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【09-04】

 おとといは村山に誘われて和食のお店行くと、そこには菊池さんもいて三人でご飯を食べることになった。

 村山さん曰く、矢澤コーチに僕のことを頼まれたんだそうだ。本当はマネージャーの自分が世話をしたいのだけど、どうやら話し合いが長引いていて夕食の時間には間に合わないと。自分の都合で僕を待たせるのもよくないからと村山さんにお願いしたそうだ。村山さんは既婚者で子供もいるからと村山さんが選ばれたみたい。で、村山さんがもともと約束をしていた菊池さんに僕が一緒で大丈夫か了解を取って、三人で夕食という運びになった。


 村山さんと菊池さんに色々とマナーや経験談を聞きながら僕は夕飯を食べてその日は終了。シャワーを浴びて寝てしまった。だって、やることなかったんだもん。前日まではずっとAW漬けだったのに。なんて浸ってしまっていたのは内緒だ。

 思えば入学から今日までずっとAW漬けだった。入学当初は本当にゲームばかりやっていてもいいのかと思ったけどこうして振り返ればずっとゲームやってたな。

 勉強もゲームというエサが目の前に吊るされているからかやる気が出た。一名を除いて僕と同じ気持ちだったのだろう。

 僕の人生はもう大きな流れに乗ってしまっている気がする。今僕が置かれている状況。僕よりも高性能な自動防御(オートガード)の持ち主か防御力の持ち主が生まれない限り僕の選手としての活動は確実だ。未だにヴィーゼの街を出れていないプレイヤーの状況としてはおかしいな。この大会が終われば晴れて僕の夏休みがやってくる。


 ヴィーゼの街を抜けるための条件は冒険者ギルドから出る討伐依頼四種を達成すること。残りはグラスウルフだ。群れで行動するMOBで多対一の戦闘。しかも、コボルトやゴブリン以上の速度で連携してくる。今の僕は果たして勝てるだろうか。全日本選抜プレイヤー合宿でカズさんこと剛田和道選手との模擬戦で得た経験は活かせるのだろうか。最近は現実に反映された〔忍び足〕スキルで足音が出ないことにも当然のように慣れた。それどころか他者の出した音に敏感になった。視界も広がって反射神経向上した。

 今の僕はAWにリアルを侵略されているのかも、なんて。

 日本を離れてホームシックにでもなったのかな。なんか感傷的気分だ。今日はもう寝よう。


「おやすみ。黒川」

『おやすみなさいませ。若様』


 黒川が居てくれてよかった。




-------




 今日は矢澤コーチに連れられて実際にVRオリンピックで使われる施設での実機テストの日だ。日本で行われている全日本選抜プレイヤー合宿の最終日でもある。今日で合宿が終わりそこで解散。一週間の以内に各自こちらに向かって来る。僕の仕事は一週間の間により多く現環境を把握することだ。

 本庄さんからもらったデータに書かれた確認事項を朝から黒川と確認している。


「まず必要なのはアバターの操作感覚だよね」

『はい』

「で、次がラグ」

『はい。こちらはさまざまな場面での計測となっております』

「うん。どんな場面かは書かれてないけど負荷テストとでも思っておくよ」

『あとは』

「現実世界でのストレスチェック」

『さようです』


 この三つが僕が調べるべき大まかな事項だ。

 最初のアバターの操作感覚は単純に普段の環境と比べればいい。全日本選抜プレイヤー合宿で選手とされているプレイヤーはみんな国立VR競技専門高等学校でAWをプレイする感覚を身に着けている。それと比較してどうなっているか感想を言えばいい。感覚的に動きがずれるのはもちろんのこと、動きが冴える場合も報告する。

 実際にVR接続して体を動かしてみれば分かる。僕は大きく体を動かせないけどその分尻尾たちAIとの情報連絡に関しては日本一だ。体を動かして感じる重心の移動。足そこから感じる地面の反発に尻尾を動かしたときの空気抵抗。実数値として出されてたデータと僕の感覚を合わせて日本との差を割り出す。


