10 スーパーダンジョンマスター
俺はダンジョンマスターとしてダンジョンの様子を観察していた。
どうやら冒険者達は丁度最初の戦闘に入ったようだが
『ゴブリンレベル8?!』
『いきなりレベル高くないか?!』
3人の反応を見たところ意表をつけたらしい。
前衛職らしき2人がそう言っている横で眼鏡をかけた頭のよさそうな賢者らしき男が口を開いた。
『これは不味いですね僕のリサーチ不足でした。二人とも一旦下がった方が!』
『うるせぇ!レベル8でもゴブリンだろ?!雑魚だよ!雑魚!』
そう言ってあまり頭が良いようには見えない剣士らしき男が剣を抜いてゴブリンに向かっていった。
しかし
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
ゴブリンに逆に負けていた。
それだけで自分達とゴブリンの間にあるレベル差を感じ取ったらしく
『ちっ!撤退するぞ!』
『な、何なんだよレベル8って!!!聞いてねぇぞ?!!!!突破して当たり前じゃないのかよ!!!!』
冒険者達は去っていった。
どうやら俺の作戦は成功してくれたらしい。
「す、すごいです!いきなり数秒で撃退ですよ?!流石ノルン様です♡」
そう言って俺に飛びついてきたミーナの横で驚いているクレア。
「ど、どういうことなの?先生?定石を完全に崩してるのにここまで圧勝だなんて……常識が覆るよ?」
そう聞いてきたクレアに続いてエリーも口を開く。
「ほ、ホントだよね。でも、ダンジョンって奥に行くほど普通はモンスターのレベルが高くなるはずだよね、それが常識なのに。それなのにどうして最初から高レベルのモンスターを置いたの?」
「簡単な事だよ」
そうやって前置きしてから俺は説明することにした。
「確かに定石というのは定石と呼ばれるだけの理由があるんだろうけど、俺がこの配置にしたのは初動を潰すためだよ」
「初動を……潰す?」
首を傾げるクレアだったがエリーは何を言いたいかに気付いたようだった。
「最初を攻略出来ない難易度にしたってこと?」
その言葉に頷く。
「定石通りの配置は確かに後半で倒せるなら強いと思うけど、後半で倒せるならって前提つきだ。逆を言えば序盤の難易度はどうしても下がってしまう。そしてこの森は全体を通しても簡単なダンジョン。先に進ませれば進ませるほど相手は経験値を獲得してレベルが上がる。そうすれば終盤の強敵達にも太刀打ちできるだろ?」
レベルが5,6,7,8,9というふうにダンジョン内でレベルアップしていけばレベル8のゴブリンを倒すのは簡単になってくる。
しかし
「レベル3の冒険者に8のゴブリンをいきなりぶつける事によって強くなる前に一気に叩く。これが初動を潰すってことだよ」
「はえー。よく分からないけど先生が凄いのは分かった!」
今のでよく分からないって言われるなら俺はこれ以上簡単に説明できる気がしない。
「でもこれ、凄いですね!ダンジョン経営の常識が覆りますよ!というよりもうスーパーダンジョンマスターとしてノルン様が全ダンジョン管理しましょうよ♡」
ミーナはそう言ってくれるが
「これには弱点がある。だから使うのは今回だけだよ」
そう言って俺はダンジョンマスター権限で次のシステムを起動した。
その横で
「弱点って?そんなのある?」
そう聞いてくるエリーに答える。
「向こうにも初動に全振りされたら勝率はまず下がるよ。例えば何がなんでも最初の戦闘を突破されたら向こうは莫大な経験値を得ることができて、こっちは貴重な駒を失うことになるからね。安定感に欠けると思う」
こちらも初動に全振りしているためそこを強引にでも突破されてしまえば後はジリ貧になるだけだろう。
「だから、この編成は今回きりにして全体のレベルを上げる」
そう言いながら俺は各ゴブリン達に指示を与えていく。
「これ、何をさせてるの?先生。ゴブリン達急に落ちてる果物とかを集め始めたけど」
「売るんだよ」
「う、売る?!」
酷く驚いたような顔をしているクレア。
「どうしたんだ?」
「こんなの売れるの?」
まぁ売れると思うけど。
そんなことを思いつつ次々に指示を出していく。
◇
3時間後。
「何これ!」
俺の横で同じものを見ながら驚いているクレア。
「ん?」
「果物どころか鉱石や武器まで?!」
「拾わせたよ。果物は相手の体力を回復させる効果もあるし、落ちている武器は相手を強くしてしまうかもしれない。わざわざ優しさを見せる必要なんてないだろ?」
ダンジョン内にある謎の宝箱やドロップしていた物はとりあえず全て回収させた。
少しでも人間側に不利に働くようにダンジョンを変える。
それにしても結構な数になったな。
当然冒険者が落としていった持ち物なども回収させた。
「さて、後は、と」
俺は続いて権限を使ってダンジョンを弄っていく。
「工房はいるよな、あと畑と、牧場?あー、もう面倒だし色々置いちゃうか」
そう言ってゴブリン達に施設を作らせる。
流石に少し時間がかかるみたいだ。
そうして横にいるクレアを見たらポカーンと口を開けている。
「ゴブリン達がめっちゃ働いてる!」
「何もせずぐーたらさせるのは時間の無駄だからな」
リシアに託されたダンジョンだ。
しょうもない経営にするつもりはないし俺もそれなりに本気を出すつもりだ。
俺に任せてくれた彼女に恥なんてかかせたくないし、この領地を奪わせるつもりもない。
「ま、とにかく今日のところはこんなところにしておこうか。みんな、一旦帰ろう」
3人の返事を聞いてからこの森を後にする。
だが俺はこの時知らなかった。
この森が後々森と呼べるのかどうか疑問に思うほどに大きくなることを。