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【06-11】夕食会(合宿前日⑧)

 エレベーターを降りて食堂に入る。

 食堂の中は昼に来た時と全く同じだった。聞くところによると今日の夕食会は昼食と同じようにカウンターでもらった食事を食べるだけの会みたいだ。

 明日の夜に本格的なビュッフェ形式の豪華な夕食会を行うらしく、そこには何やらお偉いさんも来るらしい。僕はその事実に内心で戦々恐々としながら頭の片隅にそっとしまっておいた。


 テーブルにはすでに何人かのスタッフの人が座っていて、イットク先輩や智也たち生徒も固まって座っていた。僕もそっちの方に言った方がいいのかとも思ったが食堂に来る最中にカズさんが奥さんを紹介すると言っていたのを思い出し、二人に付いて行くことにした。

 カズさんの奥さんは奥の方にあるソファーに座って誰かと話していた。食堂の入り口からではわからなかったが、三鴨さんだったようだ。


 カズさんたちが近づいていくとそれに気づいた二人がカズさんを見た。


 「やっと来たか」


 カズさんの奥さんがカズさんに皮肉そうに言った。


 「ごめんね。思いのほか話が盛り上がっちゃって」


 カズさんは軽く笑いながら言う。


 「もうそんな時間か。では、私はここで」


 三鴨さんがカズさんの奥さんにそう言って席を立った。主観だが、三鴨さんがカズさんの奥さんに向けた言葉は、僕たちのものとは違い社会人の人がするようなものの気がした。

 三鴨さんが席を立った後、空いた席に三人で座った。

 

 まず、カズさんが僕を奥さんに紹介した。


 「さっき見てたかもしれないけど、彼が堤瑠太くん。VRルームで尻尾生やして戦ってた子だね」


 カズさんが奥さんの方を見た後、僕の方を手で示しながら言った。


 「それで、こっちが僕の奥さん」


 僕はそれに合わせて軽く頭を下げた。


 「初めまして。私は美樹。そこにいるのの妻をしている」


 「堤です。よろしくお願いします」


 僕たちは挨拶をする。その後は、カズさんと美樹さんがそれぞれ聞いたことや見たことを報告しあっていた。端で聞いていた限りでは、最初は僕たち生徒の行っていたVR空間での作業の感想から始まって、この合宿所の設備の話、これは過去三回と比べてどうだったかだとか、自分が手を加えるならばどうするかだとか、かなり高度な話にまで発展していた。最後の方は、口論になりかけて矢澤コーチに止められていた。その時の矢澤コーチの苦笑気味な顔が少し面白かったのは内緒だ。


 それからいろいろと話が飛びながらも会話を続けた。話の流れで、僕はカズさんの奥さんを『美樹さん』と呼ぶように言われ、僕はカズさんと同じように『瑠太君』と呼ばれるようになった。

 なぜか矢澤コーチをそれに便乗して僕のことを瑠太君と呼んでいる。別に問題はないので何も言わなかった。


 僕は基本的に話に加わらず、相槌を打つ。元々話すのが好きな性格でもないし、僕以外の三人が大人で僕よりも立場が上な人だから余計に話に加わりづらかった。それでも、いろいろと聞かれた事にはしっかりと答えたので大丈夫だと思う。途中、いろいろ聞かれたものの多くは高校―『国立VR競技専門高等学校』―のことだった。


 学校の設備はどうか。教師の質はどうか。問題のあるような生徒はいるのか。生徒の視点での意見がほしいとのことだったので、僕は素直に自分が感じていたことを話した。

 かなり詳しく聞かれたが、カズさんを美樹さんも聞き上手で、僕はすらすらと答えていた。


 他にも世間のことや世界のニュースを教えてもらった。

 この学校にいるとそういったことには疎くなる傾向があるらしい。それを聞いて、僕も納得する。

 クラスの中でもニュースを見る暇があればゲームという人が多い。クラスメイトが話している内容も、テレビのことではなくゲーム内のことが多い気がする。ゲームというのはもちろん『アナザーワールド』のことだ。世間の大きな事柄に関しては知っていても、小さな事やちょっとした噂についてはあまり耳にしなくなったと話している最中に気が付いた。


 美樹さんは大手の服飾系の企業の社長をしているせいか面白い噂も教えてくれるので話を聞くのがとても楽しかった。話し上手だ。美樹さんの会社は『セカンドワールド』への進出も積極的に行っている会社で、自身の会社でデザインした服も多く販売している。他にも自社や他社が販売している服を組み合わせたコーディネートをしてくれるというサービスを『セカンドワールド』内でしたところ大好評となり、話題が話題を呼び、今では『セカンドワールド』内でも最大手のサービスの内の一つとなっている。その利用者は日本人だけでなく多くの外国人がいて、それに付随するように多くの海外の服飾系の企業と提携するようになっているらしい。その結果、どこかの民族の伝統衣装を取り入れた奇抜なファッションが流行し始めるという一種の社会現象を起こすまでになったそうだ。今では、服に迷ったらそのサービスを利用するという人がファッション好きな若者の大半になっているみたいだ。


