11 国なんてないけど、あるのは森ですけど?
俺がダンジョン経営を初めて3日が経過した。
その間に俺の森を突破した冒険者は0人。
文字通り誰も突破できていない。
「な、何なのだこれは……」
俺の隣に立ったリシアが1つのウィンドウを見て絶句している。
そのウィンドウには
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ダンジョン名:ゴブリンの森
攻略推奨レベル:48
攻略難易度:B
ダンジョンマスター:ノルン
ダンジョン総コスト:3,650
ダンジョンの広さ:広い
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と、表示されていた。
数秒経ったがまだ何も喋らないリシア。
まさか期待に応えられなかったのだろうか?
怒っているから黙ってるのか?
「すまないリシア、俺も頑張ったんだけどな。あんたの目標のために頑張らせてもらったけど、やっぱり才能無かったか?」
「が、頑張ったとかいうレベルではないだろう?何だこれ!私がお前に任せたのはゴブリンの森だったな?!」
「ん?そうだね。ゴブリンの森だね」
「これは王国だろう?!お前ゴブリンの森を何処にやった?!」
目を見開いて俺にそう聞いてくるリシア。
「いや、森だけど、王国なんてないけど。ごめん、まさか俺が好き勝手やり過ぎたから王国って皮肉を言ってるのか?」
俺がそう返事をすると彼女はウィンドウにもう一度目をやった。
「しかも攻略推奨レベル……48?!私がお前に渡した時は3だったはずだが?!何をしたのだ?!」
やはり俺は怒られてるのか?
数字は小さい方がいいのだろうか?
そうでもないとここまで怒ってないよな。
「すまない。何かやっちゃったか?手直しした方がやっぱりいいか」
具体的に何処を手直しすればいいのかが分からないので聞いてみたのだが
「有り得ない……有り得ない……何だこれ……」
と彼女は同じことを繰り返し呟くだけだったのでリシアの名を呼んでみた。
だが、反応はなかった。
「1週間で王国が出来ているぞ……?」
怒られているようだが、反省するべきところが分からないな。
俺は精一杯やったつもりだ。
そう思っていたらリシアが1つのウィンドウを指さしながら口を開いた。
そこに表示されているのは俺が作った住居フロア。
「これは何だ」
「え?ゴブリン達の家だけど」
「ゴブリンに家だと?!」
何をそんなに驚いているのだろうか。
「だってゴブリンだって俺たちと同じで家くらい必要だろう?」
働いて休んで食べて寝て、そんな生活を送るのには家が必要ではないだろうか?
「ひ、必要ないだろう?!家なんて!」
「でも作るように言った時はすごい喜んでたよ。本当は欲しかったんじゃないのか?」
「そ、そんな訳は!」
「え、でも嫌なら普通家から出て外で生活しないか?」
俺の見てる限りそんな事をしているゴブリンは1匹たりともいなかった。
だから家がある方がいいと思ったんだが。
そう思っていたらリシアが右手で頭を抑えた。
「まぁ、家の件はいい。こっちは何だ?これは何をしている?」
次に彼女が指さしたウィンドウには工房フロアが映っていた。
「工房フロアだよ」
「こ、工房?!ゴブリンのか?!」
「そうだけど」
「な、何をしているのだここは」
「今映ってるゴブリンの鍛冶師は装備作ったりしてるよ。ほらダンジョンの防衛には装備がいるし」
リシアが虚空を見つめて何も返事をしない。
「どうしたんだ?」
「ゴブリンが鍛冶……?いったい、何を言ってるんだ?そ、そんなわけないじゃないか。あはは……あいつらは食って寝るだけの種族……」
そう言ってしばらく乾いた笑い方をした後に口を開いたリシア。
「とにかく今の国……じゃなかった、森の様子を見せてくれないか?今映ってるここでいい」
「いいよ」
◇
俺はマスター権限で使えるテレポートでリシアと共に工房の前までやってきた。
周りには一般的な住居がある。イメージとしては所謂普通の町というものに1番近い、か。
「来てくれたんだノルン」
俺はエリー達に各地のゴブリン達の様子を見るように指示を出していた。
そのため今はエリーがここにいた。
「あぁ、リシアが工房を見たいって言ってな。何が面白いのか知らないけど」
横でリシアが工房に近づいて行く。
その視線の先には、俺の教えた通り鉄を打って武器を作っているゴブリン。
「ご、ゴブリンが……鉄を打ってる……」
リシアが体を震わせて俺に目をやる。
「こ、これは誰が教えたのだ?」
「俺だけど。俺は武家出身だからさ。鍛冶師とも繋がりがあってそこで色々教えてもらったんだよ。特に俺は無能って呼ばれて時間だけはあったからさ」
そのお陰で今こうしてゴブリンにものを教えることが出来ている。
そのゴブリンだが
ガン!
どうやら最後の一打ちをしたようで立ち上がると俺たちの近くにやってきた。
俺に片膝を着いて打っていた槍を差し出てきた。
その様子を見たリシアが驚いた様子で後ろに飛び下がる
「ほ、本当にゴブリンが鍛冶を?」
「ん?そうだけど」
「それより鉄は何処から取ってきた?この辺りに鉱山あったか?」
「え?その辺に落ちてたりしたものや、冒険者が捨てていった武器を再利用してるだけだよ。足りない分は、ここにしかない果物を売ったお金で買ってきたよ」
そう言いながら近くにあった岩に近付くと槍を振ってみた。
スパッ!
俺の背丈ほどあると思われた岩が一瞬で豆腐のように切れた。
「また腕を上げたな」
鍛冶ゴブリンにそう告げて槍をリシアに渡した。
「折角来たんだし受け取ってやってくれリシア」
そう言うと彼女は受け取った槍の詳細を見た。
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名前:ゴブリンの槍
ランク:S
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「え、Sランクの槍じゃないか……い、いいのか?こんなもの。というか……お前こんなものの作り方を教えられるなんて天才なのか?」
槍を驚いた顔をして大事そうに抱えて俺を見るリシアに答える。
「ん?いいよ。だって」
俺は鍛冶屋の奥に目をやった。
そこの棚には、同じものがズラっと並んでる。
カランカラン。
同じようにリシアが俺と同じものを見たのだが、魂が抜けたような顔で槍を落としていた。
「いっぱいあるし。ゴブリンも喜ぶと思うよ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!!!」
リシアの叫び声がただ響く。
「な、なぁ?」
暫くして落ち着いたリシアが口を開いた。
「なに?」
「この国の名前は何というのだ?」
「国?国なんてどこにあるんだ?」
見回してみてもここにあるのは森だけど。
もしかして俺には見えない国があるのか?
「わ、私が今いるここは何なのだ?」
「え、ゴブリンの森だけど、どうかした?」
「く、国ではなく森なのか?」
「うん?ここはゴブリンの森だけど」
「も、森……?森なのか……?」
急に頭を抱え始めたリシア。
どうしたんだろう?