真衣 part6
幾日が過ぎ、花火大会を一週間後に控えたある日明衣は体調を崩してしまった。
熱が上がり無菌室に転室となった。
緊急事態だというのに落ち着きすぎだと怒られるだろうか。何しろこれ、数十回目なのだ。明衣のこれまでの闘病生活で、もはや年に一度の恒例行事なのだ。私達家族からしたら七夕くらい身近なイベントになってしまっている。
転室当日の夕方、面会謝絶になる前に病室で私は明衣と会った。
開口一番、夕陽に照らされながら明衣は「マネージャー、ごめんね!」と少しだけ申し訳なさそうに笑った。
そんな明衣のいつも通り過ぎる位の笑顔に釣られるように、私の言葉も自然と素っ気なくなってしまう。
「よりによってあと一週間だったのに。あんたもバカね」
「でへへのへ」
そこそこ痛烈な言葉を浴びながらも明衣はむしろ嬉しそうにヘラヘラと笑う。
「流石に無菌室に入ってた子が一週間後外出の許可なんて下りるわけないし。今年は諦めるしかないわね」
「まだまだ分かんないよ~あたしの免疫お調子者だから」
「テルみたいな性格の免疫だったら良かったのに……とにかく今年は諦めて来年ね。受験もあるしテルはどうだか分からないけど、私は付き合ってあげるから」
素っ気なさを反省し私なりに頑張って優しい事を言ってみた。きっと明衣は「本当!」と全力のアホ面で笑ってくれると思った。
だが反応は予想と違い、明衣は私の言葉を無視し「今年はお姉ちゃんとテル君で行かないの?」と真面目な顔して聞いてきた。
「はぁ? 行くわけないでしょ。あんたと三人で行く約束だったんだから」
流石に見くびって欲しくないと思い、少し怒っているような声になってしまった。
それでも明衣はひるむことなく、寧ろそんな私の反応を見て確信したように続けて言った。
「ダメ! お姉ちゃんはテル君と花火大会に行ってきて。そして……好きって言ってきて」
明衣はまっすぐと私を見て、ちっともおどける事なく真面目な声で言ってきた。
「……はぁ!?」
私の声が病室に響く。もしかしたらこれまでの人生で一番素っ頓狂な声だったかもしれない。
「お姉ちゃん、テル君の事好きでしょ?」
明衣はいたずらっぽく笑った。
「はぁ?」「いやっ?」「はぁ? あんたバカじゃない?」と、兎に角焦る私の様子を見て、明衣は全てを見透かしているように笑った。そんな笑顔を見ていると流石に諦めがついた。
しどろもどろに考えていた否定の言葉を飲み込んで、私は「悪い?」と伏し目がちに呟いた。
明衣はそんな私を見て、笑う以外の感情を忘れてしまったみたいに只々嬉しそうに笑っている。
「やっと、教えてくれた。人生初の恋バナだよ」
「うるさい! うるさい!」
「やっぱりお姉ちゃん、可愛い~これならテル君もイチコロだよ」
「えっ? 本当? ……って何言わすのよ!」
顔が赤くなっているのが自分でも分かる。はしゃぎすぎかもしれない。
そんな私に釘を刺すように明衣はもう一度「絶対にテル君と花火大会行ってね」と言ってきた。
「いや、あんた抜きで行くのは流石に……」「ダメっ!!」「いや……」「ぜーったいに行って!」しばらくこんなやり取りが続いた後、結局明衣の妙な剣幕に気圧され私はしぶしぶ言わされた。
「わかったわよ」
「やった! 私の事は良いから思い切り楽しんできてね!」
明衣は私の手を握り何度も上下に強く振ってきた。
私は「あぁ~もう~」と何度かその仕草に付き合ってあげた後「その代わり来年はあんたと行くからね!」と言った。
明衣は何も言わずただニコニコと透き通るような笑顔を浮かべていた。
何度も何度も思い出すにはうってつけの、これ以上ないほど綺麗な笑顔だった。




