【05-02】教員塔
教室を出た僕は、廊下で待っていた先生たちのもとに小走りで行く。
「ついてこい」
角田先生にそう言われたので僕は付いて行く。何か話があるんだろう。当事者だからだろうか。今の教室にいるのはよくないと漠然的にわかってしまう。なので、僕はおとなしく付いて行くことにしたのだ。
角田先生たちは廊下を通り校舎の外に出た。その最中にも視線を感じたが角田先生は黙殺していた。
先生たちは教員塔に入っていくみたいだ。僕がここに入るのは初めてだ。先生に質問がある時はここに来ればいいと聞いていたが、実際には授業終わりだけで十分だ。
僕は初めての場所にドキドキしながら先生たちの後を付いて行った。
教員塔の中は校舎と同じような内装になっていた。中に入ると小さめのエントランスがあり、小さめのテーブルと椅子が置かれていて、右側の壁に大きなディスプレイが設置されていた。ディスプレイには教師の名前と今教員塔にいるかどうかが書かれていた。今の時間だと大半の教師が『出』の表示になっていた。他にも教師の呼び出しもできるようになっているみたいだ。ディスプレイの横に連絡を電話機のようなものが置かれている。
先生はエントランスを通り、奥に続く通路ではなく左側にあるエレベーターに乗る。造りとしては訓練施設に似ているみたいだ。僕は先生達の後についてエレベーターに乗った。
「教員塔は初めてですか?」
南澤先生が聞いてきた。南澤先生の声を聴くのは久しぶりな気がする。角田先生がほとんど話してしまうからだろう。先生に僕は答える。
「はい。いつも授業終わりに聞くことにしているので」
「そうですか。では、少し説明しておきましょうか。普段生徒はこのエレベーターに乗ることはありません」
僕が何気なく乗ったエレベーターには普段生徒のしようが禁止されているものみたいだ。
「乗っていいのは教師の許可かある場合のみです。質問がある場合は、右にあったディスプレイの横にある連絡用の内線で希望の先生に連絡を取る必要があります」
「そこで許可をもらうってことですか?」
勝手に生徒が職員室に入ると余計な問題を生むかもしれないからこその措置なんだろう。僕は自分の予想を言ってみた。
「いえ、違います」
だが、予想は間違っていたみたいだ。南澤先生は僕の顔を見ながら続けた。
「内線を受けた教師はエレベーターの許可ではなく、エントランスの奥にある個室の番号を言います。生徒は言われた番号の部屋に行って、そこで質問をすることになってるんです」
なるほど。奥に伸びていた通路の先には質問用の部屋がいくつもあるってことかな。確かに個室であれば長時間の質問もしやすいかもしれない。僕はわからないことがあればすぐに聞くようにしているからないのだけど、生徒の中にはテスト前に一気に質問をするような人もいるはずだ。
「一気に質問するとくには楽かもしれませんね」
僕は自身の感想を言った。
「そうですね。中には質問というより個人授業をお願いしに来る人も少なくありません。『どこどこが苦手なのでおしえてもらえませんか?』って言う具合に。中には、自分から進んだ内容を教わりに来る人もいますね。まあ、珍しい話ですが」
個人授業か。思いつかなかったがそれはいいかもしれない。この高校では塾に行くことができないので、目指す進路によっては僕も頼ることになるかもしれない。個人のレベルで授業を受けることができるのは嬉しい。
南澤先生の話を聞いているとエレベーターが到着した音が聞こえた。回数表示を見ると五階になっていた。
僕がエレベーターを降りるとそこは寮や訓練施設の四階のように通路と部屋の扉がいくつもあるだけだった。中学の職員室と同じぢょうな感じだと勝手に予想していた僕は面を喰らってしまった。
「驚いたか?」
角田先生が聞いてきた。
「はい」
「職員室みたいなのを想像していたんだろ。初めてここにきた人はみんな今のおまえのような反応をする。俺もそうだったしな」
「私もです」
角田先生の言葉に南澤先生も同意した。
「一応言っておくが、よくある職員室のような場所もあることにはある。教員全員にデスクが割り当てられたちゃんとしたのがな。だが、それ以外に教員一人ひとりに個室が割り当てられているんだ。だが、今回は全員が使える教員室ではなく個室で話したほ言うがいいと思ってな。こっちに来てもらった」
