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【04-12】バトラー

 部屋に戻ると拓郎はすでにいなくなっていた。時間的にあの番組はまだ終わっていなかったはずだけど。

 僕はこの後のことを考えて自室に入る。着替えを自室にある洗濯用ボックスに入れてから今日渡されたVRデバイスを探す。

 ベットの上に放り投げておいたVRデバイスを手に取ってからベッドの上に乗る。上の方にある背もたれに背を預けてVRデバイスを操作する。

 電源ボタンを押してディスプレイに電源を付ける。すると、AIから渋い声で認証を求められた。

 

「オーナー、音声認証をお願いします。」

「堤瑠太」

 

 最初と同じように自分の名前を言う。

 

「確認完了。初期設定がされていません。設定しますか?」

 

 またも確認を求められた。この初期設定というのが菊池さんが言っていたものだろう。

 

「ああ」

 

 僕は肯定する。すると、ディスプレイの表示が変わり、設定画面になった。

 僕は画面に映る手順とバトラーの声に従って設定していく。生徒証でしていた設定が受け継がれているみたいですんなりと設定が進む。デバイスのロックを解除に使う指紋の設定もして、ロックの解除方法を音声から指紋に変更した。

 最後にAIの設定があった。

 

「AIの設定を行います。呼称を設定してください」

 

 呼称ということは呼び方ということかな。今のバトラーとは別の名前を付けることができるということか。僕が悩んでいるとバトラーから提案があった。

 

「他の方の設定した名称の一覧を参考にしますか?」

「お願い」

 

 僕はすぐにお願いした。

 ディスプレイに名称の一覧が出た。結構な量があったが大半は『バトラー』だった。僕もバトラーのままにしようかとも思ったが、もう少し考えることにする。バトラー以外にはセバスチャンやセバス、アルフレッドにスチュワード、スティーブンスなんてのもあった。

 

「なにがいいかな?」

 

 僕が独り言つもりで呟くと返答があった。

 

「呼びやすい名前がよろしいかと」

 

 うーん。いまいち思いつかない。爺やは流石にやめておいた方がいいだろう。名前じゃないし。

 数分悩んだ末に、昔飼っていた猫の名前を思い出した。名前が思いつかなかったのだ。

 

「クロ、いや、『黒川』にしよう」

「かしこまりました・私の名前は『黒川』です」

 

 川は適当に思いついたのを付けただけだ。適当ではあるがなんか凄腕の執事さんの名前みたいになったので思いのほか満足している。

 

「これからよろしく。『黒川』」

「こちらこそよろしくお願いします。オーナー」

 

 相変わらず渋い声で返ってきた。僕は満足して設定の続きをする。

 

「設定の続きをお願い」

「かしこまりました。最後は、オーナーの呼び方の設定です。なんてお呼びすればいいでしょうか」

 

 AIの名前の次は呼び方か。前に使っていたスマホにもAIは入っていたが、名前を決めたり、持ち主の呼び方を決めたりするほどの高性能なものではなかった。というより、そこまで高性能なものを持っている人は少ないだろう。名前なんて決めなくても別に困らないのでスマホの製造会社も機能として排除しているのだろう。

 僕は考えた末、『若様』にすることにした。オーナーのままだとなんか経営者みたいで嫌だったし。マスターだと『黒川』に合わないような気がした。『坊ちゃん』でもよかったのだが、他の人がいるところで『坊ちゃん』は少し恥ずかしい気がしたので『若様』にした。後で、どっちにしても変わらず恥ずかしいことに後になって気づくのだが、今はこれでいいと思っていた。

 

「『若様』で」

「かしこまりました。『若様』。これにて初期設定を終了します。」

 

 そう言って画面が切り替わる。初期の設定は終わったようだ。このままメールやSNSの設定をするかの選択画面が出た。僕は両方とも登録せえずに完了を選択した。

 

「初期設定はこれにて設定です。より詳細な設定は設定画面から設定できます。後ほどご確認ください」

「ありがとう。黒川」

 

 僕はそう言って、VRデバイス『バトラー』改め、VRデバイス『黒川』の膝の上に置いて、説明書を読み始まる。読む項目はAIについてだ。正直AIの知能が高すぎる気がする。学習型AIだろうとは思うがそれにしても高すぎる。僕が説明書を読み進めていくと、AIの項目にたどり着いた。

 説明書曰く、AI『バトラー』は、選手の補助をするためにVR日本チームのスタッフが開発したAIなんだそうだ。だから、AIの知能も元から高く、的確な応答もできるようになっているようだ。昨日としても簡単な情報の処理なんかは話すだけでAIが行ってくれるレベルのAIになているようだ。

 使用していくうちに自分のAIとして学習させることで、かなり高度なAIにすることができると締められていた。僕としては、高校生にそんな高価なものを渡すなよ、と思ったが、ただでもらえるものなので、心のうちに留めておくことにする。

 

 僕はその後も説明書を読んで過ごした。生徒証と比べるとスペックも全体的に上がっているみたいだ。僕は新しくできるようになったことを一通り確認した後は、VRデバイスを操作し始める。掲示板を確認しようと操作し始めて、手を止める。僕はAI『黒川』の性能を試してみることにした。

 

「黒川、掲示板で何か面白い情報ある?」

「掲示板ですね。どうやら、アメリカ代表の選手として新たに加わった方が相当なイケメンだと多くのスレッドで書かれています」


 とりあえずは、掲示板の情報の検索ができるみたいだ。面白いという抽象的な判断要素にも対応できるみたいだ。今後僕が使用し続ければ、より僕が知りたい情報をピックアップできるようになるだろう。

 

「他にはある?」

「いえ、新着の情報はいくつかありますがいつもと同じような情報です。それも読み上げますか?」

「いや、いい」

 

 僕はAI『黒川』の性能に少し驚きながらもそう言った。

 その後も、一通り新しいVRデバイスの確認をした。生徒証を表示するアプリも入っていたし、名刺代わりにアプリも入っていた。それを起動すると生徒証の代わりに僕の名刺がディスプレイに映し出されるみたいだ。説明書で確認してみると、この名刺を表示させたまま認証器に通すと生徒ではなく選手として認証できるようになっているらしい。他にも選手用のアプリをいくつか弄ってから、すでに時間が遅いことに気づく。十一時を過ぎていた。

 時間を見て、そろそろ寝ないとな、と思った途端、訓練の影響だろうか体が少し重く感じ始めた。僕はこのまま寝ることに決める。アラームの確認をしようと思ってVRデバイスを手に取ってから、ふと思い立ち、呼びかける。

 

「黒川、明日のアラームはどうなってる?」

 

 僕の声に黒川が答える。やっぱり高性能すぎる。

 

「毎週六時五十分にアラームが鳴るように設定されています。変更いたしますか?」

「いや、それでいい。じゃあ、お願いするよ」

 

 既に僕の中では黒川が爺やであるかのように認識し始めているみたいだ。

 

「かしこまりました。では、おやすみなさい。若様」

「おやすみ」

 

 僕はいつもと違う今日という日常を思い出しながら、眠りに就いた。

 

 

 

この話で四章は終了になります。

思いのほか話が進みません。

もし何かあれば感想欄にでもよろしくお願いします。

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