20 なぜみんな国だと思うのだろう?
俺はいつものように目の前に表示されるウィンドウに目をやった。
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ダンジョン名:ゴブリンの森
攻略推奨レベル:99
攻略難易度:測定不能
ダンジョンマスター:ノルン
ダンジョン総コスト:無限
ダンジョンの広さ:測定不能
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「ふむ。大分上がったな」
というよりもうステータスが動かなくなってしまった。
これ以上上がらないらしい。
しかしステータス上のみで実際のダンジョンは広さに関してはまだ拡大しているようだ。
みんな頑張ってくれているようで少しずつではあるけれどダンジョンの広さが大きくなっている。
「マスター」
そうやってウィンドウに目をやっていた時システィナが声をかけてくる。
彼女がここにいるのはフロアマスターを他の者に移譲して俺のお付になってもらったから。
凄く優秀だったのでフロアマスターを任せておくのはもったいないとそう思った。
何というか剣の腕が本当にすごい。
ということで俺の護衛役もしてもらっている。
「お付に選んで頂き恐悦至極で……」
「いや、そういうのいいから」
「えっ?で、ですが、主の御前ですので……」
「固くならなくていい。それに主ってなんだよ」
「神様の事ですが?」
サラッととんでもないことを口にする彼女。
「あのなぁ、俺は神じゃないぞ」
「えぇ?!神様ではなかったのですか?!」
何故そこで驚くのだろう。
というより俺のどこに神の要素があるのだろうか。
「で、ですがゴブリン達からマスターは神様だと……」
「俺は神じゃない。せめて呼ぶなら主ではなくマスターにしてくれ」
「し、失礼しました。神様だと思っておりました……//////」
勘違いしていたことを恥ずかしがっているらしい。
そうして彼女はウィンドウに目をやった。
「誰か来ていますよ」
「ん?」
システィナの声に反応して俺もウィンドウを見た。
それはダンジョンの1番外側を映しているウィンドウ。
そこに映っていたのは女の子2人。
「エルザか。後隣にいるのは、ルエナ?」
俺のよく知る少女ルエナだった。
ルエナとは父親の付き添いで王城に行ったときに会ったことがあるので面識がある。
すごくいい子で優しい子だったのを覚えている。
「人間……またもや攻めてきたのですね」
立ち上がるシスティナが剣を握り今にも飛び出そうとしていたが止める。
「落ち着けシスティナ」
「で、ですがあいつらは人間。マスターを裏切った」
「いや、大丈夫だ」
何となく大丈夫なのは分かる。
だって、ルエナは俺の味方だったから。
「ま、念の為護衛として来てくれるか?システィナ」
「はい。喜んで!マスターのためなら例え地獄でもお供いたしますよ」
それは頼もしい話だな。
だが地獄までお供しなくてもいいのだぞ?
◇
テレポートで移動した俺はルエナ達と合流してから、とりあえず近くの村に寄ってもらった。
そこの酒場で話している。
中の様子は一般的な酒場と同じだ。
カウンターがあってテーブルがいくつもあって騒がしい。そんな普通の酒場。
「という訳なのです」
ルエナから今までの話を聞いた。
俺が出ていってから勇者パーティは酷くなりそのせいで勇者パーティに溜まっていたヘイトが今度はガロン王国に向かっている。と、そういうことらしい。
そして、リヴァイアサンの暴走は王様が考えた、と。
大体の話は分かった。
「それで?」
「移住させてはくれませんか?」
ルエナがそう口にした時丁度ダークエルフが俺たちに水を持ってくる。
「ところでここダンジョンですよね?」
「ん?ダンジョンだけど、どうしたの?」
「い、いえ、ダンジョンに酒場があるなんて不思議な感じなので」
「普通はないのか?」
「な、ないですよ?!もう、ダンジョンというか国じゃないですか?!」
そうなのか。 俺も初めてダンジョンを経営するので知らなかった。
でも俺は国を作っているつもりはないしなぁ。
そう思いながらも先程の質問に答える。
「移住したいと言っていたけどいいよ。ただし条件がある」
リシアとも以前話し合った。
彼女は戦争が好きではない、と。だから友好的な人間なのであれば受け入れてやってくれ、と。
だが無条件で受け入れてはスパイが混ざっていた時大変だ。ということで条件を設けてある。
それをルエナに説明する。
「条件、ですか?」
「うん。先ず、武器はこちらで預かり更に魔力の使用は禁じさせてもらう」
「そ、そんなことまでできるのですか?!」
「できるよ。普段は攻撃魔法の使用は禁止してるしね」
喧嘩が起きた時に魔法を使われたら取り返しが付かないこともあるかもしれない。
そういう事を考えて俺は禁止にしている。
特に魔力の高い種族であるダークエルフの魔法は洒落にならない。
だから制限をかけているのだが酒場を見る限りどの種族だって関係なく親しげに接している。
問題はなさそうに見えるが。
ま、念には念を、というやつだ。
「構わないなら受け入れるし、ダメなら悪いけど帰ってくれ」
「い、いえ構いません。というよりよろしくお願いします」
彼女は椅子から立ち上がると土下座した。
「ルエナ姫?!」
隣にいたエルザがしゃがみこみ心配そうに支える。
静まり返る店内。
全員の視線が俺に突き刺さる。
「か、勘違いするなよ?!させた訳じゃないぞ?!」
必死にみんなにさせている訳では無いことを伝える。
しかし
「ノルン様。我々にも土下座をお許しください」
1人のダークエルフがそう言って土下座を始めた。
おい、何をしているのだ?!
それに続くように何人もの奴らが土下座を始める。
「我々はこのダンジョンに来てから日々を幸せに過ごす事が出来ています。それは全てダンジョンマスターであるノルン様のお陰です」
「それは分かったから顔を上げてくれ」
そう言ってみたが今度は別のゴブリンが口を開いた。
「いえ、上げられません。我々の体がノルン様の顔を見て自然とこうしたがっているのです。それだけ世界で1番素晴らしい貴方に感謝しているのです。是非とも感謝させてください。今ここで感謝することすらできず、我々が顔を上げてしまえば罪人のような悶々とした気持ちで生活しなくてはならなくなってしまいますから」
そこまでか?と思ったが、まぁ、したいならさせておこう。
俺は皆が顔を上げるまで座って待っていた。
「ノルン。移住の許可をしてくれて本当にありがとうございます。感動で涙が止まりません。これだけ感動したのは生まれて初めてです」
俺の目の前で涙を流し始めるルエナが口を開く。
「本当にこのような世界一素晴らしくて立派な国に移住出来るなんて夢のようです!」
「国じゃないよ、森だし、ダンジョンだし」
ポカーンと口を開けるルエナ。
それから数秒
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!!!国じゃないんですか?!!!!」
ルエナがそれを聞いて何故か叫ぶ。
なぜみんなこの森を国だと勘違いするのだろう?
俺には分からない。