【08-10】新時代へ
『パーソナルAI起動。前任AIの存在を確認。継承しますか?』
継承ってなんかかっこいい言い方だな、と思いながら了承した。
「継承して」
『承認を確認。前任AIをこのリンカーの管理AIとして設定します。少々お待ちください』
リンカーの画面にはAI移行中。という字が出てから一瞬の暗転が入った後、パーソナルAIの設定画面に戻った。
『若。またお会いできて爺は涙がちょちょ切れてしまいそうです。リセットされて他のAIに乗り換えられるのではないかと内心ひやひやしておりました』
黒川の声が聞こえた。VRデバイスのAIの声は特に設定していなかった。黒川が起動してからずっと渋い声のままだ。リンカーは最初女性的な声だったけど今は渋い男性の音声に変わっている。でも、前の声とはちょっと違うかな。お爺さんっぽくなってるかも。老練さを感じながらも凛々しいさを感じるような感じないようなって感じの声に僕は感じた。結局感じたのかな。合成音声らしさも完全に消えている。まるで誰かと電話しているかのような感じ。
『このリンカーはすばらしいですな。バトラーの時とは処理能力が桁違いです。設定を書き換えるついでに音声も替えてみました。私に関する詳しい設定を聞いておりませんでしたので老執事風の声にいたしました。問題ありませんか?』
「う、うん。問題ないと思うけど。黒川でいいの? なんかいっぱい喋ってるけど」
継承したということは僕の前のデバイスの黒川のAIを継承したってことだと思うんだけど、なんか話し方が本物の人間みたいになってる。話している内容も人格がさもあるようにしか感じられない。前までは冗談を言っていてもAIの延長でAIだという感覚が抜けなかったのに。僕は初めての現象ではあるけど前にも何度も体験しているようにも思えてこの状況を受け入れていた。
それにしても、黒川って爺やの設定だったかな。
「なんか色々と突っ込みたいところはあるけど、これがAIなのか」
『はい。矢澤様。ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。黒川と申します。若様がいつもお世話になっております。本来ならば謝礼の品を添えるべきところですが、あいにくと私はAIですので言葉だけとなりますこと、ご容赦ください』
「き、気にしなくていいよ。私も仕事だからね。それにしても、堤君はAIに若様って呼ばせているんだね」
あ。
「なんか名家の生まれみたいでかっこいいわね」
「これってちゅうにび……」
「仁科さん、言わないほうが」
「そうだね。俺はいいと思うぞ。若様」
ぬおおおおお。あの時はノリで決めてしまったけどこうして他の人に知られるとすごく恥ずかしい。中二病だなんて初めていわれたけどこれほど恥ずかしいとは。いずれ僕が選手として大成してしまったときに『テイル選手のおちゃめな黒歴史』とかってタイトルで九時ぐらいに放送されるバラエティ番組で暴露されるのだ。
ああ。僕、選手目指すのやめたいなぁー。
「では、パーソナルAIの設定も出来たところでARの設定に移ろうか。若様」
「ぐぐぐ」
本庄さんまで僕を若様というのか。僕はついうねり声のような声を出しながら頭を抱える。
『AR設定ならば私がいたしましょう。若。よろしいでしょうか?』
「うん…… お願い」
もうどうにでもなれというか過去には戻れないというか。開き直って普段通り行こう。うん。そうしよう。もし九時ぐらいに放送されるバラエティ番組で暴露されたらこう言ってやるのだ。「え? なにかおかしいのですか?」って。そうすれば素で中二病ってことになって……素で痛いやつになっちゃうじゃん!! 対策を考えねば……
『かしこまりました。AR設定をデフォルト設定で反映させます』
黒川の宣言と同時に僕の掛けているグラスを通してARの情報が思い思いに浮かび上がってくる。
一番初めに目に入ったのはメガネの右上に出ている時間。デジタルで表示されている。他にも四隅を区切るようにぐにゃっとした線が書かれている。ぐにゃっとしか僕には表現できないけどこれがあるおかげで、なんだろう。ロボットのコックピットに乗ってるような感覚になる。
次に目に入ったのが、リンカー。今までは画面上に出ていた情報がリンカーから浮かび上がって見える。それを見ただけでもあたかもSFの世界に迷い込んだかのようだ。リンカーのことは置いておいて他に目を向けると僕の腕が変わっていた。変わっていたというより素肌が見えている。僕はさっきまでスーツを着ていたはずなんだけど。腕以外の部分を見るとズボンはジーンズで上半身は黒字のTシャツに替わっていた。Tシャツの胸の部分に『えすだぶりゅ~』と気の抜けたデザインのロゴが描かれている。SWにはあまり行かなかったから母さんがどこからか手に入れてきたこれを着てるんだった。
「これってSWの僕のアバター……?
「そうです。堤君の格好はARを使うとSWのアバターに見えています。これはリンカーの機能ですね。先ほど渡したメガネは別に名前はないので既に出回っているものと同じようにARグラスと言っておきますか。これと同様のものはこれまでも複数市販されていましたが、これに関してはグラス本体には主にARを表示するだけの機能のみが搭載されていて処理の大半を別に渡した小型のデバイスで行うのが特徴ですね。今皆さんが持っているのはいわば訪問者用のデバイスでして、今後リンカーが普及した際にはリンカーを通してARグラスを使用する形になります。では、次にこれを」
本庄さんはまた小さめの箱からこれまたリンカーやVRデバイスと同様のサイズのものを取り出してテーブルの中央付近に置いた。それはリンカーとは違って全面が金属的な光沢をしている。そして、側面をスイッチかボタンを押すような動作で押すとそのデバイスを中心にARが浮かび上がる。そこには『ニューワールドプロジェクト』とロゴが映し出されている。これ僕は正面から見えるけど横からだとどうなんだろう。反対からだと反転文字になるのかな。
『ニューワールドプロジェクト』??
「これがARを用いた新型のパーソナルコンピューターです」
本庄さんが同じ箱から何やら手袋を取り出して、それを嵌めながら僕たちに言った。
一瞬何を言っているのかわからなかった。パーソナルコンピューターってパソコンのことだよね。パソコンってこれがパソコン!?
僕以外の全員が唖然として呆けてしまう。
「これがARを用いた新型のパーソナルコンピューターです」
本庄さんがもう一度言った。大事なことだから二回行ったのかな。そんなスラングをバスの中で読んだことを今ふと思い出した。




