14 勇者パーティ一瞬で壊滅
ダンジョンの最奥で俺はウィンドウに映るセシル達の動きを見ていた。
奴らは一番外側の居住フロアに到達したところだった。
さて、どうなるか。見させてもらうとしようか。
「あぁ、何で俺がこんな雑魚のくるダンジョン、ゴブリンの森に行かされないと行けないんだよ。てか森はどこにあんだよ。あるの村じゃねぇかよ。てかこんなところに村なんてあったか?」
セシルはやはり愚痴愚痴文句を言っているようだった。
「仕方ないわセシル。今の私たちはこのダンジョンからやり直すべきなの。返り咲こうよ皆が土下座する勇者パーティに」
「ローザがそう言うならそうなのかもしれないな」
セシルとローザの仲はいい感じになり、周りの奴らもそんな2人の考えに同意を始めていた。
しかし
「何を言ってる?地図すら読めない、無能な勇者がいる今の私たちにはお似合いのダンジョンじゃないか」
それと引き換えというようにエルザとセシルの仲は悪くなっているらしい。
「無能なお前が追放したノルンがいなければ低ランクダンジョンの1つも突破できない私たちにはいい難易度だと思うが。なぁ?赤ちゃん勇者?」
「うるせぇよあれは事故だ」
セシルが全てを払い除けるように手を振りそう言い返す。
「あれが事故、か。お前は何も反省しないのだな、セシル」
「あぁ?!」
喧嘩腰のセシルを冷めた目で眺めるエルザ。
「ユーリ、メリー、悪いが私はこの戦いが終わればこのパーティを抜けようと思っている」
とんでもない事をサラリと口にした彼女。
「な、何で?!」
「な、何故なのですか?!」
ユーリもメリーも驚いたような様子でエルザに問いつめる。
それを受けて返事をするエルザ。
「目が覚めた。それだけだ」
そう言ってエルザは黙ってセシルに目をやった。
「今まで世界を救う勇者だったから遺憾ながらお前に従っていたし太鼓持ちをしていた。しかしもうその必要は無い」
「は?太鼓持ち?何を言っている」
「お前に従っていたのは本心ではないとそう言っている」
「本心だろうが何だろうが知らねぇよ。お前は黙って俺に従えばいい。俺は勇者だぞ?」
「立場に縋ることしか出来ない哀れな男なんだな、お前は」
セシルの言葉に冷たい言葉と表情で返すエルザ。
その目は本当にセシルを嫌悪しているのだとこっちも理解できるほど冷めていた。
「貴様にはこれ以降はついて行かないと口にした。私は聖騎士。お前のような穢れた存在にこれ以上は同行しない」
「お、お前!勇者であるこの俺が穢れているだ、と?!」
掴みかかろうとするセシルだったがその手はエルザに届かなかった。
軽やかな動きでそれを避ける。
「哀れだなお前」
それを冷ややかな目で見つめるエルザ。
もう2人の間にできた溝ははっきりと目に見えるような物になっていた。
「な、何だと?」
「残念な人間だ、と言った。勇者である事しか誇れるものがなく、それに縋る哀れな男だ、と」
「き、貴様ぁぁぁ!!!!」
「や、やめてよ2人とも!」
ローザが止めようとするがどちらも止まらない。
セシルは必死に暴力で解決しようとするが、エルザはそんなセシルを更にけなす。
「そうやって暴力に訴えることしか出来ないのは図星だからか?」
「お前が生意気なことばっか言うからだろ?!!!謝罪しろ!この俺に!!この俺様に!!!」
「謝罪するとしたらお前にでは無く、ノルンに、だな。彼には酷いことをした」
「はっ?!あのゴミに謝る前に俺だろうが?!泣いて許しを乞えよ!虫けらが!」
「もういい」
エルザが先に折れた。
「お前と言い合っても平行線だ。最後、お前を見届けようかと思ったがそれも無駄なようだ。これをもって私はこのパーティを抜ける。ではな」
そう言ってまだ何か言っているセシルを無視してダンジョンとは真逆に向かい始めた。
その際に振り向いてローザに目をやった。
「貴様にも言っておくことがあるなローザ。貴様にノルンは勿体ない」
「え?」
