17 奴は四天王最弱
決闘を始めて何十秒か経過した。
数度こいつの剣を見て思ったがこいつ自体はそう強くない。
まだ何か隠し玉でもあるのだろうか?
そして少ししか動いてないのにもう息が上がりつつあった。
まさかこれも何らかの罠なのだろうか。
「ぜー、はー、ぜー、はー、の、ノルン、何処ぞの神話に登場する運命の女神の名だったな」
俺は名乗ってもいないのにミリオーネは俺の名前を知っていた。
「だが、ここで証明してみせよう。運命など定められていないということを。私はお前を完膚なきまでに叩きのめそう。それが運命に抗する者の使命だ。うぉぉぉぉ!!!!」
ガン!
先程と変わらないくらいの軽い一撃を弾くと彼女が飛び下がる。
「ぜー、はー、ふっ、やるではないか。お前が運命の女神そのものなのか、女神に愛された存在なのかは分からない。しかし運命がお前の勝ちを決定しているのならば」
彼女は今度は杖を持ち出す。
「私はその運命すら覆そう。運命など存在しない!私が運命貴様を否定しよう」
そう言って何かをしようとする前に一言言っておくことにした。
「あんたよく喋るな。しかも厨二病みたいなことばっか恥ずかしくないのか」
決闘中だというのによく喋る。
「うるさい黙れ!全力で叩き潰してやる!」
そう言うと彼女は魔法を使った。
その時
「ノルン!気をつけろ!それを発動させるな!国が1つ潰れる技だ!」
リシアの声が聞こえた。
その時には遅かった。
目の前に大量のアンデッドの軍団が現れる。
その数は気付けば100はいるかのような物になっていた。
人型のものからモンスターのもの、更には空を飛び回るものもいる。
「何だこれ」
「いけ!我が不滅の軍勢よ!その男を叩き潰すのだ!あ、後は頼んだぞ……ガクッ……」
ミリオーネが倒れる間際にそう指示を出した瞬間俺に詰めかけるアンデッド達。
そして今一斉に飛びかかってきた。
というかお前体力無さすぎるだろ?!
「恐れおののけノルン!!その軍団は私を四天王まで導いた最強の軍団だ!ふははは!!!魔王様ですら傷だらけで倒した軍勢!お前如きでは太刀打ちできまい!!!」
なるほどあいつは本体ではなくこいつらが本体なわけか。
その本体の召喚を許してしまった。
どうしよう。
仕方ない。とりあえず何かしてみよう
「ギィィィィィ!!!!」
飛び掛かってくるアンデッドの軍勢。
それを
「ウィンド」
俺はウィンドで吹き飛ばした。
吹き飛ばした軍勢は起き上がる気配がしない。
なんにせよ距離を離すことに成功している。
今詰めない手はない。
足早にミリオーネに近付く。
「なっ!お前……何で……」
目の前でミリオーネは倒れたまま首だけをこちらに向けて俺を信じられないような目で見つめる。
「何?」
何を言ってるんだ?
声を聞きやすくするために近寄ると
「く、来るな!」
それに合わせて這いずる彼女。
「なっ!どうして!私の軍団は不滅だ!不敗だ!何故お前があの軍団から逃げ出せた?!囲まれたら最後だぞ?!その軍団にお前は囲まれた!!!」
どうしたも何もって特別なことなんて何一つしていない。
何をそんなに大声で喚いているのかの方が気になるが。
どうやって答えようかと思ったけど普通にやったことを答えることにした。
「え?あぁ、普通にウィンドで吹き飛ばしたよ」
「吹き飛ばした?!何人いたと思ってるんだ?!」
「100くらいじゃないのか」
俺の目にはそう見えたが。
これが特別な事だとは到底思えない。
「そ、そんなこと出来るわけが……」
驚いているミリオーネだが、その彼女の首元に槍の先を向けた。
「ゲームオーバーだ」
「くっ……」
そこでようやく負けを認めたのか首を向けるのをやめてうつ伏せで寝転がった。
「わ……私が……負けたのか……?」
構えを解くと槍から手を離し異空間に繋がるアイテムポーチにしまい込んだ。
戦闘終了したがもう俺のレベルは上がらない。
カウンターが完全にストップしているからだ。
「あぁ、お前の負けだミリオーネ」
いつまでも寝かせているわけにもいかない。
しゃがんで起こす。
「くくくく……ふはははは。この私が負けるとは、これが敗北の味というものなのだな。存外悪くない」
負けてもこの性格は治らないらしい。
立ち上がるミリオーネ。
それからビシっと俺に右手の人差し指を向けた。
「よし、お前を私の婿にすることにしよう。結婚してくれ」
何を言われたのか分からなかったので頭がフリーズ。
彼女がそう宣言した瞬間場が凍り
「「「「えぇぇぇぇぇぇ?!!!!」」」」
ミーナ達が叫ぶ。
「私は昔から決めていたのだ。婿にするなら私を倒す相手にしよう、と。というわけだ、お前が私のことを好きになるまでストーキングしてやるから覚悟しておけ」
ストーキングするなら俺に宣言するなよ。
「それからクレア。お前には悪い事をしたな」
「ううん。いいよお姉ちゃん。私こそごめん、お姉ちゃんを倒して四天王の座を奪おうとして後ろから奇襲して」
そう和解している2人。
というよりクレアさん?!本当にお前が悪いのかよ!それよりも奇襲なんて卑怯だな?!
だが、そんな会話を聞いて尚笑っているリシア。
「中々面白いもの見せてくれた。まさかミリオーネまで倒してしまうとはな。お前は私の期待に応え続けてくれるな」
その時そう言えばとエリーが呟く。
「魔王様さっきミリオーネの不滅の軍団は自分でも何とか打ち破れるほど強力って言ってたよね?」
「ふむ。そうだな。ミリオーネのあれは発動させれば中々止められない」
「それをあっさり止めたノルンって魔王様より強いの?最強の魔王様をノルンが抜いた、つまり?」
「やめろ。その先を言うでない。魔王の威厳とかに関わるからな。では、私はこれで帰るぞ」
リシアがそう言ってスタスタと歩いて帰っていった。
「私のノルン様が世界最強だと証明されてしまいましたね♡」
ミーナがそんなことを言っているが。
最強?この俺が?
「くくく……やはり私の婿は世界最強でなければ務まらない」
ミリオーネが呟いたその時。
「無様なものね。ミリオーネ。それにしても負けただけで求婚だなんてチョロすぎるよね」
また声が聞こえた。
そちらに目をやると青髪の少女。
「それよりも人間そいつを倒したから、と調子に乗らないでね?ミリオーネは四天王最弱。何でそんなに弱くて四天王になれているのか分からないくらいにね」
そう言いながらこちらに歩いてくる少女。
また戦うのか?と思ったが
「ぐっ……」
少女が地面に膝を着く。
よく見ると全身怪我だらけ。
どうやら戦える状況ではなさそうだし連戦の可能性はなさそうだ。