 僕が大人三人に囲まれ有意義な時間を過ごしていると騒がしかった食堂内が静かになっていくのに気づいた。夕食会を始めるようだ。

 僕たちは各々の夕食を取りに席を立った。カウンターに昼食の時にあった奥田さん以外にも何人かの料理人さんがてんてこ舞いしていた。


 僕はカズさんたちと一緒にいたからか、それとも、強化選手だからかはわからないが優先的に夕食をもらえた。僕たちは四人でソファーのある方のテーブルに着いた。


 数分で食堂内にいる人全員に夕食が行き渡ったようだ。

 三鴨さんが食堂内の目立つ場所に立った。


 「まずは皆さん、ご苦労様! 現段階でも、今年も予定通り合宿を始められそうです。今年は四回目の全日本選抜プレイヤー合宿です。去年は――」


 話は続き、最後に三鴨さんが「いただきましょう」と言い、それに食堂内の人全員が「いただきます」続いていく。


 僕も「いただきます」と言ってからご飯を食べ始める。今日の夕食はカレー。入学初日と同じだ。


 矢澤コーチと美樹さんも同じものを食べている。

 僕は対面に座るカズさんのトレーを見る。


 そこには大盛りのカレーとなぜかケーキが置かれていた。それもホールだ。個人用のホールケーキが置かれている。イチゴのショートだ。ケーキには生クリームが周りに着かないようにするフィルムがついているので奥田さんたちが作ったものってわけではないのかもしれない。今日はカズさんの誕生日なんだろうか。それにしては、誰も何も言わないが。


 僕がそれを見ているのに矢澤コーチが気づいたらしく、理由を僕に教えてくれた。


 「ああ、カズさんのケーキに特に意味はないよ。カズさんはそれが普通なんだよ」

 「これが普通、ですか?」


 僕が矢澤コーチに聞き返すとカズさんが答えた。


 「僕はこれぐらい食べないと持たないんだよ」


 ケーキを食べないと持たない体っていうものに心当たりが全くないんだが、僕はとりあえず納得しておくことにした。


 「ふふっ」


 僕がなんとか納得した顔をしていると美樹さんが僕を見て笑っていた。

 僕がそれを見てさらになんとも言えない顔をすると、さらに笑いだした。

 よくわからない僕は救いを求めてカズさんを見るが、カズさんは子供のような笑顔でケーキを食べていた。その後に、カレーを食べるという所業に僕はまたなんとも言えない顔になる。そして、美樹さんが笑う。


 二度目のやり取りを見てようやく矢澤コーチが救いの手を差し伸べてくれた。


 「気にしなくていいよ。美樹さんのこれはいつものことだから。カズさんの食事を初めて見る人は大抵瑠太君と同じような顔をするからね。美樹さんはそれが面白いみたいなんだ」


 僕はとりあえず頷いておいた。結局、よくわからないままだが、僕は食事を再開した。


 カレーとケーキを交互に食べるカズさん。それを見てなんとも言えない顔になる僕。それを見て笑いを堪えながら食事を続ける美樹さん。同じテーブルで食べているにもかかわらずそれら全てを無視して黙々と食べ続ける矢澤コーチ。

 若干混沌カオスな食事が続く。


 なんとも言えない状況に僕の食事は続き食べ終わる頃には、僕たち以外の人たちも食べ終わった後なのか食堂は俄かに騒がしくなっていた。

 矢澤コーチ曰く、今日の夕食会はこれで終わりみたいだ。どこぞのパーティーみたいになるのは明日だと言う。カズさんだけでなく美樹さんもここにいる理由は、美樹さんが明日の夕食パーティーのコンサルタントをするためらしい。さっきは服飾関係の会社と言っていたし、僕が聞いていたのも服飾関係だけだったけど、本当はパーティーや結婚式のコンサルや広告のデザインなどと方々に手を広げているらしい。


 食堂にいる全員が食事を終えたと思われる頃合いになると、再び三鴨さんが前に立って今日の労いを再度した後、明日から頑張ろう、と言ってから明日の連絡をして、解散を宣言した。それに応じて手伝いに来ていたイットク先輩や智也たち生徒は合宿所を出ていった。僕も三人と別れる頃合いを見計らう。


 矢澤コーチや日本チームのスタッフの人はこの合宿等の上階にある専用の部屋に泊まるらしく、カズさんも自身に割り振られている選手用の部屋に泊まるらしい。美樹さんも当然、同室に泊まるらしい。

 カズさんや他数名のチームとしてだけでなくプレイヤーとして主力となる人は申請すれば大き目の部屋に泊まることができるだとかなんだとか矢澤コーチが言っていたのを思い出して納得した。僕が使うことはないだろうと思っていたのっですっかり忘れていた。


 僕は三人と少し話して別れを告げた。


 「今日はありがとうございました。明日からもよろしくお願いします」

 「お疲れ様」

 「明日からよろしくね」


 僕はすでに生徒のいなくなった合宿施設を一人で出る。外にも人いなく周辺には僕一人。

 僕は夜の風と匂いを嗅ぎながら寮にある自身の部屋へと足を動かした。


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