「あいつは才能もない。特別なスキルもない。でも努力だけは人の何倍もしてきた。私はそれを知っている、そこの神頼みで強くなっただけの勇者とは違う。それだけ努力できる人間の相手はお前のようなつまらない女では勿体ない。それだけだ」
「おい!お前!」
セシルの叫び。
しかしそれを無視してエルザはダンジョンを後にした。
何が起きたのか俺もよく理解出来なかったがエルザがもうセシルの元に帰ってくることはないのだろうということは理解出来た。
「けっ……何なんだよあいつ」
エルザが消えていった方を見つめてポツリと呟いたセシル。
それを見て声をかけるのはパーティメンバー達。
「全くですわね。このタイミングでセシル様から離れるなんて脳みそが詰まっていないですわ」
「そうよね。あんな馬鹿は放っときましょうセシル」
メリーとユーリが必死にセシルの機嫌を直そうとしている。
「そうだな。剣士枠はまた別の奴を連れてきたらいいだろう」
そう言ってセシルは視線を戻す。
このダンジョンの奥に向かって、だ。
「さぁ、行こうぜ。森までまだまだ距離があるしな。てかこんなところに村なんてあったか?てか何だよあの砦。あんなものつい最近までなかったよな」
そう言いながらも進み始めたセシル。
「どうするのですか?」
隣にいて同じものを見ていたミーナが声をかけてくる。
その質問には答えずに俺はダンジョンマスターとしてセシルの近くにいるダークエルフやゴブリン達に指示を出す。
さて、勇者か。俺の育てたこのダンジョンを試すにはいい相手だ。
彼らは俺だけに分かる合図を出すとそのままセシル達の方に向かって歩いていく。
そして
「けっ!ゴブリンか!早速出やがった!てか、何でこいつら家から出てきて服なんて着てんだよ?!有り得ねぇだろ常識的に考えて!ゴブリンだぞ?!」
セシル達と戦闘を始めようとしていた。
「ゴブリン共が!俺の剣の錆になりやがれ!」
セシルが単身で突っ込んで剣を振ろうとする。
しかし
「な、なに?!」
ゴブリン達は連携を取って動く。
俺が教えたのだ。
「そんな?!ゴブリンの動きが?!」
「せ、セシルが囲まれてる!」
ローザの目に焦りが浮かぶ。
「せ、セシル様?!今お助けしますわ!吹き飛びなさい!フレア!」
メリーが魔法を使おうとしたが、それは不発に終わる。
「なっ!魔法が使えませんわ!どうして?!なっ……ダンジョン内特殊効果で魔法無効化ですって!こんなもの今までなかったのに!!!」
そうしている間にもセシルは追い込まれている。
「は、早くしろ!無能共?!勇者の俺が死んでもいいのか?!」
セシルがそう吠えた時澄んだ声が響く。
「主の御前です。大声を出さないように、それと立場を弁えなさい賊」
「だ、誰だ!!」
「私は主よりこのフロアを任されたフロアマスター。ダークエルフのシスティナ」
そう名乗るダークエルフの少女。
サラサラとした銀髪を肩で切りそろえた美少女。
広くなるダンジョンの管理が追いつかなくなった俺は管理を移住者の彼女にも任せることにしたのだ。
「セシル様を解放しなさい!ダークエルフ!」
それを見てメリーがロクに武器もないのに突っ込む。
魔法も使えないのにどうするのかと見ていたら杖でシスティナを叩こうとしていた。
しかし
「ダークソード」
ダークソード、剣に闇をまとわせ攻撃時に相手に様々なデバフ付与する剣士専用技なのだが、彼女はそこから更に進化させている。
到底当たらない距離での一振。
「「「きゃぁぁぁぁあぁ!!!!」」」
しかし次の瞬間剣から飛び出した斬撃波が勇者パーティを襲った。
勇者のセシルだけは素のステータスで耐えたみたいだが
「ぐぁぁぁあぁぁあ!!!!」
既にボロボロだった。
満足のいく結果だったな、合流しよう。
「無様なものだなセシル」
奴の真ん前に現れそう告げるとボロボロの姿で俺を見上げるセシル。
奴がそうしている間もシスティナが声をかけてきた。
「マスター、お下がりを。このような穢らわしく薄汚い雑魚の相手、私がいたしますよ」
雑魚と言われても怒り狂わないセシルの目は驚きで大きく開かれている。
「の、ノルン……?」
その顔には絶望の色だけがあった。