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プロローグ・プロジェクト

 きっとどこかに存在しているであろうパラレル・ワールドの住人の方、はじめまして。僕の名前は斎野祭吏さいのまつり。どこにでも居る普通の高校生。特技は、神の御業を行使する事だ。なんて冗談じみた事を脳内で浮かべてみる。本当はそんな余計な事を考えている余裕は無いのだけれど、なんとなく今この瞬間に、こんな感じの事を考えたほうが良いかな、と思ってしまったのだ。神のお告げかもしれない。神のお告げを何回も聞いている僕が言うのだから、きっとそうなのだろう。


 夕焼け空の下、僕は、高校の制服を着た男女二人組を尾行していた。


 二人の雰囲気は、とてもうやうやしく、そしてまどろっこしいものであった。ピンク色のオーラが見える気がする。俗にリア充と呼ばれる類の人種である事は火を見るよりも明らかな雰囲気を放つ二人。しかしその実、二人は恋仲では無い。互いが互いに気がある、つまり両想いである事はピンク色のオーラが物語っている。そんな二人が、とある偶然をもってして――僕がそうなるようにと意図的に用意した偶然の力によって――共に、二人っきりで下校をする事となった。僕は、両想い確実であるあの二人を、恋仲として成立させたいのだ。そのために尾行している。


 だがやはりまどろっこしい。二人の間にある距離は一メートル未満。友達としては至近距離と呼べるであろう距離にも関わらず、どちらも口を開かない。心境は解る。何を話せばいいのか解らないのだろう。どんな話が相手に好感を抱いて貰えるか、間違えて相手を引かせやしないか、そんな気苦労を、どちらも抱えているのだろう。


 このままでは、せっかくの二人っきりの下校が何事もなく終わってしまう。男側がなけなしの勇気を振り絞ってアクションを起こすと期待していたのだけれど、それはもう叶うまい。僕は一歩前に出た。少しずつ、気付かれないように二人へと近付く。夕日を反射してオレンジに輝くコンクリートに眩暈を覚えつつも物陰から出て、さらに近付く。


「我が崇拝せし不死と愛の神話絵画『ジェラール・フランソワ』発動。神の召すまま、世界に二人の愛の加護を」


 呟くと同時に、オレンジの夕景が色を変える。裏の世界とでも言うべきか、オレンジの光が緑味の伴った青へ、点滅していた信号の黄色は青紫へ、それぞれの色が反対の色へと姿を変える。同時に、全ての動きが止まった。


 絵画世界かいがせかい


 ここは、人間が描いた絵画を媒介にして、神が人間界へ干渉するために作り上げた中間世界のようなものだ。普通の人間では入る事が出来ない。極稀ごくまれに悟りを拓いた人とかが入れるようになったり、夢で偶然迷いこんでしまう人とかも居るそうだけれど、それは僕には関係の無い話だ。僕は悟りを拓いたわけでもなく、しかし自ら、その世界へ干渉する事が出来る。何故なら僕が神に選ばれた人間だからだ。


 さっきまで尾行していた二人が居るほうを見やる。二人は動きを完全に止めている。時間が動いていないのだから、人間が動けないのは当然だ。しかし、二人の背中から、煙のようなものが湧き出てきた。女子の背中からは、春を彷彿とさせる、フレッシュな黄色の煙。男子のほうからは、微かに淀みのある、けれど強烈な青。


「なるほどね」


 一人呟き、慎重な足取りでさらに近付く。


 あの煙は、人間の心を指し示したものだ。そのうち形を成してくるが、色だけでもある程度の心境は察する事が出来る。


 女子のほうは、きっと今、楽しい気分なのだろう。夢心地、とでも言うべきか。新鮮で、そして眩しいほどに温かい、そんな気持ちを、隣の男子と歩く事で抱いている。対する男子のほうから、後ろめたさと欲望が垣間見えた。欲望、というと聞こえは悪いが、思春期男子の恋愛感情は割とそんなものだ。別にそれは悪い事ではない。むしろ、恋愛は欲望だ、という持論を持っている僕からすれば、あれくらいはっきりと欲望にまみれていたほうが自然に思える。その欲望を押さえつけているのが、後ろめたさだろう。


