【03-05】合流
補給を終え、満腹度・渇水度が回復したのを確認した後、チャットを開くが書き込みはないようだ。
木の上で目をつぶり〔気配察知〕に集中する。イベントが始まってから格段に上達しているように感じる。
木の上からでも下にいる小動物の気配がわかる。周囲にある僕が分かる気配を確認する。見たところこちらを気にしている敵はいないようだ。
僕は、合流に備えて周囲の情報を得ようと試みる。
木の頂上から見える範囲で情報を得ようとするが周囲に開けた場所はなく、一帯がすべて木で覆いつくされているようだ。耳を澄ませるが水の音も聞こえない。
手持無沙汰になった僕はただ気配を読み続けた。
どれくらいたっただろう。数分か十数分、それぐらいたった後、僕の〔気配察知〕に反応があった。
僕のいる木の下から少し離れたところに何か気配を感じる。
僕はゆっくりと慎重に気配の方向を見る。背の低い木や背の高い草を揺らしながら何かが歩いてくる。僕は目を凝らしって何者かの登場を待つ。
草を掻き分けて出てきたのは智也だった。
僕は声を掛けようとしてイベント開始前のやり取りを思い出す。
僕は現れた智也が鉢巻をしているか確認する。智也は頭に巻いていたはずだ。
僕は智也の頭に鉢巻がまかれているのを確認した後呼びかける。
「智也」
智也は自信を呼ぶ声に気づいたようで周囲を確認する。
「上だよ」
智也は僕のいる木の上を見て頷いた。
智也は何やら呟くと浮かび上がってくる。魔法だ。
僕は初めて見たAWの魔法に驚きながら智也の着地できる場所を空ける。
智也が僕の隣にある枝に下り立った。
「早いな。他の二人は何処だ?」
「拓郎はまだ飛んでるよ。勇人は不明」
「チャットの方は見てないようだな」
智也はチャットを開いて確認した。
「勇人と合流するのを待つ?」
「いや、先に拠点づくりを始めよう」
「どう作る?」
「ふむ。とりあえずは周囲の確認が必要だろう。この木を中心に五分程の距離を歩いて戻ってくるを繰り返していこう」
「了解」
智也の意見に了承して僕たちは下に降りて別の方向に歩き出す。
僕はディスプレイを開いて時計を確認しながら歩く。
スキルを切らさず出来る限り存在を消す。
僕は五分の距離を歩いて戻るを繰り返していくが風景が変わることはない。ずっと森の中。獣道のようなものすらない。もし現実でこの森に迷いでもしたら早い段階で絶望するだろう。
僕たちはあの木から三百六十度を確認した。
「何かあったか?」
木に登り終えた智也が聞いてきた。
「なにも。ずっと同じ森だったよ」
「こちらも同じ感じだった。敵との遭遇は?」
「いくつか大きな気配はあったけどプレイヤーはいなかったかな」
「そうか。かなりの人数が参加しているはずなのだが」
「僕たちが気づいてないだけの可能性もあるよ」
「それはないと思うが」
智也は腕を組み少し考えたあと続けた。
「拠点はここにしよう。木の上なら下よりは気づかれないだろう」
「ツリーハウスでも作るの?」
「いや、特に何かするわけではない。とりあえず今日はここで一夜を明かそうと思う。もしかしたら勇人がどこか見つけてくるかもしれないからな」
拠点らしい拠点は作らない方向で行くようだ。となれば、まずは勇人と合流しなければならない。
ただ一つだけ懸念はある。
智也も気づいたのだろう。既に数時間は歩いているのにほとんどプレイヤーに遭遇していない。僕が言ったように気づいてないだけの可能性もあるがそれ以上にこの空間が予想以上に広い可能性の方が高いだろう。最悪今日中に勇人が合流できない可能性もある。
僕はチャットを確認するが書き込みがない。
「勇人は間に合わないと想定して行動しよう」
僕は少し驚く。理由が分からないわけでもないので少しだが。
合理的だが高校生としてはそれでいいのだろうか。
僕は頷いておく。
「拓郎を呼び戻そう」
智也はそう言って拓郎に向かって手を振っている。
しばらく待っていると拓郎が気づき降りてくる。
「何かあったか?」
「勇人とは合流できないと仮定して行動する」
「いいのか?」
「ああ。そうしようと思う」
「じゃあ、行動を始めるのか」
拓郎は手ごろな枝に降り立つ。
「で、智也。まずは何をするの?拠点はここにするんでしょ?」
「ここか?」
僕が智也に聞くと拓郎が声を出して驚いた。
「そうだ。今日の拠点はここにする。日が暮れるまではここらへんで狩りをすることにする」
智也は落ち着いて答えた。
