6 【勇者サイド】 勇者達死にかける
「具合はどう?セシル」
宿屋の一室で聖女のユーリがセシルに声をかけていた。
「ごめんなさいセシル。私達すぐダウンしちゃって」
ユーリはノルンとの決闘での事を真摯に謝っていた。
「本当だよな。お前らほんと使えねぇわ。あんな雑魚相手に秒ダウン?本当に勇者パーティの一員かよ。情けねぇなぁ」
だがセシルはいちいちトゲのある言い方で返す。
その言葉を受けて口答えしたのは剣聖のエルザだった。
「セシル、その言葉は聞き捨てならんな」
「あぁ?事実を言われたからか?お前らは無能だよ」
「何だと?」
エルザとセシルとの間にある空気が悪くなる。
「セシル、さっきの言葉を取り消せ。お前も結局はダウンしたんだろう?それなら変わらないじゃないか」
「何で俺が取り消す必要あんだよ。戦犯は俺じゃなくててめぇらだよ雑魚共」
「……」
唇を噛み締めるエルザ。
「あんな雑魚騎士相手に情けなくねぇのかよまったくよ。勇者としてほんと情けなくて涙が出てくるね」
そう言ってから彼は立ち上がるとパーティメンバーに声をかけた。
「まぁいい。むしゃくしゃしたからドラゴンでも狩りに行くぞ」
◇
ドラゴンを狩りにきた勇者パーティ一行。
彼らは竜の洞窟というダンジョンにきており、今1匹のレッドドラゴンと対峙していた。
ドラゴンの周囲には無数の雑魚モンスターの姿。
「俺が前に出る。てめぇらは雑魚なりに俺のフォローでもしてろ。ローザ、まとめ役は任せるぞ。その雑魚共を優先して何とかしてくれ」
「分かった!任せて!」
ローザはユーリ達に指示を出していく。
その一方で1人突撃したセシルは
「おい!レッドドラゴンの弱点教えろ!」
いきなりそんなことを叫んで後衛に聞いてきた。
しかし、誰も答えない。
「弱点何処だって聞いてんだろ?!」
「ごめん。知らない」
「私も知らないぞ」
ユーリとエルザがそう返す。
「は?お前ら脳みそ詰まってんのか?その頭は飾りか?もういい!」
セシルは強引に切りかかるが
「ぐあっ!」
弱点属性も理解しておらず、立ち回りも理解していないセシルはレッドドラゴンに吹き飛ばされた。
そして
「ぐぁぁぁぁぁ!!!!」
ドラゴンブレスによって焼かれるが、それから何とか逃げ出す。
「おい!撤退するぞ!」
そうして彼らはまんまとレッドドラゴンから撤退した。
Sランクパーティならば討伐は余裕だとされているレッドドラゴンを相手に、撤退したのだ。
「おい、いつも弱点教えてくれてたのお前らだろ?」
「違う。ノルンだ」
エルザが答える。
「あの雑魚が、か?けっ、どうでもいいとこで役に立ってたみたいだな」
そう吠えながらセシルは次の指示を出した。
「ストレス溜まったから帰るわ。おい、アイテム出せよ」
そう言ったがパーティメンバー達はお互いの顔を見るだけだった。
「おい早くしろ。俺は勇者様だぞ?」
「ごめんなさいですわセシル。誰もテレポートアイテムを持ってきていないのですわ。あのアイテムはアイテム持ちのノルンがいつも持ってきていたので」
賢者のメリーがそう答えた。
「なら、歩いてでいい。案内しろやゴミ共が。全く使えねぇなどいつもこいつも」
「誰か案内できる人いるの?」
ユーリがそう聞いてみたが誰も答えない。
そう、誰もこのダンジョンのマップが頭に入っていないのだ。
「イライラすんなぁ?!おい!地図出せ!持ってんだろ?!それ見て案内しろや無能共!」
セシルが怒鳴ってそれを聞いた女の子達が急いでマップを取り出したが
「……今何処にいるのかしら」
「……地図どうやって読むの?」
「そもそもこれはどの方向から見ればいいのだ?」
誰も地図の見方すら分からないのだった。
「お前ら地図も分かんねぇのか?!今ここだろうが!で、こういってこう進んで脱出だろ?!ノータリン共!」
「さ、流石ですわセシル」
「よし、それでいきましょう!」
エルザ以外はセシルに賛同のようだった。
そうして彼らはこの洞窟を進んでいくのだが、セシルの見方は全くの見当違いだった。
その後彼らはこのダンジョンを出るのに3日かかったという。
そして彼らが帰ってきたところを見た人の言葉によると、口喧嘩をしていたしみんなボロボロの体で今にも死にそうなレベルだったという。