【04-06】ゴブリン②
最初の接敵からすでに数回の戦闘をこなした。
ゴブリン討伐のイベントは五匹で一回分の依頼になるが、オーバーしてもその分お金が支払われるため、収納に制限がないのだ。ゴブリン討伐イベントを受けている間はゴブリンを収納し放題だということだ。
数回の戦闘で十三体のゴブリンを倒している。最初と合わせると十六になる。
一度だけ四体一緒のときがあったが最初に二体を倒し、その後、二体の攻撃を捌きながら一体に集中して攻撃して倒し、最後は一対一に持ち込んで倒した。一体を相手にするのに二本は尻尾を使うので、今の僕には三体までは同時に相手できるということになるが、ヒューを使いたくないので実際には二体になる。ヒューを攻防に参加させるメリットと核であるヒューが潰されることによるデメリットを考えると、参加させない方がいいということだ。
メニューから時間を確認するとすでに十一時半を過ぎていた。最初こそすぐに見つかったが、その後はなかなか狩りごろのゴブリンを見つけることができなかった。
この東の森には、二種類のモンスターが出てくる。
一つはゴブリン。僕がさっきまで狩っていたモンスターで一体の強さで言えばそこまで強くない。対処法すらわかっていれば複数を相手にしていても戦うことができる。
もう一つは、ゴブリンリーダー。これはゴブリンと容姿に違いはないが強さとしてはゴブリンより一つ上になっている。ゴブリンだと思って攻撃を仕掛けて返り討ちにされた、なんて報告が掲示板に山のように残されていた。ゴブリンとゴブリンリーダーの違いは集団の強さに影響する。ゴブリンリーダーは普段ゴブリン数匹と一緒に行動している。傍から見ればただのゴブリンの集団だが、ゴブリンリーダーは味方のゴブリンに指示を出すことができるため、ゴブリンたちが統率のとれた動きをしてくるようになるのだ。そのせいで、ゴブリンたちを一体ずつ倒そうとしても連携されてしまうためなかなか倒せないのだ。ゴブリンの集団と同数であれば何とか出来るかもしれないが、そうでなければ危険な相手になる。幸い、ゴブリンリーダー自体の戦闘力はゴブリンに毛が生えた程度なのでそこまで大差はないが、ゴブリンと同格のプレイヤーだと少し厳しくなる。このゲームでの序盤の初見殺しの一つとしてネットでも注意するように書かれていた。
僕が森でゴブリンたちを探すときは、数が少なくゴブリンリーダーがいない集団を探しているのだ。単体としては見分けのつかないゴブリンとゴブリンリーダーでも、集団としてみれば見分けがつくようになっている。二つの違いは、統率が取れているか否か。簡単な違いだが、これを実際に見分けるのは難しい。簡単に見分けられるときもあれば、尾行して動きを見る必要があるときもある。県連としてはいいのだが、狩りとしては時間のロス以外の何物でもない。しかも、ゴブリンリーダーは比較的数が多い。ということは、ゴブリンリーダーのいる集団も多いことになる。僕が今日ゴブリンを狩っているときも四組ほどゴブリンリーダーがいると思われる集団を見ている。
結果、ゴブリンリーダーがいる集団を狩らないことにしている僕の今日の戦果はまあまあといったところになる。十六体狩っていれば十分だろう。
僕は狩りを切り上げ、ギルドに報告したらログアウトすることにする。
解体所に寄って、受取証をもらいギルドで依頼達成の手続きをした。
ゴブリンの報酬は一対につき、百ゴールド。今日の報酬は千六百ゴールドだ。いい感じである。
僕は冒険者ギルドを出てからログアウトした。
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翌日、中間テストの後ではあるが学校は休みにならないようだ。僕が前にいた中学ではテストの翌日は先生達が答え合わせをするため休みになっていた。
僕は普段通りになった授業を受けていた。答案返却は既に終わっている。答案は個人のVRデバイスである通称:生徒証の方にデータで送られていた。先生の話では、VR空間でテストを行うことで答え合わせを人力で行う必要がなくなったということであった。ただ、答案用紙を紙として印刷して生徒に返却するには、もちろん印刷する必要があり、それをしていると生徒への返却まで一週間近く掛かってしまうことになるそうだ。そのため、返却はデータでということになっている。紙にしたい場合は個人でこれを印刷すればいいということだ。
