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王宮の一角。

開けたその場所では男たちの大きな声を模擬刀や刃潰しされた剣が交わる音が響いていた。

その中を縫うように歩きながら、周りの様子に目を配る騎士に仲間の1人が声をかける。

「フォル、お前とうとう男になったんだって?」

そう言って、フォルと呼ばれた細身の騎士の肩に別の仲間の騎士が腕を回す。

「聞いたぜ?一昨日、悪漢に襲われた美女を助けてそのままお持ち帰りしたんだろ?」

「どうだったよ?初めての女は?」

そう言ってからかってくる仲間で腕をフォルは捻り上げた。

「いででででっ」

「馬鹿だなぁ。フォルをからかう時は少し離れたところからにしとかなきゃ駄目だろ」

腕を捻られて痛がる仲間を尻目にそう言った仲間の足元にはナイフが突き刺さった。

「あっぶねぇ!お前は仲間の足を駄目にする気か!」

「馬鹿はお前たちだ!腕立てと腹筋1000回ずつ追加するぞ!」

「これ以上増やされたらこの後の任務に支障出るだろうが!」

「こらこら、訓練中にふざけるものじゃないよ。それと、年下でもフォルは君らの上司なんだから、からかって遊ぶものでもないね。ってことで、ロイとトールは罰として宿舎の掃除を手伝うように」

 逃げようとした仲間、ロイとトールの襟首を捕まえた相手はにこやかに二人に罰を伝える。

「げっ、隊長!」

「だったらまだ訓練増やされたほうがマシですよ!」

「そうかい?じゃあ、フォルの課した訓練に追加で500回ずつね。さぁ、早くやら無いと午後からここを使う隊に迷惑がかかるよ」

 そう言って、「鬼!」「鬼畜!」と叫びながら離れていく二人を急かす。

「・・・で?実際はどうなんだい?」

二人を見送り、他の訓練している仲間の邪魔にならないように壁際に寄ったところで、そう聞かれて、フォルば自分よりも頭一つ半は背の高い相手を見上げる。

 ハロルド・フロックス。近衛第三部隊の隊長でフォルの直属の上司に当たる彼は、男臭くて倦厭されがちな騎士団の中、女性人気の高い近衛騎士団の中でも特に女性から人気のある騎士の1人でもある。

 これでも騎士団の団長であるからその実力はもちろんだが、その甘いマスクと柔和な物腰、それに伯爵家の嫡男でありながら未だに婚約者がいないのも女性が放っておかない理由だろう。

 そんな自分よりまぁまぁ年上な上司に聞かれて、フォルは呆れの混じった声を上げる。

「実際も何も、持ち帰ったりなんてしてませんよ。暴漢に襲われていた方を助けて宿まで送り届けただけです。大体、私が・・・」

「フォルーーーー!!」

 フォルの声を遮るように響いた声にフォルだけでなく、訓練中の騎士たちも動きを止めて声のした入り口の方へ目を向ける。しかし、そこにいる人物を確認すると早々に騎士たちは訓練を再開した。

 入り口でフォルの名前を叫んだ人物はしばしキョロキョロを辺りを見回すと、お目当てを見つけたと言わんばかりにフォルへ向かって駆け出すと体当たりする勢いで抱きつく。

「フォル、貴方がお嫁さんを貰うなんて嘘よね!」

 そう言って、ぎゅうぎゅうと自分に回した腕を締め付けてくる相手にフォルは頭を抱えたくなった。

「姫、アナスタシア姫、落ち着いてください」

 そう言って、自分に抱きついてきた少女、この国の第三皇女であるアナスタシアを宥めるようにフォルはその小さな背中をぽんぽんと軽くたたいてやる。それに、フォルの胸に顔を埋めていたアナスタシアは顔を上げた。

 白い肌に、ふんわりとした蜂蜜を溶かしたような金の髪、髪と同じ色の睫は長く、大きく円らな琥珀のようなブラウンの瞳、走ってきたからかその頬は上気し、うっすらと染まっていた。

「私は嫁を貰ったりはしませんよ。一体誰にそんなことを聞いたんです?」

「本当に?フォルがなかなか会いに来てくれないから、会いに来たんだけど、そうしたら他の騎士たちが『フォルが女をお持ち帰りしたらしいから、とうとう嫁を貰うんじゃないか』って話しているのを聞いてしまったの・・・」

 そう言って、抱きついたまましょんぼりと下を向いてしまったアナスタシアの様子にフォルと姫付の侍女で彼女と一緒に来た二人が周りの騎士たちに冷ややかな視線を向ける。

 今年15歳になるとはいえ、箱入りの姫君になんて事を聞かせるのか。フォルと侍女たちの視線から逃げるように騎士たちは訓練に集中しているフリをしている。

 フォルはそんな仲間たちを取り合えず放っておくことにして、アナスタシアの腕を自分の腰から外させると跪き彼女と視線を合わせる。

「姫、奴らが何を言ったのかは知りませんが、私がお嫁さんを貰うことはありませんよ。元々結婚する気はありませんし、もしすることになったとしても、貰うのではなく、私が嫁ぐ方ですからね。私は女ですから」

「そういえばそうよね。フォルは強いし格好良いから、つい女性だって忘れてしまってたわ」

 機嫌が直ったのか、そう言ってアナスタシアはコロコロと笑った。

 そんなアナスタシアに、もう部屋を戻るように促し、侍女たちに彼女を任せた。

「モテる奴は大変だね」

「・・・お前に言われたくないけどね。むしろお前がさっさと嫁貰えよ。侯爵も嘆いてるんじゃないですか?」

「まぁね。でも、私と違って弟は婚約者ともうまくいっているようだし、無理に私が結婚して継がなくても問題はないよ。それに私はこの仕事を気に入っているから辞めてまで爵位を継ぎたいとも思わないんだよね」

 その言葉にフォルは、はぁ、と、ため息をついた。

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