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 激しい怒号が響き、剣の交わる音、甲冑のぶつかり合う音が辺りを支配していた。最初のうちこそ感じていた血の臭気は鼻が慣れてしまったのか、感覚が麻痺してしまったのか・・・。或いはその両方かもしれないが、もう気になることも感じることも出来なくなっていた。

 大地に倒れているのは敵か或いは味方の屍なのか・・・。上がる土煙と散る血飛沫(ちしぶき)にチラリと見ただけでは判別することは難しかった。

 周りは死が充満し、にも関わらず、異様な興奮の坩堝(るつぼ)と化していた。

 そんな中で、兜越しに周りを冷静に見つめる視線が1つ。既に勝敗はついていると言わんばかりに、その姿は泰然としていた。

 まだ、敵全体に敵将の首が取られたことが伝わっていないのだろう。

 それでも己で勝ち目がないと判断し撤退する者、或いは自分達の将が倒れてもなお剣を、槍を手に突進していく者。

 外した兜から金の髪が溢れる。露になったのは硬質な美しさをもつ青年。黄水晶(シトリン)を思わせる瞳は、地にひれ伏し二度と動くことのない者たちを睥睨(へいげい)する。

「危ない!!」

 それは、ほんの一瞬の隙だった。戦場には似つかわしくない声と共に青年の体が横へ押し退けられる。それと共に上がる声と血の臭い。

 振り返った青年の目に映ったのは脇腹を貫かれながらも、自分を貫いた相手の首を刈り取った少年の姿だった。

 彼も青年と同じく被っていたはずの兜はなく、漆黒の髪を風に靡かせていた。青年も自分の背後に来た殺気に振り向き様剣を振るう。剣は青年に斬りかかってきた相手の首を胴から切り離した。大量の返り血が青年の白い肌を、髪を赤く染めていく。血の(なまぐさ)さに僅かに眉を寄せながらも、青年は自分を守った少年を振り返る。小柄は彼は貫かれた脇腹に手を当てながら自身に刺さったままの剣を抜こうとしていた。しかし、痛みで思うようにいかないのだろう。

 青年はそんな少年の前に膝を着く。

「貸せ。俺が抜く。お前は治癒に専念しろ」

 青年の言葉に少年が、いや、僅かに自分たちと違う作りの鎧に少女だと気付いた、彼女は頷いた。

 ともすれば、どちらの性も感じさせない中性的な顔立ちをした少女は己の脇腹に魔方陣の書かれた布を押し当て、魔力を流す。

 治癒を使える者は少ない。だが、こうして治癒魔法の魔方陣に魔力を流し込めば応急処置くらいだが、魔力を有するものなら使うことが出来る。

 青年は少女が布をキツく当てているのを確認して一気に彼女を貫いたままになっていた剣を引抜いた。

 痛みに小さく呻き、その白皙の肌に脂汗を滲ませながら少女は青年を見上げる。

「・・・戦場で気を抜くなどっ。何を、考えている、の、ですかっ」

「すまない」

 少女の叱責に青年は素直に謝罪を口にする。そんな青年の反応に少女は少々面食らったような、バツの悪そうな顔をして青年から視線を逸らした。

「お手数を、おかけしました」

「止血は済んだか」

 脇腹から手を離し、そう(こうべ)を垂れる少女に青年は確認した。その言葉に少女は言葉少なく頷く。止血は済んでも流れた血が戻ってくるわけではない。流れた血のせいで元から白いであろう少女の肌は青白く、血が足りていないことは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。そんな中で少女の青年を見上げてくる瞳の色だけは強く、青年はその紫暗(しあん)の瞳から目を離せずにいた。

 強い輝きを宿すその瞳の奥にある金の光彩に絡め捕られる。

 どちらからともなく近づき、その唇が触れて離れる。後に残ったのはかさついた感触と血の味。

 それはほんの僅か。ともすれば白昼夢の様な、風に掻き消えてしまいそうな邂逅。

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