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 布の選別にデザイン、採寸と全てが終わった頃にはフォルティナはぐったりと気力を使い果たしていた。

 一応貴族の令嬢であるとはいえ、騎士として王宮に仕官し、5年前までは隣国との戦に、戻って来てからは近衛として護衛の任務。女性騎士がいないわけではないが、フォルティナが配属されている隊の同僚は、そのほとんどが男である。そんな環境に身を置いていたフォルティナはこういった女性としての勤めが苦手だった。とは言っても、辺境伯とは言え、貴族の令嬢であるフォルティナがこういったことから完全に逃げることは無理なのだが・・・。それでも、仕事を理由にのらりくらりと逃げていたわけだが、その皺寄せといわんばかりに、今回の王家主催の夜会への出席である。コレだったらまだ他の貴族の家で行われる夜会に顔を出すほうがマシだった、とフォルティナは精神的疲労を抱えながらしみじみと思った。

「随分疲れてるわね」

 ぐったりと詰所に戻ってきたフォルティナの様子に同僚の女性騎士の1人が声を掛けてきた。その声に笑いが含まれているのはフォルティナの気のせいではないだろう。

「・・・他人事(ひとごと)だと思って」

 彼女の声にフォルティナは顔を(しか)める。

「だって、他人事だもの。いいじゃない、今回のドレスの費用、王家持ちなんでしょう?」

「そうよ。臨時ボーナスだとでも思って、おとなしく着せ替え人形になってなさいよ」

「そうそう。それに姫様が社交界デビューしたら夜会へ同伴しての護衛も増えるんだし」

「ねー」とその場にいる他の女性騎士も会話に混ざってきた。

「いや、夜会への同伴といっても護衛だからドレスを着たりしないわよ?」

 同僚の男たちを相手にしている時とは違い声音も口調も女性として落ち着いたもののままでフォルティナは返す。基本的にフォルティナの言葉が悪くなるのは男性騎士たちに対してくらいなので、自分たちに対して口調が変わってても女性騎士たちは気にならないようだ。それに何より彼女たちもまたフォルティナよりも下位とは言え貴族の令嬢が多いので、自然と言葉使いは令嬢同士のそれになるのだろう。

「やだ、フォルティナったら本当に今回だけで済むと思ってるの?」

「女の子はみんな着せ替えが好きなものよ?まして、コレだけ着飾らせがいのある人が近くにいてやらないわけないじゃない」

「うっ・・・」

 口々にそういう同僚たちの言葉にフォルティナは言葉を詰まらせる。

「いや、でも、そんな格好ばかりしていたら護衛にならないから、陛下も王妃様もお止めしてくださるだろうし・・・」

「陛下はともかく、王妃様はノリノリでアナスタシア様に同意なさると思うわよ?」

「そうよね。今回のことも警護の関係もあって渋っていた陛下を一緒になって説き伏せたらしいし・・・」

「王妃様、常々フォルティナのこと着飾らせてみたいっておっしゃっていたものね」

「今回の事で前例が出来たから事あるごとにやりそうよね」

「と言うか、やるでしょうね。私たちも飽きるまでは散々着せ替えさせられたし・・・」

「当分の間、侍女や女官に紛れての護衛はフォルティナにまわされそうね」

 同僚たちの言葉にフォルティナの顔が引き攣る。

「・・・フォル、人間諦めも必要だぞ」

 彼女たちに好き勝手に言われ項垂(うなだ)れたフォルティナの肩をその場に居合わせたロイとトールが慰めるように叩いた。

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