「ちょっと難しいかな」


 女子のほうは、現状に満足している。これ以上の幸せは要りません、むしろ余計な色は足さないで、このフレッシュな心境を汚さないで、と、おそらく無自覚にであろうが、そんな雰囲気を放っている。


 男子のほうは僕の理想通りの心境だ。近付きたい、もっと触れ合いたい、そんな願望を抱えつつも、しかし女子が抱いている心境をある程度察しているのだろう、彼女の心境を汚したいと思ってしまっている自分を、心の中で叱り付けている。


 色から判断すると、そんな感じだ。


 僕はあの二人を、可能な限り早急に、恋仲にまで発展させなければならない。いいじゃん両想いなんだからさ、もう大人しく付き合ってよ僕のために。


 ともかくその方法のひとつに、あの心を具現化した煙を、この神話絵画内でいじくり回すというものがある。神の力を使った裏技だ。そして僕はその裏技を使う事が出来る。ようは二人の心境をいじって変化させ、恋仲にしてしまえという荒療治だ。流れ作業的に簡単なお仕事である。


 早く済ませたい、と逸る気持ちをなんとか抑え付け、さらに慎重な足取りで二人へ近付く。だが、一定以上近付くと、二人の背中からもくもくと溢れ出ていた煙が不自然に動きを止めて、次の瞬間には一気に膨れ上がり、煙は巨人へと姿を変える。


 色はそのままに、煙である事は忘れさせない程度には曖昧な、しかし全長五メートルは越えるであろう巨人。黄色の巨人と青の巨人。双方ともこちらを向いている。


 見つかった。


 僕の身の安全のため、なるだけ平穏に事を済ませたかったのだけれど、そうもいかなかったらしい。人の心は変化を拒む傾向にある。身体の中に直接入り込んできた異物を白血球が追い出そうとするのと同じように、心の中に直接入り込んできた僕という異物を排除しようと、彼と彼女の理性か知性かともかくなんらかの心が、僕に立ちはだかっているのだ。


「仕方ないな」


 左足と左手を半歩分後ろへ下げ、重心を落として身構える。


「これよりエロス&プシュケ・プロジェクトを施行しこうする。――黄金の矢アルファ、装填」


 後ろへ下げた左手に、がっしりとした何かがのしかかった。それは木製の弓だ。


 そして前方に翳した右手に光の粒子が舞い、幾何学的な模様を形成すると、それが幾何学的な魔法陣となった。だが次の瞬間には魔方陣は崩れ、光の粒子は黄金の矢へと姿を変える。ささくれのような、もしくは龍の鱗のような角が立つ、雄々しいシルエットの矢だ。その矢をしっかりと右手に掴み取ると同時に、僕は右足を大きく後ろに下げた。身体が向きを変える。さっきまで前に出ていた右手は後ろへ。弓を握る左手は前へ。弓に黄金の矢を添える。弦を引き、大きく後ろへ重心を逸らす。


 黄色の巨人と青の巨人が一斉に、僕へと手を伸ばしてきた。僕は青の巨人へと矢を放った。矢はしっかりと青い巨人へ突き刺さる。これで第一段階は完了。


 僕からの攻撃を喰らった事で青い巨人は怯んだ。しかし黄色い巨人はそのまま襲い掛かってきたため、後ろへ大きく跳んで、伸ばされていた手を回避する。


 あの煙の巨人は、宿主である人間の心の強さに比例して強くなる。意思の弱い人間ならあの巨人も弱くなる、と言い切れる程単純ではないにしろ、少なくとも二人の巨人の動きが鈍い事はもう既に解った。


「黄金の矢ベータ、装填」


 再び右手の中に現れる黄金の矢。だが、アルファと違い曲線的で、なだらかで美しいシルエットをしていた。


 弓矢を構え、それを黄色い巨人へ放つ。


 黄金の矢『アルファとベータ』はふたつでひとつ、対となり効果を発揮する矢だ。アルファは男の心へ、ベータは女の心へ打ち込む事で、それぞれが打ち込まれた宿主たる人間が両想いになる、という素敵なアイテムである。とはいえそれだけでは事は完了しない。アルファとベータは、簡単に言えば羅針盤だ。指針を示す事しか出来ない。


