わたしとその男の子【1】
わたしがその男の子に対して初めて持った感情は、「大丈夫かなぁ」だった。
マラソン大会が近づいて来ると、体育の授業はその練習になる。
まあこれが好きっていう人はあんまりいないよね。でも実を言うと、私はそんなに嫌いじゃなかったりする。
全体で見るとそれなりに速い方っていうこともあるけれど、ほんとに上位の方ではない、っていうのもあるのかな。一位とか争い始めたらプレッシャーが凄そうだし。
結構多くの人が、練習では手を抜いてるのか、それとも元々本気でやる気がないのか、別の意味で「楽しんで」走ってる。
でもマラソンを友達と一緒に走るっていうのは違くない?自分にとってベストのペースなんてみんな違うんだし。
それ両方にストレスになると思うんだけど。
まあ私はやったことないからわからないけどね。
何を言いたいかっていうと、これを本当に死力を尽くして頑張っている人ってどういう人なんだろうって話。
多分、ほんとの上位と、最下位くらいだよね。真逆なようで、どっちも共通しているものがあると思うんだ。
両方とも、自分のプライドをかけて走ってる。
でもそのプライドって何から生じるのかな。もちろん、自己満足の面は大きいと思う。でもそれだけじゃなくて、たぶん、「人の目」の力は大きいよね。
誰も話題にしないようなものだったら、誰が必死になってそこの数字を変動させようとするだろうかって思わない?
つまりね、真ん中あたりの順位が多少入れ替わろうが、本人以外は気にも留めないわけで、そこから少しでも上に這い上がるために全てを使い切れる人がいるのかっていうこと。
わたしが手を抜いてるっていうわけじゃないよ。もちろん全力でやってる。さっき友達と走っている人を非難したばっかりだし。
いや、「全力でやってる」つもりだった。
あれを見てしまったら、自分は全力でやってます、とかそんなことなんだか言えなくなっちゃったんだよね。
まあ、そういう子が…いたんだ。