3 何故か決闘申し込まれました
「す、凄いです!凄いです!神様みたいでした!」
どうやら俺のことを神様みたいと言っているらしい。
檻の中から鉄の柵を掴んでそう言ってくるエルフの少女。
そんなこと言ってくれる人初めてだった。
俺はいつも優秀な弟と比べられて、そんなこと言われたことなんてなかった。
「別に大したことじゃない。それより出してやるから下がってくれ」
そう答えてから俺は槍を横に振って柵を断ち切ったのだが
「て、鉄ですよ?この柵……そんな低ランクの槍で切ってしまうなんて神業というのはこういうことを言うのですか?!」
確かに俺の持っている槍は低ランクだが。
「鉄だったのか?」
夜だからよく分からなかったため木だと思い振ったのだがまさか鉄だったとは。
そうやって話しているとリシアがいつの間にか近くに来ていた。
「見事だったぞノルン」
「ありがとう。全部リシアのおかげだ」
そう答えておく。
俺のレベルを上げてくれたのは彼女だ。
「余りにもノルンが不憫だったからな」
素直に感謝されることに慣れていないのか少し恥ずかしそうにする彼女。
「私これからどうすればいいんでしょう」
そんな雰囲気の中口を開いたのはエルフの少女だった。
「助けて頂いたのは嬉しいのですが……私は帰る場所がありません」
どうやら俺と同じ境遇らしいが。
俺とリシアは顔を見合せた。
「お前が引き取ってやれノルン。お前には頼みたいことがあるのだ。仲間がいた方が後々いいだろう」
「俺が?」
「契約魔法を使えば裏切れない。心配なら使っておけばいいだろう」
「悪いな。契約魔法を使わせてもらう」
そう言って俺は彼女に契約魔法を使った。
そうしてから名乗る
「俺はノルン。よろしくな」
「わ、私はミーナです」
そう返してくれた彼女の目は輝いていて俺の両手を取って顔を赤らめた。
「すごくかっこよかったですノルン様。そんなノルン様とこれからも一緒にいられるなんてこれ以上の幸福ありませんよ!私はいま世界で一番幸せ者です!」
「……」
どう答えていいのか分からなくて苦笑いしてしまった。
そうしてから立ち上がる。
「リシア」
「どうした?」
「俺にやらせたい事というのは?」
俺がそう訊ねるとニヤリと口元を歪める彼女だった。
◇
俺の横にはフードを被って尖った耳を隠すミーナ。
俺は彼女と共に始まりの町に戻ってきた。
「許せませんよねその勇者って人達」
横でミーナが視線を落としながらそう呟いた。
彼女は俺を励まそうとしてくれていた。
「ノルン様にそんな仕打ちをするなんて許しておけませんよ」
その時
「あれ、ノルンじゃないか。もう既に野垂れ死んでるのかと思ってたわ。はははははは」
バカにするような口調で話しかけてきた奴がいた。
セシルだった。
そしてその隣には俺以外のパーティメンバー。
ローザはセシルにべったりくっついていてもう俺に目を合わせようとすらしない。
「横の子は?」
「何だっていいだろ」
「良くないよ。お前みたいに使えないゴミ竜騎士の隣にいるなんて可哀想だよ。あ、お前なんかと一緒にするなんてゴミに失礼か。そうだな呼び方は【存在することがきもい奴】とでもしておこうか」
既に俺への嫌悪の感情を隠そうとすらしないセシル。
「お前邪魔だったんだよなノルン。お前を早々に追放すればローザの俺への印象が悪くなると思って黙っていたが内心ほんと邪魔だったよお前」
「セシルの方が強くてかっこいいから今はそんな事思ってないわ」
ローザもこの有様だ。
しょせん、人間なんてこんなものか。
俺が信じていたローザなど、しょせんは俺のこうあって欲しいという願望でしかなかったわけだ。
「……」
フードの中で嫌な顔をしているミーナが少し見えた。
しかし何も言わない。
「あ、そうだ、存在することがきもい奴」
そう言ってセシルは何かを取り出した。
そうして俺に手渡してくる。
「俺たちの結婚式場の日程が決まったからさぁ。招待状、あげるよ」
そう言って俺にその結婚式とやらの招待状を渡してきた。
「受け取れよノルン。お前の幼馴染祝福してやれよ?あぁ祝い金もよろしくな。お前の金で新婚旅行でも行って朝まで楽しむからよ。全財産よろしくな?」
受け取った。
「ははは。そうだよ。それでい……」
鼻で笑ってからびりびりに破り捨てた。
パラパラと地に落ちる紙吹雪。
それを見て口を開く勇者パーティ。
「……おい、俺様からのプレゼントに何してくれてんだ?」
「そうだ!貴様!ここで死にたいのか?!」
セシルの言葉に続いたのは剣聖と呼ばれた女のエルザ。
「そうよ!ノルン!貴方頭もスキルも悪ければ性格も悪いの?!いいとこなしじゃない!死ね!クズ!」
続くのは聖女のユーリ。
「最低ですわね貴方。死んだ方が良いのではなくて?」
そう口にしたのは賢者のメリー。
「貴様、俺からの送り物を引き裂くなど」
最後に、ワナワナと手を震わせているセシル。
「レベル5の分際で……外れスキルを貰った分際で……この俺を苛つかせるのか?」
だが俺はその言葉を無視して1人の獣人の少女に目をやった。
「エリー?」
俺が声をかけるとビクッとした少女エリー。
勇者パーティの補欠だ。
俺と同じ。
「今の言葉聞いたかい?君もいずれ俺のように捨てられるよ。俺と来ないか?」
「お前この期に及んで引き抜きか?」
「当然だ。彼女に罪はないからな」
勇者パーティの中でも彼女だけは特別だった。
俺を悪く扱わなかった。
「俺はお前らにゴミのように捨てられた。外れスキルでレベルが低い……それだけでゴミのように捨てるパーティにいさせたくないからな」
そう言ってからエリーに目をやった。
「どうだ?俺と来ないか?一緒に頑張らないか?」
「あっ……」
ちょっと悩んでいるような彼女にセシルが目をやった。
「エリー?お前俺様を裏切ればどうなるか分かってるよな?誰が拾ってやったと思ってるんだ?」
「どうなるんだ?」
「ベチャベチャうるせぇな!雑魚ゴミ竜騎士が!黙ってろ!」
俺に向かってそう吠えてくるセシル。
その後に剣を抜いた。
「殺して黙らせてやるよ。雑魚が。エリー?お前勿論残るよな?俺はお前をそこの雑魚騎士よりも使ってやった。捨てるわけないだろ」
そう言うが
「もう、散々なのよ!あんたら!」
いつもは大人しいはずのエリーが大声で叫んで俺の横に移動してきた。
「私抜けるから、あんた達ほんとに最低。口開けばノルンの悪口ばっかり。あいつは邪魔だ邪魔だって。ノルンだって貰いたくて外れスキル貰ったわけじゃないのに、私ノルンとやり直すから」
そう言ってくれたエリー。
プルプルと手を震わせて顔を上げるセシル。
「後悔すんなよお前!」
「誰がするもんか!このままあんたらの腐ったパーティにいて腐った空気吸わされるくらいならここでノルンと死んだ方がいいから!」
「てめ!」
怒りのあまりかセシルは目を閉じかけたエリーに掴みかかろうとした。
しかしその前に手を掴んだ。
「ちょっと言われたくらいでみっともない勇者サマだな。勇者なら何でもしていいのか」
「いいぜ竜騎士決闘だ!てめぇからぶっ殺してやるよ!1時間後始まりの草原に来い! 土の味教えてやるよ!」