「勇人の役割はどうするんだ?」
拓郎が聞く。まあ、答えは一つしかないだろう。拓郎は防御に向いてないし、智也は術師、そうなれば残った一人が盾役になるしかない。
「僕がやればいいのかな?」
「ああ、そうだ。頼む」
「了解」
僕は引き受ける。幸い、このメンツなら僕がミスをしても大きな問題は出ない。拓郎は空を飛んでいるし智也のキャラは前衛もできるように作られている。
「じゃあ、ここを中心に狩りを始めよう。一、二回狩ったら休憩がてら拓郎には空を飛んでもらおう」
「勇人のためだな」
拓郎は少しうれしそうに言う。
「よし。では、狩りを始めよう。」
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僕たちは木から降りて周囲を確認する。
「瑠太は盗賊だったよな?」
「そうだよ」
「周囲に小さめの気配はあるか?」
「うん。案内する?」
「頼む」
僕は小さめの気配がする方に歩く。智也と勇人も付いてくる。
僕は気配の手前で止まる。
「あれだ。どうする?」
僕はそこにいる一匹の大型犬を指差す。狼ではない。犬だ。
「狩ろう。私が先制する。その後に拓郎が仕掛けてくれ。瑠太は防御してくれ」
智也の一言で拓郎は無音で飛び上がるのを確認した智也が犬に向かって手を伸ばす。
智也は術師だ。魔法を使って戦う。
このAWというゲームにおける魔法とは物理の公式を応用したものになっている。例えば火を出す魔法。これは何もないところから自然発火する、という現象をAWにインプットされた予想と想像で作った疑似的な物理式、化学式を使い演算することで魔法となる。
火を出す場合は、まず術者が掌に火をつける魔法をイメージする。すると、何もない空間の掌の上の空気が自然発火する、という物理式がAW内の膨大なデータの中から選択される。
次に、術者のイメージに近い現象を起こせるように選択された物理式に適切な数値を入れていく。
最後に、代入された数値による計算が行われ、その解に従って魔法として発現する。
この三つの過程が行われる時間を詠唱時間といい、この過程を詠唱という。
術者がすべきことはイメージと数値の代入。代入する数値によって、威力・射程・範囲等が決められるため、その場に合った魔法を適切に行使できるかは術師の腕次第である。
現状では、その場に合った適切な数値を式に代入できるプレイヤーは一握りであり、ほとんどのプレイヤーはイメージを不変として、数値とそれによる現象を覚えることで魔法を使う。そうすることで旧来のゲームで使われるファイアーボールのような一定の効果が出る魔法を使うことができるようになるからだ。
故に、プレイヤー間では優れた術師の取り合いになる。
智也が目を瞑り、呟き始める。
いろいろと数字を言っているみたいだがよくわからない。
智也は呟くのをやめ、目を見開いた。すると大型犬がいる場所の土が一部動き始め、大型犬の後ろ足二本を掴んだ。
それを見た拓郎は急降下する。森の中だったため、空を飛んでいるときよりは速度が出ていない気がするが速い。地面に平行になりつつも大型犬の右側面を右翼で切り裂く。
僕は智也の前に出る。今回は盾役での参加だ。智也を守らないといけない。
そんな僕の意気込みとは裏腹に智也の二回目の魔法が炸裂する。空気の爆弾のようなものだろうか。周囲に大きな音を広げていく。
拓郎も隙を見ては攻撃を仕掛ける。
大型犬のモンスターは足を取られてその場から移動することができていない。僕は今のところ出番なしだ。
結局、僕が防御をすることはなく戦闘が終わった。
大型犬のモンスターは体力が尽き光の粒子になって姿を消す。残った箱を智也が取りに向かう。
このとき僕たちは油断していた。
僕たちが注意を向けていない方向から音が鳴る。草を掻き分ける音だ。
僕は即座にスキル〔気配察知〕を使う。対象の大きさは人と同じくらいだ。
僕は智也の方に走り、智也の前に立つ。
拓郎は空に飛び上がり、智也は腕を前に出し呟き始めた。計算しているのだろう。
僕たちの警戒が伝わったのか音の主はゆっくりと草むらから出てきた。
最初に、液状の体がまず見えた。スライムだろう。
次に、全体が見えてくる。人型のスライムだ。僕の知識にはないモンスターだ。
最後に、盾を背負っているのが見えた。ここまで来ればわかる。勇人だ。
「遅いぞ。それとびっくりさせるな。勇人」
智也が腕を下ろしながらそう言った。




