2019年4月(1)
ティエンフェイは神戸総合大学深江キャンパス軽音楽部に属している。軽音楽部といってもバンドがいくつかとソロの奏者が部室や大きな機材を共有する為の集まりでいわゆる部活としての縛りは緩かった。彼らがバンドをつくってティエンフェイを名乗るまで若干の紆余曲折というか曲げたのはもっぱら朱里先輩だったんだけど、まあ、そういうこと。
新入生は通常やり方も何も知らないから2回生以上がやっているバンドに入る事が多いというか普通はそうするんだけど、そうしなかった奴が3人ほどいた。それがギター&ヴォーカルの西田摩耶とドラムの中谷皆美、そしてキーボードの比嘉ふみよだった。当然この3人はすぐバンドを作る事で一致したけど、やり方を知らない。
摩耶が代表で4回生の部長に交渉に行く事にした。部長は体育・文化会の書記だかをやっていて週一度放課後はそちらにいる事が多いとは聞いていたので、そちらで会う事にしたのだ。中谷ちゃんと比嘉ふみよも時間があったのでついて行った。
「部長、うちら1回生だけでバンド作ってやりたいんですけど」
部長はハードパンクバンドの人だった。といっても普段は普通の格好してるけどね。
「やったらいいよ。ただうちは機材や部屋の調整、楽器の共用を行う互助会に過ぎない。雑務は各バンドで分担なんだ。昔、先輩が慣行で決まっていたことをまとめた文書があるけど、これも改訂されず変わっちゃってるからな。ついてこれないと各バンド、ソロ組合から多数意見が出たら最悪退会してもらう事になる」
「そんなのありなんですか?」
「代わりにバンド結成も脱退も自由だ。このクラブは互助会だよ。君たちがきちんと決まり事を守ってバンドから手伝いの人出したりしてくれるなら全然やってくれたらいい。練習部屋とか機材利用もできるよ。ただ決まり事が明確な書類になっていない事はなんともする手段を思いつかないな。ソロ組合から2回生か3回生に来て貰えばいいかもしれない」
比嘉ふみよが脇から聞いた。
「部長、ソロ組合ってなんです?」
「うちの部にはソロの奏者も入っているのは知ってるよね。彼らはこのクラブに参加するにあたり、事務作業手伝いとか運営に必要な労務をソロ奏者だけの組織を作って、そちらから出している。といっても多い年でも10名もいないけどね。今はたしか6名だったかな。一人、2回生の女子がいるから相談するのも手かもな」
そういうと部長は用事があるからと3人を事務室から追い出すと施錠して帰って行った。