【03-01】協力
三章になります。
今日は四月の二十八日。
バートさんにあった日の翌日、僕は訓練場を訪れ、バートさんに新しいスキルを教えてもらった。
教えてもらったスキルは〔忍び足〕だ。これは足音を消すことができるスキルだ。僕の練度ではまだ消し切ることはできないが使いこなせれば強力なスキルになる。
僕は足音が鳴らなくなる歩き方をバートさんに教わってから、その歩き方を只管練習した結果スキルの取得が完了した。
教えてもらった後は、スキルの訓練がてら角兎とスライムを狩りまくった。ここ数日で狩った数は角兎とスライムが三十ずつになる。最初と比べればかなりの速さだろう。素材はすべて売り払った。スライムは一匹、二十マネーで売れた。
レベルも四つ上がって七から十一になった。ステータスはSTR、VIT、AGI、DEXの四つが一ずつ上がっている。
そして今日、角兎を軽く十匹ほど狩ってレベルが上がり、ステータスのVITを上げてからログアウトして今になる。
今、僕は自室にいる。時間は六時半ぐらい。今日は食堂に集まる日である。遅れないように早くログアウトしたのだが早すぎた。僕は、掲示板を読んで時間をつぶしている。
僕の目下の目標はホーンブルの討伐だ。これをなさなければ始まらない。
僕でも倒せる方法が考えていると生徒証のアラームが鳴った。
僕は食堂に向かった。
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食堂にはすでに半数以上が集まっていた。
僕が、食堂に行くとすでに拓郎たちがいた。
僕に気が付いた拓郎が話しかけてきた。
「遅いぞ、瑠太」
「まだ五分はあるよ。他のみんなは?」
「一年はみんないるみたいだな」
先輩からの呼び出しをすっぽかせる一年はいないだろう。
「今日は何の話なのかな」
効率組とのことだと薄々気づきながらもつぶやく。
僕たちが話していると、イットク先輩が前に立った。
「注目」
イットク先輩に視線が集まる。
「知っての通り、今年の一年も去年と同じように効率組に喧嘩を売られた。これを受けて、効率組の寮長と話を付けた」
去年も同じようなことがあったのか。
「話し合いの結果は去年と同じ。三日後行われる大型イベントの結果で競い合うことになった。実験組が無能でないことを示せれば、効率組の一年も収まるだろう」
あのハンティングイベントか。
「参加者は一年全員だ。勝敗は個人成績の最高点で決めることになった」
全員って俺も参加するってことか。
「別に勝つ必要はない。うちの力を見せつければいいだけだ。一年以外は、サポートに回ってくれ。以上だ」
イットク先輩が話し終え、先輩方は思い思いに返事をしていた。
僕が最高点を出すことは不可能だろう。それに個人得点だから直接的な協力もできない。結局参加するだけで終わりそうである。
「とりあえず飯食おうぜ」
坪田君の一言で皆食事を取りに行った。僕も流れに乗る。
僕たちは、食事を受け取り空いていた席に座った。拓郎と勇人と坪田君の四人と一緒に食べることになった。
「まさか全員参加になるとはね」
勇人が言った。
「そうだな。俺は元から参加するつもりだったから別にいいけど、ほかの奴らはな」
僕としても迷惑でしかない。でもこのまま放置すれば、今後も効率組からの一方的な迷惑を受けることになる。先輩曰く、去年もあったということだから寮長たちがうまく対応してくれるだろう。
「まあ、僕としては誰かに任せるしかないかな」
「いや、頑張れよ」
坪田君が突っ込んできた。
「でも、僕まだホーンブル倒せないんだよね」
「え?ホーンブルって草原の?」
「うん」
拓郎が驚いた顔で言ってきた。坪田君も驚いている。
「相性悪いのか?」
「うん。あの突進が避けられないんだよね」
僕は避けてたけどね。
「なら、仕方ないのか。でも草原の依頼を全部クリアしないと次いけないからな。俺が手伝おうか?」
拓郎が言ってくる。
「おれも手伝うよ」
勇人も手伝ってくれるみたいだ。
「勇人がいれば余裕だろ」
坪田君が言った。僕もその意見に賛成だ。
「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「ああ、この後でいいか?」
「おれは大丈夫だよ」
「僕も」
「じゃあ、飯食ったら行くか。一応仲間との待ち合わせがあるからな」
僕たちは急いで夕飯を食べ、VRルームに向かった。
VRルームに着いた僕と拓郎と勇人は意思で準備をして、ログインした。坪田君は智也を待つために食堂に残った。
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僕はログインした後、噴水広場で待っていた。拓郎たちはすでに宿をとってそこで休んでいるようだ。宿でログアウトするとログインした後いくつかのバフが付く。バフの種類はいくつかあって、泊まった宿によって着くバフが変わるらしい。
少しの間待っていると、噴水広場に鳥人間が空から降りてきた。拓郎だ。
「待ったか?」
拓郎が言った。拓郎のキャラクターを見たのは運動訓練初日以来だ。
「全然。あとは勇人だね」
