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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

年上の男

作者: たーた

「調子こいてんじゃねえよ、きもいんだよおっさんのくせによ」


口から吐き出た俺の言葉に、目の前の青白い顔が苦痛に歪んだ。違う。こんなことを言いたいんじゃない。

分かっているのに、口が勝手に開く。傷つけるための言葉が飛び出す。


「いい加減にしろよ、勘違いもいいとこなんだよ」


色素の薄いその瞳に、涙が浮かび上がってくる。それを隠すように、俯いてしまった。

がやがやとした居酒屋で、俺たち二人のこの空間だけ、切り取られたように喧騒がどこか他人事だった。


目の前の細い肩が、心なしか小さく震えているように見える。

こんなことを言いたいんじゃない。俺が言うべき言葉はほかにあるはずだ。


「・・・ご、ごめんなさい」


震える声が耳に届く。顔は俯けたまま、俺より5つ年上の男は、ポケットから財布を取り出し、紙幣を数枚テーブル置いた。


「迷惑かけて、ごめんなさい」


がやがやと煩いこの店の中で、その小さな声はそれでも俺の耳に届いた。

弾かれたように男は立ち上がり、座ったままの俺の隣を通り過ぎて去っていった。


小さな2人用のテーブルに置かれた、食べかけの枝豆、焼鳥、チヂミ。飲みかけのジョッキ。俺は今日、これで一体何杯目だろう。




冴えないおっさんだと思った。通ってる病院の薬局の薬剤師で、顔は知っている程度。熱が出て具合が悪かったっていうのに、会計後、追いかけて告白された。

泣きそうな顔して好きだとか言ってくるから、その顔があまりにも可哀想に感じて、まあ友達ならいいと言ってしまった。熱のある体で、覚えられないだろうと早口で携帯番号を告げて立ち去ると、数時間後に着信があった。

そこからちょこちょこ飯を食べに行く仲になった。

38歳、俺より5つ年上の冴えない男。細く青白い顔、いつも何かに怯えたようにビクビクしている。よくもまあこんな様子で男の俺に告白なんて出来たと思う。

自己主張をしない、自分に好意のある人物と一緒というのは、思った以上に居心地の良いものだった。めんどくさければ喋らなくてもいい。向こうが気を使って、伺うように話題を振ってきたりするが、相槌すら億劫なときはっきりと「うざい」と言えば黙るし。おでんが美味しい居酒屋に行きたいと言えば、ネットで調べた人気店を予約してくれるし。

とにかく楽で、都合がよかった。


そういえば、今日は初めて会ってから半年だった。

飲み始めたときから、何か話したそうな様子だった。唐突に切り出したと思ったら、「ぼくのことをどう思ってるか聞かせて欲しい。会ってくれるのは嬉しいけど、望みがないなら、辛い。ぼくのことを好きと言ってくれる人もいるから、君の気持ちが知りたい。」と。

なぜか無性にイライラして、思ってもないことを言ってしまった。


俺はゲイではない。ごく普通に生きてきて、女性と付き合ってきた。あんな冴えない男との出会いなんかで、俺の将来に影響があってはいけない。

俺とあいつは違う。俺は普通で、あいつは少数派だ。あの男の元へ行ったら最後、もうもとの自分の世界ではなくなるだろう。


でも、あの泣きそうな顔をした弱気な男を、誰か他のやつがいいようにするのかと思うと、体が燃えるように熱くなる。反吐が出る。


「くそったれ」




居酒屋を出て、何度も男のケータイに電話をする。何度も何度もかけて、ようやく出たと思ったら、その声は明らかに泣き声で、それにまたイライラする。

居場所を聞き、駆けつける。赤い目の男が不安そうに俺を見上げる。顔を見るとどうにかなってしまいそうだったので、その腕を掴んでタクシーに乗せる。男は何も言わない。

俺の家まで連れて行き、ベッドに投げつけるように押し倒した。制止する声を無視して服を脱がせ、青白い肌を夢中で抱いた。うわ言のように、好きと繰り返され、また体が熱くなるから、その度に唇を塞いだ。

甘い嬌声にくらくらする。


とっくに戻れないところまで来ていたのだと、観念しなければならないのだと思った。




END 

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