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【05-10】日常

 ログアウトし、目を覚ました僕はヘッドマウントデバイスを頭から外した。VRデバイスも外してポケットに入れる。

 

 VRルームから部屋に戻った僕は共有スペースに拓郎の姿がないことを確認する。そして、黒川に新たな通知がないことも確認した。AWに熱中してるのだろう。少し時間が早いが、僕は先に寝ることにした。共有スペースでテレビを見て時間を潰すのもいいのだが、あまり気が乗らなかった。

 VRデバイスを充電器に差し、自室のベッドに入った僕は布団をかぶる。寝っ転がりながらVRデバイスをいじっていると、僕はいつの間にか眠りに落ちていた。

 

 

 

-------

 

 

 

 翌日の朝、黒川の声で起こされた僕は共有スペースを通って洗面所で顔を洗う。共有スペースには拓郎の姿はなかった。拓郎が起きてくるのを少し待って行ったが起きてくる気配はない。僕は椅子に座りテレビを付けた。見るのはニュース番組。テレビから小さく流れるニュースの音は僕の耳を通り、耳から出ていく。ぼんやりと色鮮やかに移り変わるディスプレイを見て僕は眠気を覚まそうとする。

 僕がぼんやりとニュースを見始めて十分弱。まだ拓郎は起きてこない。いつもは同じぐらいの時間に起きるので、朝に拓郎が起きるのを待つというのは初めてのことだ。寝坊というのは誰にでもあることだ。時間もまだたくさんある。僕はニュースを見て時間を潰した。

 

 七時半を過ぎ、未だに姿を現さない拓郎に、さすがに不安を感じる。先に食堂に行くのもなしではないのだが、寝坊しているのを放置して行くのは気が引ける。僕は拓郎の自室のドアをノックした。

 

 「拓郎、朝だよ。起きてる?」

 

 返事はない。僕はもう一度強めにノックしてから同じことを言った。

 

 「拓郎! 朝だよ! 起きてる!?」

 

 尚も返事はない。僕は先に食堂に行くことにする。

 

 「先に食堂行くからね!」

 

 一応拓郎にそう告げて、僕は部屋を出た。もしかしたら食堂にいるかもしれない。そんなことを考えながらエレベーターを待った。

 

 

 

-------

 

 

 

 食堂では既に大半の椅子が埋まっていた。僕は開いた隙間を通って、給仕カウンターで朝食を貰い、空いた席を探す。丁度智也と坪田君が座っている席の隣が空いているのを発見した。僕は二人に近づいた。

 

 「おはよう。ここいいかな?」

 

 僕の声を聞いて、二人の顔がこちらを向く。

 

 「おはよう、瑠太。構わないぞ」

 「おはよう、堤」

 

 二人に朝の挨拶をして、僕は席に座った。二人はすでに朝食のほとんどを食べ終わっていた。席に着いて手を合わせてから食べ始めた僕を見て坪田君が僕に言った。

 

 「そう言えば、強化選手、おめでとう」

 「ありがと」

 

 僕はとりあえずお礼の言葉を言っておいた。

 

 「次に続けるように俺も頑張らないとなー」

 

 坪田君が最後の白米を飲み込んで言った。

 

 「そうだな。一年の瑠太が選ばれたんだ。私たちにもチャンスはあるはずだ」

 

 智也も坪田君に同意して、前向きな発言をした。今まで通り接してくれる二人に僕は顎を動かしながら感謝した。

 

 しばらく三人で話していると、智也が何か気付いた顔で聞いてきた。

 

 「そう言えば、拓郎はどうしたんだ?」

 「拓郎はまだ寝てるのかな? 見てないでしょ?」

 「寝てる? 寝坊かー」

 

 僕が答えると坪田君が頷きながら言った。

 

 「お前は寝坊しすぎだ」

 

 坪田君は寝坊の常習犯みたいだ。

 

 「部屋に戻ったら一度拓郎の自室に入って確認した方がいいぞ。体調を崩しているのかもしれないからな」

 

 僕は智也に頷いて返す。朝食も残すところは味噌汁の知るのみだ。僕はズズズッと飲み干して、お椀をトレーに置いた。「ごちそうさまでした」僕は呟いてから箸を置く。それを見た二人はトレーを持って立ち上がった。僕もそれに続く。

 

 三人でトレーを片した後、僕は部屋に戻ってきた。食堂に拓郎の姿はなかったし、共有スペースにもない。僕は歯を磨いてから拓郎の自室のドアを開けた。中は僕の自室の正反対のレイアウトがされていた。僕はベッドに目線を移すが、ベッドの中には人が入っているようには見えなかった。僕はベッドに近づき布団を叩く。やっぱり拓郎はいない。僕は拓郎の自室を出て、考える。

 拓郎はどこに行ったのだろうか。僕が起きた時には部屋にいたのだろうか。それとも、最初からいなかったのだろうか。僕は椅子に座って少しの間考えていたが、答えは出ない。分からないことが多すぎる。だが、ここにいないということを考えると僕にできることはあまりない。

 僕は自室に入って制服に着替えることにした。ズボンとワイシャツを着て、適当な薄手のパーカーを腰に巻く。既に熱くなってきているが、室内は寒いということがないわけではない。着替えの終わった僕はVRデバイスの通知を確認する。

 

 「黒川、何か通知来てる?」

 「ございません。若様」

 

 来てないみたいだ。寮に入ったときの説明では、ルームメイトに何か問題があると一応通知が来ると言っていたはずだ。それが本当であれば、問題が起きているわけではないのだろう。僕は少し考えて拓郎にチャットを打ってから、校舎に向けて出発した。

 

 高校に入ってから初めての朝の一人通学。僕は長い長い道のりを一人で歩き続けた。周囲で友達や先輩と話しながら歩く生徒を見みながら歩く通学路は少し寂しいものだった。

 

 校舎に着いて教室に入る。無心で歩き続けていたため忘れていたが、昨日の教室のことを思い出す。だが、教室内は一昨日までと何も変わってはいなかった。強烈な視線が僕を突き刺すのを覚悟しながら歩いていた僕は肩透かしを食らった。僕は自分の席に座って一限の科目の教科書を出していく。時間も余っているので軽く予習でもしよう。軽く目を通し内容を理解する。僕は開いた時間を有意義に過ごしていた。

 

 僕が今日の授業よりもだいぶ先の部分を読んでいると、先生たちが入ってきた。僕の前の席は未だに空席だ。角田先生は教室を見渡し、人数の確認をする。そうなると、もちろん拓郎がいないことに気づく。

 

 「そこは……米田か。米田と同室は……堤だな」

 

 角田先生が何やら手元を見ながらそう言って僕の顔を見る。

 

 「堤。米田はどうした?」

 「わかりません。ベッドにもいませんでした」

 

 僕は、考え抜いた末にわからなかった謎をそのまま伝えた。

 

 「ベッドにもいないとなると寝坊じゃないということか。心当たりは?」

 

 角田先生が再度聞いて来るが僕にはわからない。

 

 「ありません。昨日は先に早くに寝てしまったので部屋に戻ったかもわかりません」

 「そうか。通知は?」

 「来てません」

 

 僕はもう一度VRデバイスを操作して通知欄を見るが、通知はない。

 

 「行方不明か。米田のことはまた後で調べよう。じゃあ、今日の連絡事項だ」

 

 拓郎の件は棚上げされていつものホームルームが始まった。

 

 

 

 結局、拓郎の居場所が分かったのは授業が終わった後の事だった。

 

 

 

 

この話で五章終了です。


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