前編
ふと空を見上げ雲が紅く染め上がっていくのを見届ける。
雲は紅く染め上げられるのを拒むかのようにその形を変えるが、
次第に形の変わるのを嘲笑うかのように紅く染め上がる早さは変わっていく。
「あんな風に誰かに染められるのならば…」なんて言葉を吐き、
視線を下げ、大小異なる人の群れが行きかう中にその身を投じる。
異なる動きをする人の群れの中に投じられ、慌てふためく様子もなく目的の場所へ歩を進める。
その一歩一歩が自分に重く圧し掛かり今にも引き返してしまおうとも思えたが、
「一度決めた事だ、引き返すな」と自分の言い聞かせなんとか歩を進める。
自分の足が震えていることを知りながらも気に止めず、確実に目的地を見据えながら歩を歩める。
「ここまで来れたのなら、十分だろう」
誰かが耳元で言うが「自分の目的地はここではないまだ先だまだ進めるだろ」
っと歩みを止めることはしない、ここで止めてしまえば何も変わらないのだと知っているからだ。
「ここで止まってていいんだよ、もう辛い事はないんだから。」
歩みを止めようと甘い言葉を流しこまれるがここでは止まれない。
弱弱しく足を震わせながらも進む姿を人目には痛々しいものだと映しこまれるが、
自分の両親は止めようとも応援んしようともせずに見守ってきたのに誰が自分の足を止めるのだ?
気休めでその足を止められた先に待つのは後悔でしかないのは分かっている。
だからこそ決めた事を曲げないよう歩を進めるのではないか、
自分のしようとしてることが他人の悪意・善意で止められずに生きるのではないか。
限られた中で淡くも人を呑み込む蝋燭の火の様に、自分のできることを精一杯やりつくすのではないか。
涙が落ちる様に雨が降りこの身を包み込む。
「早くしなくちゃ、手遅れになる前に」
歩みを急かすかのように雨は強くなり、足を止める事などいっそうできなくなる。
雨の中歩みを止めることなどなくだんだんと走りだしていく。
坂道を上ることにすら足を休める事無く駆け上がり、目的地に着く。
目的地…坂の上にあったのは小さな病院であった、急ぎながらも足を震わせながら病院の一室に入る。
「やっと来たんだね…ずっと待ってたんだよ」
病室のベットに横たわりながら痩せた少女は言った。
「ごめん…ほんとはもっと早く来るべきだったんだろうけど…」
「怖かったんでしょ」
「それは…」
「あの日の事を思い出すたびに私も怖いって思う」
「それでも、僕は君を置いて逃げたんだ!!!元々合わす顔なんてなかったんだ!」
「それで…?ほんとは私が死んじゃうかもしれないのに、
君が自分の臓器を分けて私が生きてるのに」
「それでも!君が崖から転落したことを僕は黙って見る事しかできなかったんだ」
ベッドに横たわった少女は体を無理に動かし血を吐きながら怒鳴り始めた。
「そんぐらいの事で何よ!!今私は貴方のおかげで生きてるの!
崖から落ちたのは私のせいなの!それなのにこの4年間貴方にお礼すらも言えないこっちの気持が…」
途中で少女は泣きながらも話すが、少女は顔色を悪くしていく。
「もういいから…もういいから、無理はやめなよ…」
「貴方は自分のせいで私がこうなってると思うでしょ…
じゃあそう思うならもう逃げずに……会いにきて……」
血を吐き続ける少女はナースコールを押させないよう掴む。
そんな弱弱しい力を撫でるように振りほどきナースコールを押す。
「今まで失ってきた物を取り戻すことはできないよ…だからこれからはずっと一緒にい…て…」
少女はそう言って手術室へと運ばれた。