【04-11】共同風呂
選手用VRデバイスに電源を入れるとディスプレイが光り、幾何学的な日の丸が映り、電源が入る。
少し待つと画面が切り替わり、本人確認が始まった。画面には執事の姿をしたマスコットキャラがお辞儀をしていた。地味にかわいい。
「音声確認をお願いします」
渋い声でそう言ったVRデバイスに僕は名乗る。
「堤 瑠太」
僕がはっきりと名乗ると、VRデバイスから声が返ってくる。
「音声を取得……確認完了。選手用VRデバイス『バトラー』起動します」
そう言ったVRデバイス『バトラー』が起動した。それを見た菊池さんが僕に言った。
「起動できたみたいですね。これでこのデバイスはあなたのものになりました。あとで指紋の設定等初期の設定をしておいてください。このデバイスには高性能AIが搭載されているのでそれに関しての設定なんかもするようであればご自由にどうぞ」
「分かりました。でも、この学校って高性能AIが搭載された個人用端末って持ち込み禁止だったと思うんですけど、大丈夫なんですか?」
「それについては大丈夫です。こちらの支給したAIが搭載されているものなので問題ありません。持ち込み禁止は情報漏洩を危惧したための措置ですから」
「なるほど。分かりました」
僕は頷いた。心配事項を解消したので安心した。これを持っていることで校則違反の退学になんてされたらたまったもんじゃない。安心した僕はVRデバイス『バトラー』をポケットにしまった。
「大丈夫そうだね。なら、今日は解散にしよう」
隣で僕と菊池さんの話を聞いていた矢澤コーチが預けていた背を起こしてそう言った。それを聞いた菊池さんはカバンを持って立ち上がり、矢澤コーチも立ち上がったので僕も立ち上がる。
そのまま、三人で訓練室を出て、施設の外に向かった。
施設の外に出たところで矢澤コーチが僕に言った。
「高校に入ってようやく慣れてきたところだろうけど、君の生活はまた変化していくことになるだろう。その過程で多くの悩みや心配事を抱えることになるかもしれない。そんなときは僕に連絡してくれ。その『バトラー』には僕たちコーチやスタッフの連絡先が登録されている。携帯電話としても使えるようになってるからいつでも連絡してくれて構わない。チームスタッフには心理カウンセラーもいる。何かあれば全力で君のバックアップをする。分かったかい?」
矢澤コーチの真剣な表情を見ながら僕は言う。
「はい。そのときはよろしくお願いします」
「うん。こちらこそよろしくね。じゃあ、ここで解散。また近いうちに会おう」
僕の返答を聞いた矢澤コーチがそう言って、校舎の方に歩いて行った。
「堤君、これから大変かもしれませんが頑張ってください。あと、これ。一応説明書になってるから。では、また。」
菊池さんもそう言って矢澤コーチの後を追っていった。
僕は二人が離れていくのを少し見続けた後、寮に向かって歩き出した。その頭の中では矢澤コーチの発言と菊池さんの発言が繰り返されていた。
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寮に戻った僕が自分の部屋に着くと、そこには拓郎がいた。
「おかえり。ん? 今戻ったのか?」
拓郎は着替えを持って共同スペースのテレビを見ていた。
「うん。拓郎は? 今から風呂?」
僕は自室に向かいながら聞く。
「ああ、食休みのつもりで付けたテレビが面白くてな」
「なにやってるの?」
「本当にあった怖すぎる世にも奇妙な話って番組。当たり外れがあるけど今回のは面白いんだよ」
「季節ごとにやってる番組だっけ。今日だったんだ」
そんなことを言いつつ、興味がなくなった僕は自室に入り上着とVRデバイスとその説明書を置いて、着替えを持ってから自室を出た。
「じゃあ、僕シャワー浴びるから」
テーブルに突っ伏しながらテレビを見ている拓郎に言って、僕は洗面所に向かおうとすると、拓郎が言ってきた。
