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さんまいめ  作者: taka
8/19

明衣 part4

 その子の性格はほんのちょっぴりお姉ちゃんに似ていた。

 真面目で、寂しがり屋。お父さんが大好きなところもそっくりだと思う。

「どうしたの?」と首を傾げるその子の頭を私はそっと撫でた。

 儚いなぁ。私が五歳だった時、お母さんはこんな気持ちだったのかなぁってちょっと不安になる。

「ううん。えみちゃん、何でもないよ。ただあの夜は大変だったなぁって」

 私が悪戯っぽく笑うと、えみちゃんは「もう〜」と私の胸を叩きながら照れ笑いを浮かべた。

 あの夜、私たちと同じ病室に運ばれてきたのは「後藤えみ」という五歳の女の子だった。

 目の前に突然現れた私にえみちゃんは驚き、ますます泣き出してしまった。ありとあらゆる面白いことを詰め込み詰め込みやっと彼女は笑ってくれたのだ。矢継ぎ早にボケ続ける私の姿はまるで心臓マッサージを一生懸命行う研修医みたいだったよと主治医の先生が後から教えてくれた。ちなみに師長さんには死ぬほど怒られた。

 あれからえみちゃんはすっかり私に懐いてくれた。お父さんがお見舞いに来ている時間以外はずっとこうやって私のベッドの所に遊びに来てくれている。

 話しているうちに色んなことが分かった。

 まず、えみちゃんの病気は初日の予想通り私と同じ病気だった。かれこれ3年の付き合いだと言う。「ようちえんのどのお友だちよりも仲良しなの」と笑うえみちゃんに「分かる分かる」と笑って返せるのはこの病院では私くらいだろう。

 次に、両親の事だ。えみちゃんのお母さんはずっと昔に離婚して居なくなってしまったらしい。今はあの少し頼りないお父さんと二人暮らしなのだという。「おとうさんにもおしごとがあるから、わたしはね、お家にいるよりは病院にいた方がおとうさんもあんしんなのっ!」とあっけからんと笑うえみちゃん。きっとどこかの看護師かはたまたお節介な親戚が話したのだ。本人の目の前かはたまたカーテン越しか何気ない電話での会話かは分からないけど、えみちゃんはそれを耳にして哀しいくらい間違いなく理解している。こんないたいけな子供になんて事を言わせてるんだと思うけど不思議と怒りとかは湧いてこない。そんなものだよねって思う。子供って耳ざといし頭も良いのだ。本人が理解出来てないと思って好き勝手言う大人は結構多いものだし、まぁ仕方ない。これはこの病院に入院している皆が分かってくれるあるあるネタだ。

 そして、最後にえみちゃんの笑顔はとっても可愛いって事だ。私はその事を何十回もえみちゃんに教えてあげた。その度、えみちゃんは「やめてよ〜」と照れ臭そうに笑う。とても数分前に「まぁどうせわたしももうすぐ死ぬんだもんね」と諦めたように笑っていた少女とは思えないくらい、えみちゃんの本気の笑顔は可愛い。

 えみちゃんは私と同じ病気だが、私と違って兄弟が居ない。そしてお父さんも仕事が忙しいと来ている。この病気なら幼稚園にも満足に行けてないはずだ。

 だから周りの人に代わって私がお節介なくらい教えてあげるつもりだ。えみちゃんの笑顔が素敵だってことを。こんな病気、笑ってでもないとやってられないんだから。

 「ねぇ、明衣ねぇちゃん。カレンダーに書いてあるこの印はなに?」

 えみちゃんが壁のカレンダーを指さして言った。

 「あぁ、それはね、私にとってとっても大切な予定があるの。8/25は花火大会で9/22はこの病院のお祭りがあるの」

 「お祭り!?」

 えみちゃんが嬉しそうに驚いた。

 「そっか、えみちゃんは初めてだよね。この病院は毎年、爽療祭って言って夏祭りがあるんだよ」

 「えぇ~良いなぁ良いなぁ。私も遊べるかなぁ」

 「遊べる遊べる! えみちゃんを診てくれてるのは長井先生でしょ? 最近彼女出来たばかりだしその辺りくすぐってやれば許可なんて一撃だから」

 「あんた何教えてんのよ」

 ポカリと頭を叩かれる。

 いつの間にかお姉ちゃんが来ていた。

「あっ、聞こえてた?」

 私を無視してお姉ちゃんはえみちゃんに話しかけた。

「初めまして。こんなバカの言うこと聞いちゃだめよ」

 お姉ちゃんはいたずらっぽくえみちゃんに笑いかける。

 えみちゃんは不思議そうに私とお姉ちゃんの顔を何度も見比べた。

「あぁ、そっか。えみちゃん言ってなかったね。私には真衣っていう双子のお姉ちゃんがいるの」

「えみちゃんって言うのね。よろしく」

 お姉ちゃんが再び笑いかけた。

 私から見ればだいぶサービスしているように見える。

 元々愛想が悪く誤解されやすいお姉ちゃんだ。そんなお姉ちゃんが二回も笑ってしかも自分から話しかけるなんて。

 奇跡みたいな事なのに当のえみちゃんは顔を真っ赤にしながら小さく頭を下げ「よっ、よろしくお願いします! じゃ、じゃあ、おねえちゃんまたね!」と一息に言うとそのまま病室を出て行ってしまった。

 しばらくの沈黙の後、お姉ちゃんはふと椅子に座り「いきなりびっくりさせちゃったかな」と呟いた。

「ううん。ちょっと人見知りなだけだから。あの子この前ここに入院してきたばかりなの」

「確かに。前からちょくちょく見かけてて気にはなってたんだけど……あの子さぁ」

「うん?」

「何かあんたに似てるね」

 お姉ちゃんはそう言って気怠げに窓の外を見た。

 ――さっきお姉ちゃんが優しかった理由が少し分かった気がする。

 そんな事を思っているとお姉ちゃんに咎めるように言われた。

「何ニヤニヤしてんの。気持ち悪い」

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