5 決闘を受けたらまた簡単にレベルが上がってしまった
言われた通り中庭に案内してもらいやってきた。
真ん中だけが少し開けていて周りには花壇などがある中庭だった。
「きたな!人間!」
ビシッと俺に人差し指を突きつけてくる残念なクレア。
「この決闘が終わった時お前は返り血でびしょ濡れだろうな!ふははは!覚悟しろ!!私の勝ちだ!!」
それお前がやられてないか?
いや、そのいい方ならもしかして負けた方が勝ちなのか?
分からない。
何が勝利条件なのか分からなくなってきた。
「勝てるだろうか」
「心配ない。お前なら勝てるだろう」
そう言ってくれたリシア。
なら期待は裏切れないか。
そう思って俺は槍を持つとクレアの前に立った。
「私のパーフェクトスパーク三千世界惨殺剣・極を受けて返り血を浴びてない敵はいない」
返り血の意味が分かってないんじゃないのかこいつ。
「蛇殺しのクレアとは私の事よ!さぁ、来なさい!劣等種!この魔王軍最強のクレア様が倒してあげるわ!」
そこはせめてドラゴン殺しとかにならないのか?
なんてどうでもいい事を思いながら来いと言われたので攻めることにした。
「!!!」
言うだけはあるのか俺の速度に付いてきて俺の刺突を避けたクレア。
そして
「遅いよ!」
剣を振ってきたが槍で弾く。
【合計取得経験値66000。ガード成功6000経験値ボーナス60000】
【レベルが上がりました62】
視界の端にチラッと映ったのを確認しながら更に攻め込む。
「なっ!さっきより速い?!」
驚くクレアは咄嗟の飛び下がる。
だが俺もそう簡単には逃がさない。
それを更に追いかけて
「甘いよ!そんなもので蛇殺しの私を倒せるとでも思っているの?!」
しかしクレアの反撃。
さっきと同じくらいの刺突だ。
それを弾く。
【ジャストガード成功。合計取得経験値285,000。ガード成功120,000経験値ボーナス165,000】
【レベルが上がりました75】
「えっ……」
完全にクレアが反応できない速度のカウンターを放つ。
しかしそれがクレアの体を貫くことはない。
【カウンター成功。合計取得経験値1,150,000。カウンター成功250,000経験値ボーナス900,000】
【レベルが上がりました92】
俺がクレアを傷つけないようにギリギリのところで槍を寸止めしているからだ。
「終わりだよ、蛇殺し、だっけ。どう見てもお前の負けだ」
「み、見えなかった……」
そう呟いて膝から崩れ落ちるクレア。
「な、何も見えなかった……この私が目で追うことすらできなかった」
「勝負あったようだな」
リシアが近付いてくる。
その顔は満足そうなものでこの勝負の結果にも満足してくれていそうだった。
「経験値増加スキル、か。相変わらず性能がおかしいようだな」
「おかしいってどういうこと?外れで性能が低すぎるってことか?」
「逆だ逆。強すぎなのだ」
頷くリシア。
「レベルもかなり上がったようだな。ここまで上がれば敵などいないだろう」
そう呟いて笑う彼女。
「そんなに、か?」
「あぁ。私でさえ……いや。言うのはやめておこう」
「俺はリシアに従うよ。リシアがくれたようなスキルだ」
その言葉には答えずリシアはクレアに目をやった。
「相変わらずアホだなお前は。ノルンに勝てるわけがないと言うのに」
「だ、だってぇぇぇ!!!!」
子供のように叫ぶ彼女。
何だかかわいそうになってきたな。
「だってじゃない」
「うるさいもん!」
その姿を見て何となく謝りたくなってきた。
「あぁ、なんかいじめたみたいになってごめんな」
「うるさいもん!ばぁぁぁか!!!!」
そう言って走っていくクレア。
まるで子供だな。
「あいつなりに頑張っている。許してやってくれ」
見た目はまだまだ幼いのに大人な態度なリシアだった。
◇
その夜。
俺はこの城の地形を覚えるために魔王城を歩いていた。
その時
「あっ……」
「お前か」
座り込んでいたクレアに出会った。
中庭の噴水の縁に座っていた。
「何でここにいるのよ」
「散歩」
「嘘、笑いに来たんでしょ。弱いって」
「笑うわけないだろ」
「えっ?」
俺を見て驚くクレア。
俺は自分の過去を話すことにした。
ここに来るまでのことだ。
「ごめん、そんなことがあったんだ。酷いね、そいつら。私も何も知らないのにいろいろ言っちゃった」
「別に気にしてない」
「優しいんだね」
「そんなことはない」
人並みだろう。
そう思ったのでそう口にしたのだが
「ヨヨヨヨヨ……先生!」
「?」
何故かクレアが俺に抱きついてくる。
「私は感動した!先生と呼ばせて!」
「別に好きに呼べばいいけど、何で先生?」
「先生は先生だから!そうやって誰かの失敗を笑って許すなんて誰にでもできることじゃないよ!すごいこと。だから私はそんなすごい先生を先生って呼びたい!」
何故か先生呼びされることになった。
「私こう見えてもこの魔王城での生活は長いから分からないことあったら聞いて欲しい先生」
そう言って立ち上がる彼女。
もうその顔に悲しそうな色はなかった。
「なら、聞いていいか?」
「何?!何?!何でも聞いて!先生の質問ならなんでも答えるから!」
はしゃいだような様子で俺にそう詰め寄ってくるクレアに聞く。
「蛇殺しのクレアって言ってたけどこの辺りじゃ蛇を殺せることって凄いことなのか?」
その質問に苦虫を噛み潰したような顔をしてくれた彼女だった。
その反応を見て察する。
別に凄くはないみたいだな。