今日の授業は、返却された答案の説明だ。僕の点数は予想通り平均的に九十近くを取れていた。それでも、先生の説明を聞くうちに自身が理解しきれていないことが分かることがあるので、僕は真剣に授業を聴く。
昼食の時も食堂でまだ解説を受けていない教科の回答を見せあって、ああだこうだ言っていた。午後の授業も終え、僕は矢澤コーチからの連絡がないことを確認してから寮に戻った。実はまだ皆に『特殊指定強化選手』に選ばれたことを言えていない。強化選手であって、正式な選手ではないが、それでも選手に近づいていると言って過言はないはずだ。この学校の生徒は皆ライバルである。VR競技選手を目指してこの高校に入学する。僕自身が選手を目指していなかったこともあって少し言い辛いのだ。
普段通り、寮に戻り、自室に着いた僕はシャワーを浴びた。拓郎は荷物を置いた後、すぐにVRルームに向かっている。
僕はどうやってみんなに言おうか考えていた。皆仲良くはしているが、選手という限られた椅子を取り合うライバルであって敵だ。今回のことで一線引かれないか心配してしまう。出会ってまだ一か月長いようで短い。僕はシャワーを頭からじっと浴びながら考えた。
シャワーを浴びながら思考に耽っていた僕だが、次第に温まる体温に体が音を上げ立ちくらみを起こしてしまった。シャワーを浴び終えた僕は着替えてからVRルームでログインした。
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ログインした僕は、今日もゴブリン狩りに勤しむことにする。当面の目標は、ゴブリンリーダーのいる集団を倒せるようになること。
気持ちを切り替えながら冒険者ギルドで依頼を受けて森に向かう。最近は以来ばかりを受けているのでお金が溜まる一方だ。そろそろ防具を手に入れたいのだが、現状必要性を感じないこともああって後回しにしている。
昨日と同様に森に入り、ゴブリンを探し、ゴブリンリーダーがいないかを確認し、狩る。これを繰り返す。
七匹を狩り終え、レベルアップを果たした僕は、次のゴブリンを狩るときに奇襲で失敗した。
三体のゴブリンをいつものように背後から攻撃しようとしたときに、たまたま僕から一番遠くにいたゴブリンが僕に気づいたのだ。一体目のゴブリンの首を狙った尻尾がかみついたところで奥にいたゴブリンが僕に対して棍棒を振り下ろしてきた。首を引き千切ることができなかった僕は三対一の状況になってしまった。手前にいたゴブリンは首を噛んでいたので〔猛毒〕が発動している。時間が経てば毒で勝手に倒れると考え、僕は三体の攻撃をとりあえず凌ぐことにしたのだ。
牽制と防御をうまくこなすことだけを考えてゴブリンたちの攻撃に耐える。棍棒を振り回すだけのゴブリンでも三体もいれば戦い辛くなる。それでも、使う尻尾は四本だけで頑張る。六本使えれば楽になるかもしれないが重心のことを考えれば難しいし、温存もしておきたいので四本で防御する。今は厳しくとてもこれに慣れれば、もっと厳しい状況になったときに少しは楽になるだろうという打算もある。
数分を超える攻防の末、毒の回ったゴブリンが地面に倒れた。僕は攻撃が緩んだ瞬間に温存していたオンで残り二体のうちの片方に噛みつかせ、動きが止まったすきにドーとラーで噛みつかせる。〔猛毒〕を使うためだ。残ったもう一体の攻撃はキーとルーで往なしていく。三匹でうまく攻撃していくと最初のゴブリンよりも毒の量が多かったためかすぐに動かなくなった。まだ地面に倒れないゴブリンの動かなくなった首をドーとラーで食い千切って止めを刺す。
キーとルーで対処していた最後のゴブリンは空いた三本の尻尾ですぐに止めを刺した。方法はもちろん首食い千切り。
十分以上掛かった戦闘を終えて僕は息を吐いた。死に戻りを覚悟するほどの危機ではなかったが、死に戻りする可能性がなかったわけではない。
奇襲が失敗しただけで危うさが増す狩りをするしかない現状に気を落とすが、できないのだから仕方ないと空元気を出した。
三回しか戦闘していなかったが既に時間は八時過ぎ。いまだに少数でゴブリンリーダーがいない集団というのは思いのほか少ないし、僕以外のプレイヤーも狙っているのだ。探索の時間が長くなってしまうのはどうしようもないだろう。
僕は夕食のためにログアウトした。




