19 【王都サイド】 一方王都では
sideルエナ
今はもういないセシルが権力を振りかざしていた王都ガロン。
そこには当然善良な人たちも存在した。
この王女ルエナこそがその筆頭。
「父上!父上!」
「どうしたルエナ」
王の間。
そこにある玉座に座るガロン王が娘のルエナに声をかける。
「何をそんなに騒いでいる。王族たるもの常にどっしりと構えていろ」
「そんな馬鹿なこと言ってる場合ですか?!滅びますよ!この国!」
「馬鹿なのはお前だ。俺とイナームが支配している国が滅ぶわけないだろ?」
「資料を見ていないんですか?!ノルンがこの国を去ってから友好的だった国の殆どがガロン王国との関係を断ち切っていますよね?!」
そう言ってルエナはガロン王に向かって紙を突きつける。
そこにはノルンが去る前と去ってからのデータが表示されていた。
魔王領ともっとも近いガロン王国は食料の殆どを輸入に頼っていた。
モンスター達に荒らされるため農作物が育たないのだ。
そして現在食料の輸入が殆ど断ち切られている。
今の輸入量は前と比較してなんと━━━━99%減だった。
「私たち王家の人間は食べることが出来ています!しかし国民の殆どは食料が大幅に高くなってしまって困っています!それが分かっているのですか?!」
「民がいくら食えなくてもいいよ。俺は食えてるし」
「なっ!馬鹿なのですか?!」
いくら親族とは言えルエナもその馬鹿さ加減に思わず素直な意見を口にしてしまう。
「そもそもさ99%減ったのも、たまたまだろ?ほら最近モンスターの攻撃が凄まじいし他国も物を運びたくないから一時的に輸出止めてるだけだって」
「考え直してください!明らかに偶然じゃないですよ!ノルンがいなくなってから、他国からの勇者への苦情も凄かったですよね?!『他人の家に入って棚や花瓶を割る』とか『引き出し勝手に開けて金を取っていく』とかそんな苦情多かったの知らないんですか?!ノルンがいなくなる前までこんな苦情ありませんでしたよね?!」
それはノルンがセシルを咎めていたからだ。
セシルが何かしようとする度にストッパーであるノルンが止めていた。
しかしそのストッパーがいなくなれば、当然セシルは何でもやる。
何をしても許される勇者の立場を利用して。
それに対して我慢できなくなった他国がついに輸出を打ち切った、そういう形だ。
「この国滅びますよ?」
「滅ばないって。俺が統治してるんだし。ノルンなんていう無能が1人消えたくらいで何か変わるわけないだろ」
その自信が何処から来るのか分からず頭を振るルエナ。
「そうですよ。ルエナ姫」
その横から声をかけるイナーム。
「我々がいる限りこの国は安泰ですよルエナ姫。むしろ我が愚息ノルンのやつは足を引っ張っていました。追放は当然のことですよ」
「呆れました。まだ誰が1番無能だったのか分からないのですか?私はこの国を出ます」
ルエナの宣言を鼻で笑うガロン王。
「勝手に出ていけよ無能。この私を馬鹿と呼ぶ愚かな娘が1番無能だ」
「そうですよ。ノルンが1人いなくなっただけでダメな方向に進んでいると考えるなんて本当に無能な方だ」
2人がルエナのことをそう言って笑うがそれを気にすること素振りもないルエナ。
そしてこうしてこの国からまた有能な人材が消えていくことに気付かない2人。
もう破滅まで秒読みかもしれない、とルエナは思う。
だがそんなことも知らずに彼女を無視してイナーム達は会話を続ける。
「イナームよ、リヴァイアサンは暴走させたな?」
「はい。海の神リヴァイアサンを暴走させ四天王の1人を倒そうとしましたが逃げられたようです。ですが、リヴァイアサンの暴走は止まりません。いずれ魔族の数を大きく減らしてくれるでしょう」
「そうか。よくやったぞイナーム」
2人がそう会話していたその時
「た、大変だぜ!親父!」
1人の男が無遠慮に入室してきた。
その男はイナームの息子で、ノルンの弟でもあるゴージーン。
「リヴァイアサンが倒されちまった!」
その一言でイナーム達の間の空気は悪くなる。
「イナーム貴様。任せておけと言ったな?早速熟考した作戦を潰されているではないか」
「も、申し訳ございません」
「この無能が!あの作戦にどれだけの金を投じたと思っている?!それで四天王1匹追っ払っただけか?!」
土下座するイナームの顔に王様の蹴りが入る。
「がっ!」
「分かっているのか?今のこの国の立ち位置が!我々が先導してきた勇者育成計画が失敗しているのだぞ?!それに関して少なからず他国は不信感を抱いている。払拭しなければならないのだぞ?!」
一番状況が分かっていないのはお前だろ、とは誰もが思ったことだろうが王という身分上誰も言わない。
「あれほど慎重にやれと言っただろ?!イナーム!」
「も、申し訳ございません。ぐはっ!」
また王様の蹴りが入る。
何度も何度もイナームの顔を蹴る。
それを見たルエナは今度こそこの部屋を後にする決意をして去り際に呟いた。
「最後にもう一度言います。この国は破滅しますよ。では」
◇
「エルザ、行きますよ」
「はい。姫様」
かつて勇者に仕えていた剣聖エルザ。
彼女は今ルエナと共にあった。
「ですが、何処へ向かわれるのですか?ルエナ姫」
「ここより少し行ったところに、ノルンが支配しているゴブリンの森と呼ばれる国があるみたいなのです。噂で聞きました」
それを聞いて戸惑いながら首を傾げるエルザ。
「えっと……申し訳ございません。よく聞き取れませんでした」
「ゴブリンの森と呼ばれる国に向かいます」
もう一度言われて自分の耳が正しいと確信したエルザ。
それでも戸惑っている。
「あ、あの森なのでしょうか?国なのでしょうか?」
「へっ?」
ルエナ姫はようやく気付いたらしい。
難しそうな顔をする彼女。
「たしかに……森なの?国なの?」
「そういえば、この前あそこに行った時見慣れないものが沢山ありましたね」
勇者と共に向かった時見慣れないものが沢山あったのを思い出すエルザ。
「とにかく行ってみましょ」
「で、ですがノルンは我々と会ってくれるでしょうか」
「ノルンは根は優しい人です。きっとこっちも誠実にいけば会ってくれますよ」
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