12 【勇者サイド】 最後のチャンス
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side勇者パーティ
ノルンがいなくなりモンスターの弱点部位や属性すら分からなくなった勇者パーティは文字通り何も出来なくなっていた。
それどころか次のダンジョンに必要な道具を持っていかなかったり、ダンジョンの地図を間違えるなどのそれ以前の問題も山ほどあった。
これらは全てノルンがやっていたこと。
ノルンはこのパーティの心臓だったのだ。
そんな心臓がなくなった状況でも依頼のために向かったEランクダンジョンですら死にかけになった勇者セシルは王都に戻ってきていた。
今日の依頼はスライムの討伐。
それすらできなかったのはスライムは物理を無効化することを彼らが知らなかったからだ。
ただやみくもに剣を振り続けて倒せるわけがない。
「くそぉぉぉ!!!!!」
酒を飲み鬱憤を晴らすかのように叫んでいた。
「まぁまぁ、セシル様。あのダンジョンは最近難易度が上がったと聞きます。そんなに焦らずとも」
そんなセシルを嘘しか含んでいない言葉でメリーが宥める。難易度なんて低いままだ。
しかし
「うるせぇ!黙れよ!」
凄まじい剣幕で迫るセシルを見て後ずさるメリー。
彼女はそれを見て口を閉じてしまう。
「おいおい、勇者それはないんじゃないか?」
「そうだぞー?勇者ー」
しかしそれを見た周りの客からブーイング。
「あぁ?てめぇら?!誰に向かってそんなこと言ってやがる?!」
いつもならこれで黙るはず。
しかし
「てめぇだよ雑魚勇者」
今日ばかりは黙らなかった。
それどころか、黙る黙らないの次元じゃなかった。
「そうだぞ雑魚!他人に当たってもお前が弱い事実は変わんねぇぞ?!」
「可哀想な女の子達だな。そんな雑魚勇者のお守りさせられて、いや1番可哀想なのはお前みたいな雑魚に追放されたノルンか」
「こんな雑魚に追放されるなんてな。ほんと可哀想だわノルン」
酒場内はセシルを責める言葉で溢れつつあった。
「なん、だと?!お前ら!誰が世界を守ってやってると思ってんだ?!がっ!」
バキッ!!
突如セシルを襲う殴打。
「誰なのか教えてくれや雑魚勇者さんよぉ。お前は酒飲んで寝てるだけの無能だろ?皆知ってるんだぜ?弱点部位や弱点属性の調査、パーティへの指示、面倒なことは全部控えのノルンに押し付けてた無能だって。だからそのパーティの主軸がいなくなったからEランクダンジョンすらマトモに攻略出来ないんだろ?雑魚がよ」
「ぐっ……」
セシルの胸ぐらを掴んで宙に持ち上げるのは大柄な男。
そして
「おらよ!」
ガン!
セシルの顔に大男の拳がねじ込まれる。
「ぐぁっ!」
そこでセシルの意識は途絶えた。
◇
次にセシルが目覚めたのは王城の一室。
目覚めた彼は召使いの伝言を受けた。
王が呼んでいるというものだった。
流石に無視は出来ないので嫌な予感を覚えつつも彼は王室へと足を運ぶ。
「セシル、ただ今参上しました」
「ご苦労。セシル」
髭を蓄えた王様が玉座に座ったままセシルに声をかけた。
その声には少しの不満が混ざっていた。
「何故呼び出したか分かるな?セシル」
「い、いえ」
王様の考えが本当に理解できないような顔をするセシル。
「ほんとに無能だなお前は」
そう言って立ち上がる王様。
そしてその脇には男が1人控えていた。
この男はノルンの父親のイナーム。
その彼が王に変わって口を開く。
「貴様の報告書には目を通した」
報告書、現在勇者パーティがどんな状況なのか、何をしたのかを報告するためのものだ。
「そ、それがどうしましたか?……ごふっ!」
話している途中のセシルに近寄って膝蹴りを繰り出すイナーム。
「お、俺にこのようなことをしてタダで済むと考えているのか?!」
その言葉には答えない。
「最近報告書のレベルが明らかに落ちている。どういうことだ?」
「は?」
「前は私たちの知っていないようなモンスターの習性や行動パターンなども記されていた実に有意義な報告書だった。天才が書いているのかと思っていたのだが、しかしここ最近の報告書は、朝起きた、ゴブリンを倒した、寝た。こんなものだ。子供でも書けるが、何故こんなにレベルが下がった?時期的に言うならあのノルンを追放した辺りか」
「ま、前のはノルンの奴に書かせていました」
それを聞いた王様が口を開いた。
「そこのアホ勇者を連れていくがいい。もうだめだこいつは。お前のせいで俺とイナームの評価まで下がっている」
彼は周りにいた兵士達にそう命令を出す。
「「はっ!」」
敬礼で返事をして2人の兵士がセシルの両脇から腕を組み拘束。
「おい!離せ!どういうことですか?!王?!」
「聞いていなかったのか?無能な勇者よ。お前はもう用済みだ。国外追放とする」
有無を言わせぬ態度で王がセシルに向かってそう言い放つ。
「よ、用済み?!」
「あぁ、用済みだ」
重ねて口にするのはイナーム。
「ど、どういうことですか?!用済みって」
その言葉を聞いてイナームは懐から何十枚もの手紙を取り出しそれをセシルの前にばら蒔いた。
「見てみろ」
そう言われセシルはある程度かき集めて順番に目を通す。
それはセシルに対する不満の声。
「なっ!俺を支持しているやつがいないのか?!なっ?!どうして?!勇者だぞ?!俺は!」
「そのお前が要らないと言われているんだよセシル。元々お前は横暴な態度で国民からも慕われていなかった。今国民達の不満は爆発したという訳だ。お前は勇者をやめろ、とな」
「なっ……」
絶句するセシル。
「そんな!俺は今まで頑張ってきた!も、もう一度チャンスをくれ!」
「笑わせるなよ」
懇願するセシルを見て鼻で笑うイナーム。
「で、でも俺をやめさせて魔王は誰に倒させるんだよ?!聖剣に選ばれたのは俺だぞ?!魔王は聖剣じゃないと倒せない!」
ここぞとばかりに自分の価値を示そうとするセシル。
それに対して口を開く王。
「ふむ。では、こうしようかセシル。貴様に最後のチャンスをくれてやる。ここより少し行ったところに世界一の楽園と噂されるゴブリンの森がある。噂ではそこのダンジョンを支配していのはノルンらしい、ノルンを潰せ。それが出来れば国外追放を取り消してやる」
「は、はい!」