【08-06】着いた
飛行機の中。微かに感じる振動に眠気を感じていた。
飛行機がすでに離陸して十分ほど経っている。
僕は前座席についているモニターを見ながらリモコンを操作する。誰にでも使えるようにと作られたリモコンは複雑な操作を不要としている。僕は慣れた手つきでモニターを操作してお目当ての一覧に辿り着く。お目当ての一覧、それはもちろん機内で流れている映画やテレビ番組の一覧だ。
高校に入ってから僕は当然一回も映画を観に行っていない。そもそも学校の敷地から出ていなかった。たまにテレビで流れる映画も観る暇があればアナザーワールドをしていたから見ていないのだ。そもそも田舎に住んでたから映画館に行くために遠出をしていた僕からすれば映画はテレビのロード―ショーが最新のものだった。僕は久しぶりの映画だと気づきすこしわくわくする。どれにしようかと悩んでいると隣に座る菊池さんと村山さんの会話が耳に入った。僕は左耳のイヤホンをさりげなく外し聞き耳を立てた。ここで「何の話ですか?」と割って入るほど僕はコミュニケーション能力が高いわけではないのだ。
「あ、この映画って少し前に話題になったやつですよね?」
「ほんとだ。確か○○○○が出てたやつよね?」
「そうです。ちょうど見たかったんですよ」
「へえ。じゃあ、私も見てみようかしら。えっと、タイトルは……」
僕はさりげなく隣の菊池さんのモニターを見て映画のタイトルを確認する。知らないタイトルだ。村山さんが言った俳優の名前も全然わからないし、この半年ですでに話が分からないなんて時代の流れははやいな。
確認を終えた僕は早速その映画を観ようとリモコンを操作して気づく。ここでこの映画を見たら、僕が今の話を聞いていたと気づかれるのではないかと。幸いにも十時間以上この飛行機に乗っていることになるのだ。僕は適当なテレビ番組の録画を再生した。
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空の旅は長く感じる。窮屈な椅子に座ってひたすら前のディスプレイを見続ける。録画されたテレビ番組も二時間もすれば飽きてしまう。そこからはデバイスを出して適当にネットサーフィンをしていた。菊池さんたちが話していた映画のことは頭の中からすっぽり飛んでしまっていた。
途中に機内食が出た。「びーふおあちきん?」と聞かれたのでとりあえずビーフと答えた。気圧の変化で少し変わった味覚での食事を楽しみながら完食。思いのほかおいしかった。アイスも出てきたし僕としては満足だ。
食事をすれば飲み物を飲む。飲み物を飲めばトイレにも行きたくなる。その段階になってなぜ窓側を譲られたのか気づいた。機内食が回収されたときにトイレに向かったが数人の列ができていて、みんな同じことを考えているんだななんて考えていた。
トイレから戻ると前三列に座っている矢澤コーチが後ろに振り返ってニューヨーク到着後の説明を始めた。
「向こうにつけば案内人がいるはずだからその人と合流するまではくれぐれもはぐれないように。特に堤君」
「はい」
名指しで注意を受ける。仕方ない。僕まだ子供だもん。
「それぞれ持っている携帯デバイスに同時通訳用のソフトは入っているね? しっかり起動しておくこと。じゃあ、私は寝るから。おやすみ」
そう言って矢澤コーチはアイマスクをらしきものを付けた。
内容としては、飛行機から降りればそこに空港側の案内人がいる。その人の案内に従って荷物を受け取り入国手続きをして空港の外に行く、と。空港の外からは現地にいる日本側のスタッフが迎えに来てくれているという。何とも至れり尽くせりだ。
それにしても、同時通訳用のソフトなんて入っていたかなと黒川に調べさせると見つかった。飛行機の中で声での操作はできないが文字で打てば黒川は使える。学校に入るまでは個人用AIなんて縁のない生活をしていたのに今では黒川無しなんて考えられないな。
