1 追放されました
俺の名はノルン。
勇者パーティ所属の竜騎士だ。
もっとも今はだった、という方が正しいのかもしれないが。
「くそ………」
俺は勇者パーティの中で孤立していた。
理由は簡単だ。
俺はステータスが低く、レベルも上がりにくいため使って貰えない。
それどころかスキルも【経験値増加】という使えないスキルだった。
字面だけ見れば使えそうだがこの経験値の増加量は1で固定なのだ。
その結果いてもいなくても一緒だった。
皆がレベル30前後になっているのに俺は未だに5とかだった。
他の勇者パーティの皆は今酒場で楽しく過ごしているが俺だけは違う。
「倒れろ!」
スライムを槍で突き刺す。
スライムを倒した。
戦闘終了、リザルト表示が行われる。
しかし
【合計取得経験値2。スライム1、経験値ボーナス1】
表示される経験値は残酷だった。
次のレベルアップに必要な経験値量は300。
単純計算で後これを150回繰り返さないと俺のレベルは上がらない。
他の皆なら今の戦闘で10倍の20は貰える。
そう。俺は人より10倍戦わないとレベルが上がらないのだ。
おまけに全てが弱い俺は他の奴らとは違って実戦で使って貰えない。
みんなが冒険を進めている後ろでただ見守る事しか出来ない。
だから今は1分1秒が惜しい。
「次の日に疲れを残しちゃいけないな」
今日はこの辺りで切り上げて帰ろう。
どうせ経験値の伸びない俺なんて使って貰えないだろうけど、それでもメンバーの一員として何時でも出られるようにしておかないといけない。
◇
次の日の朝、酒場にて
「なぁ、ノルン」
「どうしたんだ?セシル」
あまり話したくない男の勇者セシルが声をかけてきた。
珍しいな。こいつが俺に話しかけてくるなんて。
セシルは白銀の髪の男だ。
「お前パーティを抜けてくれ弱すぎるんだよ雑魚」
「え?」
俺は絶句した。
だがそんな事構わずにセシルは続けた。
「俺があえてお前を採用してないの分かってたろ?」
「分かってるさ……」
そんなこと誰でもない俺が1番分かってる。
「あら、無能なりに分かっていたのね」
「無能なんて言ったら無能に失礼ですわよユーリ。せめてゴミムシと呼んであげましょう」
「それではゴミムシに失礼よメリー。ここは神が余りもので適当に作った人間の形をしたゴミと呼びましょうよ」
そう言って笑い始めた賢者のメリーと聖女のユーリ。
まさかそんな風に思われていたなんて。
でもこんな奴らでもセシルは俺以外の皆をほぼ均等に使ってる。
だが俺だけは最初の数戦使っただけで後は察して使ってもらえなかった。
それくらい俺のステータスの伸びが悪いのは明らかだったからだ。
そして1つ思ったことがある。
「なぁ、もしかしてこの始まりの町に戻ってきたのって、俺にそれを言うためか?セシル」
始まりの町。
勇者になったセシルが初めて訪れた俺の生まれ育った町だった。
「あぁ、せめてもの情だよ」
「情?」
「俺たちが今攻略しているダンジョンでお前を追放してはここまで帰れないと思ったから、お前をここで追放する事にした。そうすれば直ぐにお家まで帰れましゅよね?あーはははは」
嘲笑うように見ているセシル。
情けとは言っているがただ俺を馬鹿にしているだけだ。
「それともう1つある」
ひとしきり笑った後セシルは俺の幼馴染であるローザに目をやった。
それを受けてローザは口を開いた。
「ノルン。貴方とはもう終わり」
「終わ、り?」
理解出来なかった。
何を言われたのかが理解出来なかった。
俺は椅子をガタッと倒して力なく立ち上がった。
「私セシルの事が好き」
そう言われて目の前が真っ白になった。
俺とローザは昔から特別な関係だった。
「そういう事だ。ノルン。俺はローザと結婚する事にした。それを彼女の両親に報告するために戻ってきた」
なんだよそういうことかよ。
もう何も聞きたくなかった。
ただ目を閉じて耳を塞いでいたかった。
今すぐにでもこの場から立ち去りたかった。
「……分かったよ」
「じゃあな。ノルン。もう会うこともないだろうがな。安心しろよローザは幸せにしてやるからな」
セシルの声を背に俺は酒場を後にすることにした。
◇
「ただいま」
「ちっ」
家に帰るといきなり舌打ちだった。
どうやら親父がいるらしい。
「どうしたノルン。てめぇ勇者と冒険したんじゃなかったのかよ」
「追放された」
そう言って部屋に戻ろうとした俺だったが
「ぐっ!」
親父に蹴り飛ばされた。
それで壁に叩きつけられた。
「それでノコノコ帰ってきたのか?えぇ?弟は王都で騎士として立派に働いてんのに、お前はその体たらくかよ?ゴミが」
俺の弟は出来がいい。
だから出来の悪い俺はいつも比較されて、そして
「こっちこいゴミ」
俺は襟首を掴まれて親父に外に叩き出された。
そして告げられた。
「お前家に戻ってきてどうするつもりだったんだ?」
「……」
「答えらんねぇのかよ?!」
ガン!
俺の横の壁に足を叩きつける親父。
「もう……やめてくれ……」
心がボロボロだった。
「セシルに追放されてローザを奪われたんだよ……」
「俺が『はいそうですか』とか言うと思っているのかお前は」
そう言うと親父は今度は俺の髪の毛を掴んで俺を引きずる。
髪が抜けそうだったがもう抗う気力はなかった。
「なら俺からも言ってやる。お前はもう俺たちのゴルウィーン家に要らないんだよゴミ。二度と帰ってくるなよ面汚しが」
バタン!
大きな音を鳴らして閉じられる家の扉。
「くそっ……何で俺だけ……」
俺はその場で蹲って泣くことしか出来なかった。
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