何かつないでください。
「……なにこれ?」
昼休みの終わり、友人とのお昼から戻ってくるなり机の上に書かれた落書きに目を点にした愛美。そこには「何かつないでください」とだけ書いてある。しかも机の真ん中に、そのくせ小さな文字で。
こんな事をやるのも、独特に斜め十五度くらい傾いた『で』を書くのも、愛美は一人しか知らない。
「慧、人の机に落書きしないでよ!!」
「あれ、ばれちゃった?」
ケラケラと笑う幼馴染に溜め息をつく。顔はいい、勉強もできてスポーツも万能、なのに頭の中身が宇宙の彼方へすっ飛んでるような変人の慧のやる事だ、いつものようにこれを書いてる状況を見たクラスメートも何も言えなかったんだろう。
下手に話しかけると頭の中を真っ白にさせられるような事を言われるのだ。それこそ生後一か月からの付き合いのある愛美でもなければ付き合ってなどいけない。
おかげで見た目に騙された女子から無駄な嫉妬を受ける事何十回になるのか。こんな性格だと早くみんな気付いてくれればいいのにと、少し遠い目になりつつ愛美は思う。
そんな彼女の様子に気づく事なく、慧は笑ったまま。
「で、これどういう意味?」
「んー? なんか、ノートに書いてあったから。愛美ならどう反応するのかなって」
「あんたのノートに書いてあったような事になんで私が反応しなきゃなんないのよ」
頭が痛いと額を押さえると、だってと慧が子供のように口を尖らす。
「わかんなかったんだもん。つなぐって、何を?」
「知らないわよ、自分で書いたんでしょ!!」
正論である。だかしかし、この男に正論が通じないのも愛美にはよくわかっていて。
仕方がないので少しばかり考える事にする。幸い、あと十分ほど休み時間は残っているのだ。適当な答えを捻り出すくらいは出来るだろう。
「……つないでください、ってことはお願いよね」
「あれ、考えてくれんの?」
「なんか答え見つけないと気持ち悪いんでしょ?」
うん、と嬉しそうに笑う姿は昔と変わらないのにと内心また溜め息を吐きつつ、それらしいものを頭に挙げていって。
こういう場合、ありきたりな答えでは慧が納得しない。面倒だが慧はそういう性格だ。
知りたがりで、無邪気で、それでいて当たり前を嫌がる面倒な性格。子供のようだ、というよりも子供だ。
「そうね、何かって何かしらね」
「なんだろね?」
「たぶん、書いたあんたも答えを知らないものよ。それでも欲しいと思ったんじゃない?」
「ふうん、僕も知らないのに欲しいもの?」
なんだろうね、と目を輝かせる慧。こうやって興味を引かせれば、だいたいは何を言ってもうまく纏まるけれど、今回はもうひと押しした方がいいんだろう。
そもそも慧さえ知らないものを愛美がわかる方が不思議なのだから、なるべく考え付かないような分野の言葉を何か。そう考えて、浮かんだのは。
「赤い糸、とか?」
「へ」
「や、だってあんた恋人いないでしょ? で、流石に赤い糸なんか見えないでしょ? だから、誰かとの縁を繋ぎたくてうまくいかなかったんじゃないの?」
勉強やスポーツができても、人の気持ちまではそう簡単に動かせない。それに、頭のいい慧が思いつかないようなものといったら恋愛系しか思いつかなかったし、繋ぐなら絆とか目に見えないものの方が誤魔化せるかと思った。ただ、それだけの事だったのだが。
「あ~……えっと……」
「なんで真っ赤になってるの?」
顔どころか耳と首まで真っ赤にした幼馴染の姿に目を丸くする。彼がこんな反応をするのは幼馴染として誰よりも傍にいると自負する愛美でさえはじめてで。
「うん、わかった。ありがとう」
そう言ってそそくさと教室を出ていく慧の姿を思わずぽかんと見送って。
「……って、ちょっと慧、授業は!?」
そう叫んだのと午後の始まりを告げるチャイムが鳴り響くのは同時だった。
そのまま放課後まで戻って来なかった幼馴染がやっぱり顔を真っ赤にしていたままだったのだが、その理由を愛美が知るのはもう少し先の話。
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