【05-04】安心
昼食後、いつものような世間話をするかのように強化選手のことについて話をして授業を迎えた。どんな感じで話を受けたのか、強化選手になったことで何か変わったか。別に秘密にする必要もないので僕はできる限り話していった。
二つの授業を終え、校舎から寮へ向かう。その最中にも選手について喋りながら歩いた。僕の話だけではなく、三人も自身の知っている話をしていた。僕は選手自体にあまり興味がなかったので選手に関して詳しいことは知らなかった。僕は初耳の話を聞きながら考える。今僕が見ている光景はまぎれもなくいつもと同じような光景だ。僕が思っていたより僕の日常は変わらなかったみたいだ。
校舎から寮に戻るまでの長い道を歩いている最中、僕のポケットから音声が聞こえてきた。
「若様、寮長からの全員連絡が入りました。読み上げますか?」
僕は黒川に校舎にいる間は通知不要といっていたが寮までの道でのことは言っていなかった。僕以外の三人は突然の第三者の声に驚き、発生源が僕だと気づいて聞いてくる。
「瑠太、君か?」
智也が聞いてきた。
「あー、言ってなかったね。僕のVRデバイスのAIで黒川っていうんだ」
僕はポケットからVRデバイスを出して黒川を紹介する。僕の行動を見て、智也は納得した表情を見せる。
「紹介に預かりました。黒川です」
黒川が自己紹介すると、拓郎と勇人も黒川の正体が分かったみたいだ。
「AIか。というか生徒証じゃないな。そのVRデバイス」
拓郎が気づいた。
「選手用のVRデバイスらしいよ」
「おお! いいなそれ! 見せて!」
選手になりたい拓郎は『選手用』という言葉に惹かれたのだろう。僕の手からVRデバイスを取ろうとする。僕はおとなしく渡した。
「生徒証はどうしたんだ? 寮に置いてあるのか?」
「いや、回収されたよ。そのVRデバイスに生徒証と同じ機能が入ってるから」
「回収かー。確か生徒証は卒業と同時に回収されるんだよね」
僕が智也の疑問に答えると、勇人がそんなことを言った。僕の記憶にもある。合格発表の後に渡された資料にそんなことが書かれていたはずだ。
僕は拓郎の手にある黒川に寮長からの連絡の内容を聞いた。
「黒川、さっきの話、読み上げてくれ」
「かしこまりました。内容を読み上げます。『実験組の諸君。今日夜七時に食堂に集合してくれ。堤は絶対に来い』以上です」
「おお! 話した!」
「ありがとう」
拓郎がいきなり話し始めた僕のVRデバイスをまじまじと観察している。
連絡についてはいつも通りの連絡だ。前回の時と同じ文面。黒川が読み上げ終わる僕以外の三人も自分の生徒証を取り出して確認し始めた。
「俺のにも入ってるな。最後のは入ってなかったが」
「おれも」
「私もだ。それにしてもAIとは驚いたぞ? かなり高性能なタイプだろう? いつから持ってたんだ?」
「生徒証には搭載されてないよね」
「というか、この学校でAIは禁止だったはずだぞ。いいのか? それ」
三人が驚いたような表情で聞いてきた。僕が三人と同じ立場でも同じようなことを聞くと思う。僕は答える。
「大丈夫らしいよ」
「らしい? 特別措置ということか?」
「強化選手の特権ってこと?」
僕が言うと智也と勇人が聞いてくる。二人はAIについて関心があるみたいだ。興味津々て顔で聞いてくる。対して拓郎はあまり興味がないみたいだ。未だにVRデバイスを観察中だ。僕は菊池さんが言っていたことをそのまま言った。
「そもそもこの学校でAIが禁止されている理由っていうのが情報漏洩を恐れてっていうことらしいんだよね。だから、情報漏洩する恐れのないAIであれば所持が許可されているってことみたいなんだ。僕のVRデバイスに入ってるAIは日本チームの人が手を加えたAIだから大丈夫なんだって」
「情報漏洩か。一般的に出回っているAIだとダメな理由があるということか」
僕の説明に智也は一応の納得をした。
「けど、いいな。おれもAIの付いたデバイスが欲しいよ」
「そうか? AI自体は別に必要ないと思うけど。まあ、高性能なタイプであれば欲しいけどな。それにしても、勇人の口からそんな言葉が出るとはな」
僕も拓郎に同意する。勇人がAIを欲していたなんて。そんな素振り今まで見たことなかった。
「そう? あった方が絶対楽だよ」
「AIなんてあってもなくても変わらないだろ」
「いや、あった方が楽なのは確かだろう」
拓郎だけはAIをあまり必要とは思っていないみたいだ。AI『黒川』を使うまでは僕も拓郎と同じ考えだったけど今となっては勇人と智也に同意見だ。
「俺だけか? なあ、瑠太はどうなんだ?」
「僕? 僕は必要だと思うけどな。実際に黒川は有能だよ」
「そうかあ。まあ、高性能なAIはつかったことないからなあ」
拓郎は少しわからなそうな顔をしている。まあ、AIなんて使わなくても別に困るものでもない。マニュアルで全部操作できるならAIなんてなくてもあまりかわらないのだから。
僕たちはその後もAIについての談議をしながら寮への道を歩いた。
話していてわかったのだが、勇人はどうやらお金持ちの家の子だったみたいだ。黒川ほどではないが、高性能AIを搭載したVRデバイスを使っていたそうだ。だからこその意見だったみたいだ。それを聞いて拓郎も僕も納得した。僕たちの言っていたAIとは違うものを指していたってことだろう。
智也については自身の考察による結論だそうだ。
他にも話したが結局のところはみんなが知りたいような選手の話については僕も知らないので世間話の延長線で終わった。
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寮に戻った僕たちはいつものように部屋を別れた。拓郎と部屋に僕はみんなと話すために訓練をするのを忘れていたことを思い出した。VRデバイスのことで盛り上がっていたので訓練のことも民案位はまだ言ってなかった。
「あっ」
「どうした?」
「訓練しないといけなかったの忘れてた……」
「訓練? そう言えば最近放課後は訓練場に行ってたな」
「うん。実は、コーチに訓練のスケジュールを渡されてるんだよ」
「へぇ。そう言うところは選手だな」
「そうかな? すっごいきついんだよ、これが」
「ははは。そう言えば、瑠太は選手になるためにこの学校に来たってわけじゃなかったんだったな」
拓郎が笑いながらそう言った。そう、僕は選手になりたい拓郎とは違って、選手になるためにこの学校に入ったわけではないのだ。僕が一番懸念していることだ。選手を目指していなかった僕が選手としての道を歩き出していることに周りはどう思っているんだろうか。拓郎も勇人もいつも通りだったと思う。でも僕は考えてしまう。
「おい。大丈夫か?」
拓郎に肩を叩かれて気を取り直す。僕は嫌な考えを頭の隅に追いやる。
「大丈夫か?」
拓郎が再度聞いてきた。
「うん。訓練を思い出して少し憂鬱に……」
「そ、そんなにきついのか?」
「集中力がガンガン消費されるんだよね」
僕が遠い目をしながら言うと拓郎も心配そうな顔をしてくれた。なんとか誤魔化せたみたいだ。僕は拓郎を見て嬉しい気持ちになった。今の感じから僕が考えていたような友情の崩壊はないだろう。僕は少しだけ声を弾ませて言う。
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
「ああ、頑張ってこい。あとで詳しく教えてくれ」
訓練場に向かうために僕は部屋を出た。
ただ、不安がほとんど解消されて安心した僕の後ろで拓郎の表情が変わっていたことに僕は気づかなかった。




