【08-05】
時間が来た。そう言われた僕は機内に持ち込まない荷物を係りの人に預けた。持ち込むものも携帯デバイスと先ほど渡されたイヤホンぐらいで他には特に持ち込まない。
このイヤホンは本当に片耳用で箱に入っていた仕様書を見る限りでは聞くだけでなくマイクの機能も付いていると書かれていた。受け取ってから早速ライトラインで繋げたら黒川が勝手に設定をしといてくれた。
僕たちは矢澤コーチに呼ばれて集合する。そこには一人の空港職員がいた。彼は空港スタッフの中では役職のすこしだけ高い人のようで僕たちの先導をしてくれる人だと聞いた。
僕たちは彼の先導で待合室を出た。
僕たちがいた待合室を出るとそこは通路になっていた。
その通路を進み、出た先は一般の荷物検査前のゲートの真横だった。僕たちはそこからゲートをくぐる。ゲートの周りには見送りらしき人たちと会話している人の塊がいくつもあった。僕たちがゲートをくぐる間、いくつかのフラッシュ音が聞こえた気もしたが気にする程の事でもなかった。フラッシュ音が聞こえただけだったからだ。合宿初日の夕食会前やテレビに映るスターの来日を想像していた僕は肩透かしを受けた。だが、実際に予想通りになっていれば途方もない疲労をする。それよりは断然いいと考え安堵した。
ゲートをくぐるとそこには、荷物検査を受けるための行列があった。これはもう定番のことだ。以前僕が両親と旅行に行った時は何やら会員に入っているとかで早く済んだが、それでも幾分か並んだ記憶がある。ましてや、今は夏休み前半だ。その行列を見るだけで憂鬱になるほどの列ができていた。子連れの家族がいくつもまとまって何やら順番を待っているのが見える。小さい子供を連れている親は大変だろうななどと僕の頭の片隅を四dぎった。
荷物検査前の行列の横を抜けていく僕たち。多少、怪訝な顔をした人たちに視線を向けられたがこれは無視だ。待合室での打ち合わせの時にもこういう視線にも反応しないようにと言われていた。
列ができていな荷物検査の機械を形だけだが僕たちは使うようだ。僕としては携帯デバイスとイヤホンしか持ってないのでそれを機械に流した。その後、機械探知機を抜けた。当然反応はない。僕はデバイスとイヤホンをポケットにしまって先に進んだ。
荷物検査を終えた僕たちは何事もなく出国の手続きをするための列に並んだ。これも荷物検査と一緒にしていたので、これは一種のパフォーマンスだ。ここも素通りはできないらしい。まあ、当然だ。ここでは列に並んでいるときに矢澤コーチが数人に何やら尋ねられていたがそれもどうにか往なしていた。その姿は堂に入ってた。
出国手続きを終えた一行は歩みを緩めることなく歩くエスカレーターを進む。記者らしき人は見つからない。僕は久々に感じるエスカレーターを抜けた時の体感速度の差を楽しみながら、歩くことだけに集中した。
その後も何やらと話しかける人もいたし写真を撮る人もいたがそれも無視していく。そうして、僕たちは搭乗口までたどり着いた。端の方ではなかったようで、割とすぐに着いた。
搭乗口では係りの人が待っていたかのか、僕たちの搭乗券を先導していた職員が係りの人に渡すとそれを機械にかざした。音を鳴らして認証した機械から搭乗券を放し、係りの人が先導の職員へ返した。それを僕たちはそれぞれ受け取りながら搭乗口を抜けた。
先導の人はここまでのようで矢澤コーチが礼を言って先を歩いた。僕も軽く会釈してから先に進んだ。
飛行機へと続くボーディング・ブリッジを歩く。微妙に外の熱気を感じる。搭乗口を抜けてまわりの眼が減ったことを期に、村山さんが口を開いた。
「何の問題もなくてよかったですね」
それを口切に僕たちは会話を始める。
「そうですね」
菊池さんが同意した。その横の仁科さんも同意する。
「余り情報が流れてなかったんですかね」
仁科さんの言に矢澤コーチが答えた。
「今回は急きょ決まった形だからね。あまり流れる時間もなかったのかな」
なるほど。そう言えば僕に伝えたのも出発の前日だった。いきなり決まったからこそ前日に知らせたということか。
僕たちが二言三言、話をすると飛行機に辿り着く。
そこでキャビンアテンダントの女性が矢澤コーチに挨拶をした。
「本日はご搭乗ありがとうございます。本日の客室担当で、藤井と申します。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げたキャビンアテンダント改め藤井さんに返すように頭を下げた。
「では、お席へ案内します」
そう言って僕たちは飛行機の中に入った。
ファーストクラスを抜けてエコノミークラスへと進む。僕たちの席はエコノミーのようだ。国のスタッフだからと淡い期待もしていたのだが。僕たちの席はかなり後ろのようだ。というか、最後部だった。すぐ後ろにトイレがある。
僕はどうやら窓側になった。村山さんが「堤君は窓側ね」と一言言って決定になった。特にこだわりもなかったので僕はそれを了承した。そのことに軽く後悔するのだが、それはもう少し後のことだ。僕は右最後部の窓側だ。前の席が仁科さんだ。
僕たちが席を確認し終えると藤井さんは本来の仕事に戻っていった。そして、しばらくするとだんだんと人が搭乗してきた。その時にはすでに僕たちは席に着いて各々のしたいことをしている。
僕も座席に置かれているイヤホンをセットして、前座席に設置されているモニターを操作する。座席につけられたリモコンでの操作だ。少し前には、一時的にこのモニターをタッチパネルにしようという考えもあったらしいのだが前座席が揺れるとの理由から却下されたそうだ。
僕は適当にラジオを着けてイヤホンをした。流れてくるのは洋楽だ。英語は分からないがなんとなく楽しい。
僕はポケットからデバイスを出した。
声を出せないから声での指示はできないがそれでも黒川の機能は有能だ。普通に操作していてもいろいろと何やらしてくれているのだ。ネットを見て離陸までの時間を潰した。昔は機内で携帯電話の使用が出来なかったなんて聞いているが今では考えられない。今では機内に入ればそれ専用の回線に瞬時に切り替わるようになっていて重要な通信と混線しないのだ。
どれぐらいたったかわからないが周りの席がほぼ埋まっていた。途中、隣に座る菊池さんが毛布を貰った時に僕も一緒にもらっておいた。今は膝に掛けてある。
そして、アナウンスが流れた。
「本日は――」
アナウンスが流れてしばらくすると離陸の準備が始まった。アナウンスに流れる非常用の案内を見ながら僕は今一度シートベルトの確認をした。
緩やかに加速を始めた機体の揺れが徐々に大きくなりついに離陸した。浮遊感を感じる。ヘリでの移動の時も浮遊感を感じたが、飛行機だと前に進んでいる力も感じられて浮遊感も別ものだ。
さて、向かう先はアメリカだ。僕は初めて行く地に今更ながら少し心を震わせた。
個人的な都合により、二週間ほど更新を休止するかもしれません。
まだ未定ですが正確に更新を停止する場合は活動報告に書いておきます。
ご容赦ください。