 次にラグ。アバターの操作感覚という一つ目と変わらない感じもするけど、操作をしているうちに起こるラグを調べるとのこと。これは大会運営に報告して修正を求めるというから多少の誤差でも報告してと書いてある。

 現代において、通信環境というファクターを外すと理論上全世界でラグなんてものは発生しない。それほどの通信速度は確保できるようになっている。しかし、通信環境によってその通信速度を十全に利用できるかと言われれば否と答えるしかない。

 僕が通っている国立VR競技専門高等学校はラグはない。国が作った通信環境は万全でVRオリンピック開催期間のみ世界中の通信が一か所に集まって多少もっさりするぐらいだと聞いている。情報ソースは佐伯先輩と宮崎さん。大会前日の備品確認の時に世間話として教えてくれた。このラグもラグが発生しているだけど一般人は感じない程度だと言っていた。でも、生徒の中には感じる人がいたと宮崎さんが言っていた。そして、その人物が緒方先輩だとあとから佐伯先輩教えてくれた。

 延々とVR内でコーチたちが出したMOBとの戦闘やフィールドを替えての行動確認。最初は差なんてないと思っていたけど、数日たつと微妙に差を感じられるようになってくる。あれ? なんかおかしいっていうレベルもあれば、これは……!! というレベルもあって意外と面白い作業だった。


 最後が現実でのストレスチェック。

 これは簡単に言えばVR接続時にリラックスができる環境であるかということ。VR接続に際して体がリラックスできているかはプレイの質に直結する。VRに接続している間は体の感覚はなくても神経が切断されているわけではない。脳としては全身の感覚を保持しているから体のストレスは脳の演算処理に多少なりとも影響する。だからこそ、設置型のヘッドマウントデバイスというものが普及しているのだ。設置型は大きなリクライニングチェアの中にPCが埋まっていて椅子を守る繭のように周囲を覆っているのも風や音といった情報をすこしでも遮断するためだ。

 僕は実際にストレスを感じたら報告すればいいというだけだ。

 設置型のヘッドマウントデバイスは日本に国立VR競技専門高等学校にあるものと同型だ。違和感はない。テストした部屋は実際に選手が使う部屋と同じ部屋を使った。国ごとに部屋が分かれていて数十機と置かれたヘッドマウントデバイスを横目に僕はプレイする。部屋の中にはドリンクサーバーと軽食が置かれているしトイレも併設されている。明かりも十分でこれといったストレスを感じなかった。


 この三つ。文字にすれば簡単だけど、僕はそもそも選手としてのキャリアはゼロ。僕は一般人の部類だ。VR超人とも呼べる一線級の選手の人たちが感じられるような誤差は感じられないし、そういった細かい誤差を指摘することを求められているわけではないと思う。僕の仕事を本庄さんに説明されるときに言われたことだ。特にラグに関しては各国が報告し合う。その結果、テスト開始時点では問題がなくても集まった情報から修正されたらラグを感じるということもあり得ると。現に僕も感じられた。これは自身の国が最もいい状況で大会に臨めるようにということもあるけどあえてラグを感じられる状態に持っていくという作戦の可能性もあるから一切の妥協は許されない。全員がラグを感じてパフォーマンスを落とすのはいいけど、一部の国が意図してラグを発生させて自国選手はそのラグ環境での練習をさせているとすればその国が地の利を得ることになる。そうならないためにも今日から大会初日の三日前、およそ一週間で現環境をより日本での環境にすこしでも近づけるようにする。それが僕の仕事。こうやってまとめると責任重大だよな……。


 その仕事をやりぬいた僕はもはや完全消化して燃えカスどころか灰も残っていない。





-------





 僕が燃えカスから元の可燃物に戻った日、第四回VRオリンピック初日を迎えた。



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