13 俺がいなくなって町がやばいらしい
リシアは工房を見たあの後も俺の案内する先でいちいち何故か驚いていた。
「ゴブリンが喋ってる?!」
「ゴブリンが農作業をしている?!」
「待て待て待て待て待て!!!!レベル70のゴブリンって何だ?!スライムもレベル58?!」
「移住者って何だ?!しかもダークエルフが移住してきたのか?!自分たちの領域から出てこないと言われているあのダークエルフが、か?!」
と何故か騒いでいて、騒ぎ疲れたようで今はマスタールームで寝ている。
ちなみに生活に必要なものもゴブリン達が作ってくれたからあの部屋で不自由なく生活できるようになった有難い話だ。
で、俺は報告があると言うクレアを連れてダンジョンの外に来ていた。
報告があるとのことらしいが何だろうと思いながら歩いていたら
「あれだよ、先生。最近人間が武器を持ってここの辺りでウロウロしてるんだよね」
クレアが指を指した方向に目をやる。
見覚えがあるのが何人かいる、始まりの町に暮らしていた人達が傷だらけの体で集まっているようだ。
関わりたくはないが話を聞くためにもそっちの方に向かうことにした。
「お前たち何をしている」
「の、ノルン様……」
何故か俺を見てそう呟いた町民。
その顔は見覚えがあった。
たしか、俺に果物を売ってくれなかった店の店主だ。
「お前は店主だろう?何故こんなところで武器を持っている」
「そ、それは………申し訳ございませんでした!」
俺に向かって勢いよく頭を下げる店主。
いきなりのことで困惑だ。
「どうしたんだよ」
「私達は酷い勘違いをしていました。貴方をありもしない罪で迫害してしまった。謝罪します。どうか我々の町に戻ってきてはいただけませんか。今の我々の町は貴方なしでは成立しないのです」
「どうして?」
「誰も報酬の低い低ランクの依頼を受けてくれないのですよ。それで最近ここの辺りにモンスターが増えだしてしまって物を運ぶ馬車が襲われているのです」
俺が経験値稼ぎのついでに受けていた依頼のことか。
たしかに誰も受けない依頼だ。
簡単な分報酬も経験値も不味いから。
俺が受けなければ1週間残っているようなものもザラにあった。
それが今誰も受けないせいで溜まりに溜まっていて手に負えなくなった、というところか。
「そのせいで我々の町はもはや機能停止しつつあるのです。外部の人達はそんな危険な道を通りたくない、と誰も物を売ってくれず……このままではダメだと思い私たちがモンスターを討伐しようとしたのですが、スライムすら倒せず、このままでは滅んでしまいます」
「ふーん」
「ふーんって……ノルンさん?」
「俺関係ないし」
そう言ってクレアに目をやった。
「こいつらが集まってた理由これらしいけど。俺達には関係ないな」
「そーだねー。見に来た意味あんまりなかったね」
2人で頷いて踵を返そうとしたが
「ノルン様!それでもどうかお助けを!」
しつこく俺にすがりついてくる。
「しつこいなぁ俺には関係ないって言ったよな?」
「ちょっとその汚い手で先生に触らないでくれる?」
クレアも軽蔑の目で見ていた。
「あんた達困ってた先生に何も売らなかったくせに今度は自分たちが困ると助けを求めるって都合良すぎだよね」
笑いながら町民達を見るクレア。
「本当に先生が助けてくれると思ってるの?自分たちで追放したくせに戻ってこいとか笑えるんですけどー。勝手に滅べば?自業自得だよね」
クレアの言ってることは何も間違っていない。
俺も戻るつもりは無いしこいつらに手を貸してやるつもりもない。
「の、ノルン様?!」
それでも声をかけてくるが無視して歩いていく。
「お願いします!ノルン様!考え直してください!勇者パーティはどんどんおかしくなっていっていて私達には貴方しかいないんです!」
「ぷぷー面白いねー先生。スライムにすら勝てない人達が世界最強の先生を迫害してたんだって!それで戻ってこいだってー笑っちゃうよねー」
町民達のことを指をさして笑うクレア。
「あ、謝ります!ノルン様!どうか1度だけでも構いません依頼を!」
「先生どうせこいつら用済みになったら先生のことまた迫害するよ」
「し、しませんから!戻ってきてください!」
そう言っている町民達に目を向ける。
「の、ノルン様?!受けてくれるのですか?!」
「悪いけどお前らのこと何とも思ってないからさ。ほら、俺今魔王様に拾われたんだけどいい人だからその人の近くでのんびり暮らしたいんだよね。お前らみたいに陰湿な嫌がらせしてこないし」
何を期待しているのかしらないけど俺は絶対受けないよ。
「俺は知らないし興味ないから町も勝手に滅んでいればいい」
さて、報告は聞いたし帰ることにしようかと思ったら
「先生見てー私あやとりっていうの練習したよー」
「お、上手いじゃないか。ちなみにどういう形なんだ?これは」
「えへへー。こっちが私でこっちが先生!放課後の教室で私と先生は禁断の……きゃーーー♡」
1人で悶え始めたクレア。
しかしその隣では
「も、もう終わりだ……」
絶望している町民達の姿。
「馬鹿勇者が悪いんだ……全部あの馬鹿勇者が」
もう既にセシルの信頼は無くなりつつあるらしい。
「ノルン様を追放したせいで今まで成功していた依頼も失敗……ほんと馬鹿な勇者だ」
「ん?何か失敗したのか?」
気になったので聞いてみる。
「え、はい。勇者はドラゴンの討伐に失敗しています。それで今の勇者には沢山の不満が集まっています。勿論、勇者育成計画を考えている王様やノルン様のお父様の評判もかなり落ちています。中には彼らを皆殺しにして新しく王様になろうと考えている暴徒までいると聞いていますよ」
「そうなんだな」
それはいい話を聞いた。
人間サイドはかなり乱れているらしい。
「全てノルン様が欠けてからです。我々はなんということをしてしまったのだろうか……」
「うん。そう思ってるなら滅べばいいんじゃないかな」
「そ、そんな……」
俺はクレアに目をやって今度こそダンジョンに戻ることにした。
◇
マスタールームへ戻ってきた。
リシアが起きている。
さっきまでのことを報告しておこうか。
「ふむ。人間サイドはお前が欠けた事でそんなに乱れているのだな。やはりお前は元が有能だったのだな。誰が本当の無能かも分からないなんて馬鹿な奴らだ」
そう言ってくれるリシア。
優しい人だ。
「と、それとな。私からも話がある、先程部下から聞いたのだがな」
「何を?」
真面目な顔をする彼女に俺は問い返した。
改めて俺に伝えたいことというのは何なのだろう。
「お前を追放した勇者パーティがこのダンジョンに来るらしい。丁重にもてなしてあげろよ?」
ニヤッと人の悪い笑みを浮かべるリシア。
そうか。奴らが来るのか。
しかもこのダンジョンに、何が目的か知らないが俺のダンジョンがどれだけ成長したのか、実験台になってもらおうか。
ボコボコにしたいなぁ。