通訳用のソフトはデバイスを介して聞こえた音声を指定した言語に翻訳して電子音声で流すこともできるのだが、今回使う機能はそれをデバイスからイヤホンを入出力口として使うことになるみたいだ。声の選択ができたから相手の性別に合わせて適当に流すってやつにしておいた。
矢澤コーチの話では同じソフトやアプリが各国のスタッフ、選手、その他関係者のデバイスに入っているため、相手の声を自分のデバイスに入れなくても勝手に通信してくれる。
そんなこんなでデバイスをいじっているとどうやら矢澤コーチに渡されたイヤホンのマイクからでも黒川に指示を出せるみたいだ。少しは声の音量を抑えられるかもしれないけど、どうかな。ハンズフリーで使えるとなればいいのか。なんて思っていたらデバイスの画面にイヤホンを付けるように指示が出た。僕はポケットからイヤホンを出して左耳につける。すると、イヤホンから黒川の音声が聞こえてきた。
「こちらから忠言を呈すこともできます」
本当に便利だな。僕は小さく「ありがと」とつぶやく。アメリカにいる間は絶対にイヤホンを付けていようと決心した瞬間である。
「瑠太様。更新チェックしていた掲示板に面白い情報が流れています。ご覧になられますか?」
黒川が何やら面白い情報を見つけたようだ。デバイスで操作するとその掲示板が表示される。というか、黒川に掲示板をチェックする機能なんて付いてたんだ。それとも、学習したのかな。
その掲示板では、どうやら今年大幅なアップデートが行われると書かれている。しかも、年齢制限が解除されるなんてことも書かれている。あとは、AR天国? なんじゃこりゃ。なんかよくわからないことがつらつらと書かれているけど、これはデマだとしか言いようのない説得力だ。でも、内容の具体性は高いかも。僕は真剣に読んでしまう。
なんでも、ビジターモードなるものが追加されて全年齢になるとかならないとか。うーん。ありそうだけど。掲示板ではみんな嘘だと思いながらも乗っかって騒いでる感じかな。イベントの一環だとでもおもってるのだろうか。
僕は黒川にこれと類似した情報を探すように指示してみて寝ることにした。前はできなかったけど今はできそうな気がする。AIの進歩具合が分からないなんて笑っていいのかいけないのかわからないな。
適当に時間を潰しながらもちょっとの睡眠をとれば、気づけばJFK空港に到着していた。
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僕らは最後の方に降りるみたいで、乗客が掃けるのを座って待っている。
飛行機を降りればそのまま入国審査だ。僕たちは入国審査のゲートまでの道を進まずに通路にいれば人が来るって聞いていたけど、僕たちが飛行機から降りたときにはすでに人が居た。
「矢澤様と日本チームのスタッフの方々ですね?」
「ええ」
「では、ご案内します」
空港の案内人で、現地の人だから当然英語で話していたが、耳にしていたイヤホンからほぼノータイムで日本語に翻訳されたセリフが流れる。今まで全くと言っていいほどこのアプリの名前を聞いていなかったけどすごいな。もしかしたら僕が知らないだけで有名なアプリなのかもしれない。
日本のように入国審査を別でということはなかったが空いている列に誘導してくれたからすぐに審査も終わり、無事入国。
荷物を受け取ってゲートを抜ける辺りで空港の案内人とは別れたが出迎えの人だかりの中に矢澤様ご一行と丁寧に崩した日本語で書かれたプラカードを持った日本人がいた。それを見た矢澤コーチたちは失笑していた。
その日本人の先導で車まで案内されあとはホテルへ直行となった。
僕はただみんなについて行っただけ。一人で海外を飛び回っている人が居るみたいだけど僕には無理そうだ。
そういえば、僕たちが止まるホテルのことを聞いていなかったな。安心安全で出来ればきれいなところがいいなと思いながら、車から見える景色をデバイスのカメラで撮影した。
あとで拓郎たちに送ってやるとしよう。