角田先生は僕に説明しながらも真剣な表情をしていた。僕の話は他の人がいる中でしない方がいいということなのだろうか。
エレベーターをおりてから少し歩いた扉の認証器に角田先生が自身のVRデバイスを当てた。扉のロックが解除される音がした後、角田先生、南澤先生、僕の順で入っていった。
扉を潜った先は、よくある個人用のオフィスのような部屋だった。奥に執務用の椅子と手前に簡単な組み立て用の椅子。壁側には本棚が置かれて奥に一枚の扉があった。本棚には三分の一ほどしか本が入ってなく、変わりといっては何だが、壁側に様々なトレーニング用品と思われるものが置かれていた。給水器の横にはプロテインがキロで置かれていた。
僕は部屋中を見回すと角田先生の方を向く。角田先生は南澤先生に備え付けられていた組み立て用の椅子を渡していた。南澤先生がそれを受け取った後、今度は僕に渡してきた。僕はそれを受け取り適当に組み立てて座った。角田先生も自身の椅子ではなく、組み立て用の椅子を組み立てていた。
「これでいいな。何か飲むか?」
角田先生が効いてきたが僕は喉が渇いてなかったので断った。南澤先生も断ったみたいだ。角田先生は一人で給水器から横に置いてあったコップに水を出して飲んだ後、椅子に座って僕の方を向いた。
「お前を呼んだのは今日の朝のことについて話しておく必要があると思ったからだ。俺たち教師陣も一応の話は聞いているが確認させてくれ。堤、お前は特殊指定強化選手になったんだな?」
僕は頷いて肯定する。
「そうか。実は去年、緒方が強化選手になったときにも同じことがあったんだ」
だから、あまり驚いてなかったのか。ある程度は予想していたということかな。
「朝の感じからして、去年と比べると今回の方がマシかもしれない。まあ、この学校に入ってくる奴らは全員、それなりの奴らだ。実験組の生徒であれば数日置けば大体収まっているはずだ。去年もそうだった。ただ、問題は効率組の方だ。ゴールデンウィークの時以上の対立に発展する可能性もある。もし何かあれば教師である俺たちにすぐに言うんだ。最悪の場合、寮長や望月でも構わん。いいか。何かあればすぐに言え」
僕は頷き、ついでに気になったことも聞いてみた。
「分かりました。先生は何が《・・・》起こる可能性があると判断しているということですか?」
「いや、ないとは思っているんだが、万が一がないとは言えないからな」
僕はそれを聞いて安心する。この閉鎖させれた環境でいじめなんかに遭った日には地獄の日が続くことになるだろう。
「そうだな。堤、おまえ次第だが格闘戦の訓練をしないか?」
「えっ。僕がですか?」
いきなりの提案に僕は驚く。
「ないとは思いたいんだが、暴力に訴えられた時の備えとしてだ」
「はあ」
俺は真剣に考えてみた。確かに、手を出すような奴らがいるかもしれない。前の智也と効率組の口論を思い出していた。
「私も備えはした方がいいとは思います」
南澤先生が僕の隣から言ってきた。南澤先生も万が一の可能性を考えているみたいだ。僕は前向きに考えることにした。もし無駄になっても、格闘の訓練は僕のAWのプレイにも役立つかもしれない。僕はここで提案を受けそうになって、矢澤コーチのことを思い出した。
「えーっと。矢澤コーチに相談してからでもいいですか? 実は昨日貰った訓練スケジュールが結構いっぱいいっぱいで」
「そうだな。その方がいいだろう。案外、訓練として格闘の訓練が入るかもしれないからな。俺の方はいつでもいい。やる気になったら行ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、話は終わりだ」
これで話は終わりみたいだ。角田先生は僕に教室に戻るように言った。
僕は退室の挨拶をして角田先生の部屋を出て、校舎に向かった。
この話で五十部目になります。
早いものですね。
最近、この作品とは違う物語のアイデアがちょくちょく頭を通り過ぎていきます。
時間を見て新しい長編が書けたらいいなと思っています。