僕がそういうと丁度大きな盾を背に背負った人の形をしたスライムが歩いてきた。勇人だ。普通のネットゲームでは本名で呼ぶのはマナー違反だが、このゲームでは違う。有力なプレイヤーになれば選手候補としてネットに載ることもあるため、選手を目指しているような人は下の名前で呼び合うことが多々ある。一応、勇人のキャラ名は『守君』になっている。
「ごめん。遅くなったよ」
「俺も今来たところだから」
「僕も全然待ってないよ。二人ともありがとう」
僕は礼を言う。
「いいってことよ。実は、瑠太の尻尾がどうなったのかずっと気になってたんだ」
「そうだね。おれも気になる」
「じゃあ、行こうか。個人用の依頼だけど大丈夫かな」
「大丈夫だ。依頼の達成者が瑠太だけになるだけだ」
僕たちは北門に向けて歩き始めた。いや、実際に歩いているのは僕たち二人だけだが。
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北門までの道中、注目を受けながらも草原に着いた僕たちは、さっそくホーンブルを探した。
一匹でいるホーンブルを見つけた僕たちは作戦会議をする。
「よし、作戦を発表するぞ。勇人がホーンブルの攻撃を防御して、俺と瑠太が攻撃する。これで行くぞ」
僕と勇人は頷く。適当な作戦に思えるが、勇人のビルドからすれば余裕のことだ。勇人のキャラは所謂『タンク』という役割に特化したキャラだ。そのことを聞いていた僕は疑いなく賛成した。
「じゃあ、狩るぞ。瑠太があいつに石を投げて、あいつがこっちに突進してきたら始まりだ。瑠太はくれぐれもタゲを取るなよ」
タゲとは、ターゲットの略で相手モンスターが攻撃しようとする相手のことを指し、タゲを取るというのは相手モンスターから攻撃対象にされている状態のことを指す。
『タンク』の役割の一つが相手モンスターのタゲを取り続けることだ。もう一つがその相手の攻撃に耐え続けること。この二つができることが『タンク』の最低条件だ。
拓郎が飛び立ったのを見た後、僕はホーンブルに向かって石を投げつける。
僕たちに気づいたホーンブルは攻撃を開始する。僕と突進し始めたホーンブルの間に勇人が大盾を構えて立ちはだかる。
「ドンッ」と大きな音を立てて勇人の大盾にホーンブルが衝突した。勇人はそれを全く苦にせずそのままホーンブルを押し返す。
僕は勇人の後ろからドーとラーを伸ばして首筋に噛みつかせる。
ホーンブルは、僕の攻撃を嫌がり首を尻尾たちを振り解こうとするが勇人との押し合いで動くことができていない。
一瞬のこのままでも尻尾たちの〔猛毒〕で倒せるだろうが、僕たちにはもう一人いる。
拓郎が、空から一気に降りてきて、その翼をホーンブルに当てると当たった部分が切り裂かれる。
拓郎は再び上昇と下降を繰り返し、なんどもホーンブルを切り裂く。
すでに傷だらけのホーンブルは最後に一矢報いようと力を上げるが、勇人は少し後ずさるだけで受け止めてしまった。
最後の攻撃を防がれたホーンブルは力を失い倒れていった。
「お疲れ」
下りてきた拓郎が言った。
「三人いると楽だね」
勇人が盾を背に背負いながら言った。
「お疲れ、二人ともありがとう」
僕はホーンブルを収納しながら言う。
「このままあと四匹も倒してしまおう」
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その後も僕たちは連続でホーンブルを四匹倒した。
僕は改めてパーティの重要性を実感した。知っていたつもりだったということだ。
攻撃を止めてくれる人がいるのはとても助かるのだ。
勇人は体がスライムだから衝撃を吸収できる。だから、盾で受け止めることができればたいていの攻撃は防御できるということだ。現にホーンブルの攻撃を平然と受け止めていた。
拓郎もかなりの速度で飛んでいたし、翼で相手を切り裂くなんてどんなモンスターを使ったのかわからない。
二人ともすでにホーンブルを歯牙にもかけていなかった。序盤の二週間は大きな差を生んでいたみたいだ。
「これで全部だな」
拓郎が地面に降り立って行った。
「うん。ありがとうね。拓郎。勇人も」
「どういたしまして」
勇人は笑って言った。
「じゃあ、解散だな。また時間があればな」
そう言って拓郎は町の方に飛び立っていった。
「おれは町に戻るけど、瑠太くんはどうする?」
「僕も戻るよ」
俺は勇人と一緒に町に戻った。町に入って冒険者ギルドまでの道の途中に勇人は寄るところがあったようでそこで別れることにした。
最終的に一人になった僕は解体所に行き受取証をもらってから冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドで長い列に並んで、受付嬢に依頼の達成を報告した。
「依頼の達成ですね。テイル様はこれで草原のモンスター三種の討伐を完遂しました。次からは草原以外の場所の依頼を受けることができるようになります。次の依頼を受けていきますか?」
僕はスライム討伐依頼を受けてからギルドを出た。
その後、僕はスライム討伐依頼を四回達成した。レベルが一上がり、VITを上げた。
今の僕は、三人でホーンブルを五匹狩った時間と同じ時間でスライムを五匹狩ることしかできない。
最初よりはだいぶ早くなってはいるけど、これではだめなのかもしれない。このことは今後の課題にすることを決めてログアウトした。




