明衣 part5
気を遣ってテル君は私とお父さんの二人きりにしてくれた。
「真衣を怒らせちゃってごめんな」
お父さんは頭をポリポリと掻きながら申し訳なさそうに言った。
「ううん。お父さんもこんなことでお姉ちゃんを嫌いにならないでね」
私が言うとお父さんは心底可笑しそうに「ははは、当たり前だろ」と笑った。
「大切な娘なんだ。嫌いになるわけないじゃないか」と事もなげに言ってくれるお父さん。
線の細い見た目だが実は頑固な一面があり家族の事となると力強い。お姉ちゃんは絶対に認めないけどお父さんとお姉ちゃんの二人はよく似ている。
「多分お姉ちゃんも本当はお父さんの事がとても好きなの。出張で忙しいのは勿論だけど、不安な時本当はずっとそばにいて欲しいって思ってるんだと思う」
私の言葉にお父さんはガクッと肩をうなだれる。お父さんの仕事が忙しいのは私の病気のせいなのに少し意地悪な言い方だったかもしれない。
「明衣はお父さんの事、嫌いにならないのか?」
お父さんは顔を上げ言った。
「私の病気のために頑張ってくれているお父さんを嫌いになる訳ないでしょ。それにね」
私は少し考えてこう言った。
「私にはもう誰かを嫌いになってる時間無いみたい」
ふと沈黙が訪れた。それは返す言葉を考えあぐねているというよりは、口をついて出た言葉をゆっくり噛み締めているような、そんな沈黙だった。
しばらくの沈黙の後、お父さんは言った。
「さっき、あぁ痩せたかなと思ったんだ」
さっきとは私が抱き着いた時の事だ。
「えへへ、バレちゃった?」
こういう時普段会っている人よりも久し振りに会う人の方が変化に敏感だ。やっぱり私の病気は少しづつ、だけど確実に進行していたのだ。
「しんどいか?」
心配そうに訊いてくるお父さんに私は「ほんのちょっぴりね」と笑って答えこう続けた。
「だけど、心配しないで。私には夢があるの」
壁に貼られたカレンダーを指し示す。8月と9月の末に一つずつ大きな花丸が書かれている。
「この夏は生まれて初めてを二回も経験するの。大好きな人たちと夢を追いかけてるの。生で見る花火も、みんなの前で披露する漫才も本当に楽しみ! そうだ! お父さんも漫才見に来てね!」
努めて明るく一息に喋ってはみたが、お父さんはどこか不安そうな顔を浮かべたまま私をじっと見る。
「……まっ、最初で最後になるかもだけどね」
自虐的に寂しいオチを付けてはみたが、お父さんの表情は変わらない。ただ窓の外からセミの鳴き声が嘲笑うように響くだけだった。




