうしたのだろうと思ったが続ける。
「な、何をしてるんだお前」
青ざめた顔をした兵士長の声のすぐあとに俺は跳んだ。
すぐさま雲を追い抜き俺は頂上の姿を見た。
頂上には1匹の黒色のドラゴンがいた。
体の大きさは10mくらいに見える。
「悪いな。宝玉貰いに来たぜ」
「グルォォォォォォォォォ!!!!!!!」
その黒色のドラゴンがブレスを放ってくる。
しかし
「無駄だ」
竜騎士の専用技。
竜の加護を使った。
風をまとい低威力の攻撃を通さない風のシールド。
「グォ……」
ダメージを負わない俺を見てか後ずさるドラゴン。
「悪いな。ボスは不在か?」
それにしても思ったより弱いな。
今日は話に聞いていた竜王と呼ばれる程のドラゴンがいないのかもしれない。
「これが竜王の宝玉かな」
俺は先程までドラゴンがいた場所にあった透明な丸い玉を拾った。
その玉は内側から微かな光を放っている。
恐らくこれだろうな。
「悪いけど弱肉強食という訳でな。ではな」
「グルル……」
犬みたいに縮こまったドラゴンを横目に俺は頂上から降りた。
竜騎士の特性としてある程度は風に乗ることが出来る。
俺はそれに乗って地上まで帰ってきた。
「ん?どうしたんだ?みんな、目開けて」
皆俺を見て大きく目を開けている。
兵士長に至っては尻もちをついていた。
「それと、これだろ?竜王の宝玉ってちゃんと頂きにあった玉だ」
兵士長に渡した。
「これで認めてくれるんだろ?」
「あ、有り得ない……これは宝玉じゃない!」
「認めろ兵士長。私も驚いたがノルンは約束を果たした」
リシアに詰め寄られるが後ずさる兵士長。
「こ、こんなの何か仕込みがあるはずだ!りゅ、竜騎士のジャンプがあんなに届くわけが無い!竜騎士のジャンプはSランク竜騎士でもせいぜい数十メートル飛ぶのが限界だ!それを垂直跳びとは言え━━━━キロメートル単位で飛べるなんて……有り得ない……」
兵士長がそう言うと皆息を飲んだ。
「た、たしかに……そう言われれば有り得ないことだ。限界を明らかに超えている」
さっきまで信じていてくれたリシアも震える口で呟いた。
「え?でも俺取ってきたし」
「お前私たちに幻覚でも見せているのか?ははっ……余りにも現実味が無さすぎると……いたたっ!クレア頬を引っ張るでない!」
さっきまで俺の味方だったはずのリシアまでそんな事を言い出す。
何なんだ?
「魔王様痛いってことは現実だよ!先生は本当にジャンプして取ってきたんだよ!やっぱすごいや先生は!」
リシアとクレアが互いの頬を引っ張り合いながらそんな事を言っている。
「うん。クレアの言う通り跳んだだけだけど、ほんとにどうしたんだよ?」
何故か信じてくれてないみたいだし俺からももう一度言っておこう。
「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!!!!」」」」
皆の声が響き渡った。