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わたしとその男の子【4】

 それからも時々あちこちで彼の姿を見かけたけれど、いつも、どんなことをしていても、彼は一生懸命だった。


 近所の神社で行われる写生会の時、みんなが帰り始める時間になっても彼は黙々と描き続けていた。


 帰る前にこっそり近づいて一瞬覗いてみたけれど、全然完成にはほど遠かった。


 でも後日、廊下に飾られたみんなの絵の中から見つけた彼の絵は、わたしには一際輝いて見えた。


 もっと上手な子もいる。細かいところを見ると、失敗した形跡がわかってしまうところもある。

 

 でも、色をたくさん重ねて細かく塗っていたり、下書きを何度も書き直したのか紙が傷んでいたり、とにかく誰よりも一生懸命描いたことだけは痛いほど伝わってくるのだ。


 きっとあの日は結局描き終わらなかっただろうから、休みの日にわざわざ通って描いていたのだろう。



 放課後に体育館でずっとレイアップの練習をし続けていたのを見たこともある。


 一番基本のシュートだけを、ただ延々と。たぶん自分の役目がわかっていたのだと思う。

 

 後日のクラスマッチで、きちんと決めていた。

 もう勝敗が見えてからの、試合の展開には影響のない得点だったけれど。

 

 周りは意外そうにしていて、中にはちょっとからかうような声もあった。

 それでも、わたしだけはその点の価値を知っていた。


 このあたりから、わたしは今まで正直気乗りのしなかったあることに、本気で向き合うようになった。

 いくらやっても自分がこれに向いているとは思わない。けれども、とにかく目の前のことに一生懸命に取り組んでみることには意味があるのだと、そう感じさせるようなことがあったから。


 彼に関して、わかったこととわからないことが一つずつ。

 

 わからないことは、彼の動機。何のためにそれほどまでに頑張るのか。いつか聞いてみたいと思った。


 わかったことは…彼がどんな人なのかが、少し。

 彼は何かを頑張っている時に、誰かが近づいてくるとそれをやめてしまう。それはとてももったいないことだと思った。

 そしてそれはつまり、彼がいつも一人だということも意味していた。



 四年生に進級し、そんな彼とわたしは同じクラスになった。



 

 

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