「もう九時過ぎてるけど夕食食べたのか? まだなら先に行った方がいいんじゃないか?」
言われて僕はテレビに映る時計を確認すると九時を過ぎていた。
「時間が遅くなるとメニュー選べなくなることもあるから早めに行った方がいいぞ」
僕は拓郎の実体験も含むだろう忠告に従うことにする。僕は着替えを拓郎の座っていない方の椅子において、食堂に向かうことにした。
「食堂行ってくるよ。ありがと。テレビもほどほどにね」
「ああ、これが終わったら俺も風呂入ってVRルームに行くから」
「分かった」
僕は部屋を出て食堂に向かった。
食堂には数人の先輩方がいたけど夕食を食べているわけではなく何やら話している感じだった。
僕は、先輩たちを気にせずに夕食を食べた。今日はから揚げだ。醤油味の付いたから揚げにマヨネーズという定番の組み合わせはやっぱりおいしかった。味噌汁とサラダもぺろりと平らげ、ご飯もお代わりしてしまった。今日の訓練、余り動いてはいなかったがカロリーの消費は多かったのだろうか。バクバクと夕食を食べた僕は膨れ上がったお腹をさすりながらトレーを返して、部屋に戻った。
共同スペースには拓郎の姿が……あった。
僕は呆れながらも声を掛ける。
「ただいま。まだ終わってないんだ?」
「ああ、スペシャルだったみたいだ」
テレビから目を離さずに僕に返事をした拓郎を見て、僕はほっとくことにする。その番組はいつもスペシャルだろうに。
僕は今度こそシャワーを浴びることにしようと思ったところで、別の案を思いつく。今日はこの後バトラーの設定をする予定だ。だから、今日はAWをプレイしないつもりでいる。なら、共同風呂に行くのもいいんじゃないだろうか。僕は思い立ったが吉日を実行する。
「共同風呂に行ってくるよ」
僕が言うと、拓郎が僕の方を向く。
「シャワーにじゃないのか?」
「うん。こんな時間だし、それもいいかなって」
「そうか」
「じゃあ、いってくる」
僕は着替えを適当な袋に入れてから共同風呂に向かった。湯船に浸かるのは二か月ぶりぐらいだ。歩く速度が少しだけ早くなる。
エレベーターから一階に行き、共同風呂を目指す。食堂とは逆方向に歩いていく。今の時間に風呂を使っている人はいないだろうから一人風呂だ。僕は共同風呂に入った。
共同風呂の中は脱衣所になっていて着替えを置いて、服を脱ぐ。脱衣を入れる場所は生徒証で鍵が掛けられるようになっていた。僕はVRデバイスが必要だとは思ってなかったので自室に置いたままだ。僕は仕方なく鍵を掛けずに浴場に向かう。浴場の入り口には上段にタオルが積み重ねられていて、下には使ったタオル入れることができる穴が開いた棚が置いてあって、棚には自由に使っていいと書かれている。僕はタオルを一枚取ってから浴場に入った。
浴場は一般的な銭湯の浴場と同じような作りになっていた。大きな湯船と広い洗い場がある。予想通り、中には誰もいなかった。
僕は洗い場でシャワーを浴びて体を洗う。部屋のシャワールームと同じシャンプーやリンスが置かれているのでいつも通り洗える。頭から全身を洗った後、僕は湯船に浸かった。タオルは湯に浸けないように湯船の端に置いておく。
久しぶりの湯船を体全身で満喫する。足を伸ばし、つい「あーー」と声を出してしまった。温泉というわけではないが極楽気分になる。僕はのぼせそうになるまで浸かった後、シャワーで体を流してから浴場を出た。
脱衣所に入ったところにある棚に使ったタオルを入れて、新しいタオルで体を拭く。僕は持ってきた下着を履いて、髪を乾かすためにドライヤーを探す。洗面台に置かれているだろうと当たりを付け脱衣所内を見渡すと大きな鏡が置かれた洗面台にドライヤーが置かれていた。僕は下着だけの状態で洗面台に置かれている椅子に座り髪を乾かした。
髪を適当に乾かして、着替えを終えた僕は部屋に戻った。




