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「おい!!城門の警備どうなってる!!」
「巡回ルート、もう一度確認しておけ!!」
「会場での配置は!?」
華やかな夜会の裏で繰り広げられる怒号を知ることもなく招待された貴族たちは続々と王宮に集まってきていた。
「ねぇ、お聞きになりまして?」
「ええ」
「アナスタシア様を差し置いて、デスフィニウス公爵にエスコートされるとか」
「陛下はアナスタシア様とデスフィニウス公爵を結婚させると思っておりましたわ」
「私もですわ。なのに、辺境伯令嬢が、なんて…」
「騎士団に所属しているらしいから、その関係じゃございません?」
「女性の身で騎士団に所属だなんて…。野蛮ですこと」
「本当に…。王妃様や姫様達をお守りする女性騎士団でしたら、まだ理解は出来ますけれど…」
「なんでも、近衛第二部隊の副隊長だとか…」
「まぁ!一体どんな手を使って出世したのかしら?」
そこ、ここでヒソヒソと囁かれる、しかし決して小さな声でない、会話に招待客であり、会場内の警備も担当しているロイを始めとした近衛第二部隊の面々は不愉快そうに眉を潜める。
外の巡回を任された同僚たちには会場内警備を羨ましがられたが、こんな女の醜い面を見せられるくらいなら外回りの方がよっぽどよかったと、ロイは思った。
ヒソヒソと自分の上司を貶めるようなことを言っているのは結婚適齢期の令嬢よりも、その親の方が多いようだ。
おそらく、先日の一件でその場に居合わせたり近しい者からその話を聞いた者は、触らぬ神にー、と言った感じなのだろう。
或いは、喉元過ぎればーと言ったところか。
野心を持つことを悪いとは思わないが、誰に聞かれるかも解らないようなところで他者を貶めるようなことを事をいい募るのは、その人間の品位は勿論、足元を掬われることに繋がりかねないというのに。
ロイは姦しい人々の事を意識的に思考から追い出し、会場内に不審な動きをする者はいないか、不備はないか、と視線を巡らせる。
もう少しすれば陛下を始めとした王族の登場と共に夜会が始まる。
そうすれば、一悶着処ではなく色々ありそうだと、ロイは憂鬱そうに小さく溜め息を吐いた。




