【06-01】期末テスト
拓郎が授業をサボってから二週間弱。
期末テスト一週間を切った今日、僕は日課のAWのプレイをやめて、勉強に専念することにした。イットク寮長が言っていたことを参考に自分が予想するテストの難易度よりも一回り難しいテストを想定して勉強を始めることにしたからだ。
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授業が終わり、校舎から戻って、僕は自室で机に向かっていた。勉強中だ。
科目は英語。僕は教科書に載っている英文を頭に入れていく。教科書に使われている言い回しは覚えておかないと意味がない。英文中に出てくる単語も単語帳で確認しておく。この二つだけでもやっておくとテストで楽になる。というか必須に近い。あとは単語か。さっき確認しなかった単語も確認しておかなければ。僕は一学期中に習った範囲の英文を順に読んでいく。文量としてはそう多くない。ゆっくりと読んでもそう時間はかからない。一文一文丁寧に翻訳しながら読み続けた。
すべて読み終えてから単語の確認も終えたところで英語の勉強は終わりにする。文法の勉強は明日すればいいだろう。まだ時間はある。
次は国語だ。現代文と古文。両方ともを英語の時と同じように教科書を読んでいく。文の理解と単語の理解。特に古文は時間を掛けて読んだ。
それが終わってから数学の勉強を始めた。やることはやっぱり教科書を読むこと。正直な話、僕は自身が取ったノートよりも教科書の方が優先順位が高いと思っている。だからこそ、教科書を読みながら授業で聞いたことを思い出していった。教科書にある問題もノートに丁寧に解いて、わからない場所を探していく。自分の中でしっかり理解できていない場所はすべて書き出しておく。確立の問題の時に使う公式の確認や方程式の解法の手順と確認すべきことは多い。
僕は一通り終えたところで夕食を食べるために食堂に向かった時間はすでに八時近くになっていた。
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期末テスト最終日。全ての科目のテストが終わったことを角田先生が宣言してログアウトすると、教室内にはテスト終了の明るくだらけきった雰囲気が充満していた。
クラスメイトもそれぞれが口々に友人に喋りかけていた。
僕が強化選手になったことが周知されたあの日から一か月程の時間が過ぎている。今では、僕に対する嫌な視線というのは感じない。
「終わったな!」
前に座る拓郎がヘッドマウントデバイスを外して後ろを向いてきた。
「やっとだね。大丈夫だった?」
「なにが?」
「いや、テスト」
拓郎はなぜかとぼけていた。一か月前、拓郎が授業を一日サボった日から、拓郎は少し変わった気がしている。今まで以上にAWに傾倒し、それ以外のことに対して関心を向けなくなっている気がする。気がするだけなのだが。
「大丈夫だ!……たぶん」
「え、大丈夫なの? ほんとうに? 大分難しかったけど」
「ッ大丈夫だ!」
今度は言い切った。
この一週間、僕は拓郎が勉強していたように思えなかった。校舎までの道はいつも一緒に行動していたが、部屋に戻れば別行動。夕食の時間もバラバラ。寝るのは僕が寝た後。何時寝ているのかわからないぐらいだ。
この学校の風潮からして拓郎の行動がおかしいわけではないし、僕が何か言うようなことでもない。それでも心配する。期末テストで赤点を取れば夏休み返上。そうなれば、AWどころではなくなってしまう。
拓郎も何か考えての行動だろうから僕は何も言わないが、もし赤点を取っているようであれば何か言わないといけないかな。
「まあ、期末も終わったことだし、あとは夏休みだね」
僕は話題を変える意味も含めてそう言った。
「AWしかすることないだろうけどな」
「確かに。この学校にいる間はAWに関することがほとんどだけどね」
「そうだな」
「あ、でもなんか申請すれば外に出れるらしいよ」
「外って、この学校の?」
「うん」
「帰省のためであれば出れるってことは知ってたけど、それって家族からの申請があったときだけだったような」
「それ以外でも理由が認められれば出れるらしいよ。外泊もできるみたい」
「へぇー。知らなかったな」
拓郎は知らなかったみたいだ。まあ、僕も最近知ったことなんだが。
僕が知ったのは強化選手になったときにもらったVRデバイスに入っていた選手用のアプリを見ていたときのことだ。
選手用のアプリには選手やコーチたちと連絡を取るためのアプリや選手として活動するときに役に立つアプリが多い。だが、僕が見たのはそれらではない。僕が見たのは選手としての規則や必要となる知識についてまとめられているアプリだ。
「じゃあ、なんだ。なんか理由でもあれば海とかも行けるってことか?」
「そうなんじゃないかな。理由を考えるのが大変だけど」
拓郎が夏らしい発想をした。夏といえば海。安直だが定番だ。僕も田舎ではよく川遊びをしていた。
「理由か……」
「行きたいの?」
顎に手を当てて真剣に考え始めた拓郎。僕は聞いた。
「うーん。いや。あんまり」
「やっぱり」
学校をさぼった日から拓郎はAWをする時間が増えている。ということは、それだけAWをする理由があるはずだ。それを置いておいて海に行くなんてことはないだろう。これが勉強であれば別だけど。
「瑠太は合宿だったよな?」
「うん」
僕は頷いて肯定する。明日から始める期末テストの答案解説が終わって夏休みに入るとすぐ合宿になる。うちの高校で行われるため、特に準備をする必要もない。
「いいなー。俺も参加したかったな」
「来年からが本番だよ。今年はどう頑張っても出場できないし」
僕は拓郎を励まそうとする。少し気まずい。僕は実力で選ばれたわけではないのだ。それに一年の僕が今年の大会に参加するのは何があっても不可能で、拓郎mのまた同じである。
「それでも参加したかった」
拓郎はよほど悔しいらしい。声に感情が乗っている。
「頑張るしかないよ」
上から目線に聞こえてしまうだろうか。それでも、言わずにはいられなかった。
「ああ。瑠太もな。合宿だ終わったら話聞かせてくれ」
「うん。もちろん」
あの日から僕と友達との関係は表面上の変化を見受けられない。ただ一つ変わったのは、僕の考え方。これまでのように何でも話せるとは言えない。何かと考えてしまう。これを言ったら嫌味に聞こえるだろうか。上から目線過ぎないだろうか。どうしようもないことだと自分でも笑ってしまうが、これが今の悩みだ。
いつかこの悩みが晴らせる時が来るのだろうか。
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角田先生の挨拶も終わり、明日からの予定の説明をされた後、クラスは解散になった。
僕は拓郎や智也たちと今日のテストについて、ああでもないこうでもないと喋りながら寮に戻ってきた。
僕は今、自室でシャワーを浴び終えたところだ。拓郎はすでにVRルームに向かっている。僕も着替えを置いてVRルームに向かった。
テスト終わりだからかVRルームに向かう人の数が多い。今日は珍しく訓練の予定がない。テスト期間中はもちろんなかったのだが、テスト終わりの今日の訓練もスケジュール表には書かれていなかった。矢澤コーチのミスなんじゃないかと思わなくもないが、意味のある休みの可能性も考えて今日はお休みにした。
僕はAWをプレイするために、VRルームに向かった。
遅くなって申し訳ありません。
六章の執筆が全然進んでいません。
もう少しお待ちください。




