【04-09】訓練スケジュール
マルチタスク訓練用施設四階の訓練室のソファに座りながら矢澤コーチが訓練の話を切り出した。
「前に君に聞いたことを参考に訓練用メニューを考えてきたから」
前というのは、二週間ほど前に僕が特殊指定強化選手になったことを言いに来たときのことだろう。あの日から続けている僕の訓練メニューは二つ。
一つ目は、ディスプレイにランダムに表示されたいくつかの色の円の中から、音で指定された色の円を選択する訓練。音による指定から円の選択までの時間を測定する訓練ということになる。
二つ目は、ディスプレイに表示された光点を瞬時に選択していく訓練。目に入った情報をそのまま行動に移す訓練ということになる。現れる光点が複数になることもあり、瞬間的な判断を要することもある。
この二つはとりあえずやっておけばいいというものらしく、僕以外の生徒も大半が一度はやったことがある訓練になっているようだ。どんなプレイヤーにも効果があるということなので、先生たちも施設について説明するときに薦めてくるメニューになっているそうだ。
今日僕が教えられる訓練メニューはそれとは違い、僕個人に合った訓練ということになると聞いている。
矢澤コーチはまたも菊池さんから一枚の紙を受け取り、僕に渡してきた。その紙を受け取った僕は、内容に目を通す。渡された紙は僕の訓練スケジュール表だったみたいだ。
僕はスケジュールを大まかに確認していく。基本的に放課後は訓練施設を使った訓練に充てられていて夕食後にAWをプレイするようなスケジュールになっていた。訓練のスケジュールも曜日ごとに違った訓練が割り当てられている。僕は確認を終えると顔をあげた。
「見てくれたかな?」
矢澤コーチが僕を見ながら言った。
「大体は。このスケジュールに沿って訓練をしろということですよね」
「まあ、そうだね」
僕は確認を取ると肯定が返ってくる。見たまんまだったようだ。それにしても、AWをプレイする時間が少なすぎる気がする。AWを使った競技なんだからAWをもっとプレイした方がいい気がするのだが。
疑問は感じているが表には出さない。AWを禁止されたわけではないし、強化選手に選ばれた時点で拒否はできないのだ。このスケジュールについても理由があるはずだ。僕はそう思って納得することにした。
「今の君はAWを初めて一か月と少ししか経ってない初心者だ。本来ならプレイしていくうちに自然と身に着くような能力もあるんだが、君にはまだない。時間が経てば身に着くだろうが君にそれが身に着くまでの時間はない。私たちは出来上がり次第では今年のVRオリンピックに出てもらうことも検討しているぐらいだ」
「今年のですか!?」
僕は声を上ずって聞き返してしまった。平然とした顔で言った矢澤コーチを見ると、隣で僕と同じように驚いた顔をしている菊池さんが見えた。菊池さんの驚いた顔を見て少し落ち着いた僕は言う。
「流石に無理ですよ」
「そうだね。今年のは無理だろうね」
悪びれもなく前言を撤回し僕に肯定した矢澤コーチに、僕は呆れてソファに体を預けた。
「ですよね」
「コーチ、冗談はやめてください」
菊池さんもほっとした様子だ。その口調には少しトゲがあるようにも感じた。
「確かに冗談だったけど、今年から参加してほしいぐらい堤君のビルドは私たちが求めていたものと一致していたんだよ」
「そうなんですか?」
僕からすれば、いきなり言われたことだからよくわからないんだが、菊池さんには何か思い当たることがあるようだ。思案顔で矢澤コーチに質問していた。
「もしかして、一時期噂になっていた『神風作戦』というやつですか?」
「うん。作戦立てたはいいがただの特攻作戦になってしまった作戦だね」
特攻か。神風なんて言われているということは相当ひどい作戦なんだろう。特攻なんて作戦とは言えないと思う。その作戦が成り立つ可能を僕に見出しているとすれば、どうやら僕のキャラは日本チームからすると重要な意味を持つということになる。全く分からないのだが。
「どんな作戦なんですか?」
ただの特攻作戦な訳はないだろうからこそ気になる。教えてくれるかわからなかったが、僕が詳細を聞くと答えてくれた。
「一人だけ防御に残して、他の全員で特攻する作戦だよ」
「えっ…… 勝算あるんですか?」
文字通りの特攻作戦だった。しかも、残った一人は集中砲火を受けることになる。何故そんな作戦を立てたのか。勝算を見いだせない僕は素直に聞いてみた。
「防御に残った人次第では十分勝てると考えていたんだよ。ただ防御を任せられる人がいなかったから没になったんだ」
「そうなんですか」
僕はよくわからないがなんとか相槌を打つ。防御次第では勝てるのか。僕には想像がつかないが。
「けど、君が現れた」
「僕の自動防御ですね」
ここまで来れば僕にも分かることがある。僕が防御役になるということだろう。僕の自動防御は複数人を相手にできる能力だ。防御役には向いているのかもしれない。
「そうだ。私たちは君の自動防御を持つキャラに期待している。今日渡した訓練スケジュールも防御をするということに重点を置いた訓練になっている」
僕の手にあるスケジュール表は、防御特化になるための訓練スケジュールということだろう。僕は正直面倒な気持ちになっている。僕は防御特化のキャラを作りたかったわけじゃない。想像とは違う形で出来上がったキャラなだけに、自分の向かう方向性なんかを決めかねていた。そういう意味ではタイミングが良かったのかもしれないが、やっぱり華麗に戦ってみたい。
「分かりました。これをこなしていけばいいんですね」
僕は少し残念な気持ちになっているが、すでに采は投げられているのだ。
「そうだ。夏まではそのスケジュールでやってみてくれ。何かあればそれ以降に変更をしよう」
「頑張ってください。堤さん。既にあなたはチームの一員なんですから」
「そうですよね。頑張ります」
菊池さんに励まされて、僕も決心する。夏までは頑張ってみよう。
「よかった。僕もいつも訓練に付き合ってあげられるわけじゃないけど、時間があるときは来るようにするから」
「はい。お願いします」
「うんうん。じゃあ、時間も余ったことだし今日の訓練を始めようか」
矢澤コーチは笑顔でそう言って立ち上がり、室内にあるパソコン型インターフェースに向かった。菊池さんは役目が終わったということだろうかカバンを脇に置き、ソファに深く座って背を預けている。
「堤君、こっちに。あっ、デバイスも持ってきて」
僕は矢澤コーチに言われた通りにパソコン型インターフェースの方に向かう。
「昨日まではここでいろいろと選択していたと思うけど、明日からはこれにVRデバイスを繋げば勝手に始めてくれるから」
矢澤コーチがそう言って、パソコン型インターフェースの横から伸びている一本のコードの僕に渡してきた。それはヘッドマウントデバイスについている接続コードと同じ端子のコードだった。
僕が観察した後、矢澤コーチがパソコン型インターフェースの操作をした。何回も切り替わる画面を見ていると、一つの訓練画面で止まった。その後、ステージも動き出し、訓練用の機材が天井や壁から現れた。
「これに繋ぐことでその日の訓練結果が僕たちコーチ陣にも知らされるようになってるんだ。それを見て僕たちは君の成長状況の一部を知ることになる。だから、サボれないからね」
最後に冗談めかして矢澤コーチが言ったが、その眼には真剣な色が浮かんでいるように感じた。
僕は頷くことで肯定する。
僕の様子を見て満足したのか、矢澤コーチは笑いながらさっきまで座っていたソファに座り僕に言った。
「それじゃあ、さっそく今日の訓練を始めよう。集中して訓練を受けてくれ」