 黄金の矢、別名エロスの矢、別称キューピットの矢で打ち抜かれた心は、その傷口から煙を放ち、アルファとベータで打ち込まれた対の心同士で交じり合う。そこに最後の矢、デルタを打ち込めば完了となる。


 簡単にまとめれば、アルファとベータをそれぞれの心に一本ずつ打って心を近付けさせ、最後にデルタでくっ付けるという事だ。デルタがホッチキスか何かだと考えてくれれば概ね正解である。何故そんな面倒な行程を踏んでいるのか、というのにも理由はあるのだけれど、それは今は関係の無い事だ。割愛しよう。


 ともかくアルファとベータを打ち込んだ事で、第二段階は完了。二人の気持ちは完全に纏まった。二人は同じように互いを想いあっている。これでこのままデルタも打ち込めれば良いのだけれど……如何せんそうもいかない事情がある。


 例えば、彼女が抱いている現状維持への欲求。


 例えば、自分の行動が彼女を傷付けてしまうかも、という彼の加害妄想。


 そういう邪魔な感情がある以上は、勿論相手も抵抗する。


懐刀かいとうを形成。ダウンロード」


 再び大きく後ろへ跳びながら右手を翳す。すると、僕の手から黒い煙が溢れ出す。その煙は目前の巨人と同じように変貌して、短い刀となった。唾の無い真っ直ぐな短刀。これは、僕自身の心を武器にしたのだ。


 黄色と青の巨人達が、一斉に僕へ襲い掛かる。異物を排除しようと、無自覚に僕を取り払おうとする。

 本来ならば、巨人達の攻撃は回避しなければならないものだ。すぐさま距離を置き、安全圏からどう攻めるか思考する事が、最も利己的な戦い方だろう。けれど僕は、なるだけ早くこの戦いを終わらせたかった。


 現在、現実世界の時間は止まっている。人々の心と、僕だけが動いている状況だ。この説明には少し誤りがあるのだけれど、超次元的な話は僕もどう説明すればいいか解らないため、割愛しよう。とても簡単な話、神の世界だから全てが許される、とでも思ってくれればいい。そういうわけで時間が動いていないこの世界でも、戦いを早く終わらせたいと思うのは平和主義者の必然だろう。


 だから僕は、攻撃の回避をしようとしなかった。より近くから、より長く巨人の観察をするためだ。


 目を見開く。より集中して巨人を睨む。


 意識が視界をスローモーションで流す。近付くふたつの拳。


 現状維持を求める少女の、華やかな夢心地。それを具現化した心。果たしてどうすれば、彼女はより先へ進みたいと思うだろう。彼女を想いすぎるあまりに、失敗を恐れてしまうが故に前進出来ない気弱な彼の心を、果たしてどうすれば踏み出させる事が出来るだろう。


 極限まで見極めようとしていた僕はしかし、


「だめぇぇええええええええええ!!」


 不意に横から、強烈な体当たりを食らった。


「か……はっ!」


 スローモーションだった視界が一気に早まる。あまりの衝撃に、握っていた短刀が煙へと霧散してしまった。そして、さっきまで僕が居た場所に、強烈なふたつの拳が降り注ぎ、コンクリートの地面を砕いた。


 破片がいくつか頬を叩く。突き飛ばされていた僕が地面にバウンドするのとほぼ同時に、破片は飛礫つぶてとなって降り注いできた。しかしその多くは、僕に体当たりしてきた何者かによって僕には当たらない。どうやら僕は、庇われたらしい、と、三秒ほど放心してからようやく気付いた。


「な……なん……は?」


 わけが解らなかった。


 僕を庇った何者かは、僕を地面に押し倒したまま、僕に抱きつき、そして身動きを封じたまま動かない。姿を確認しようにも僕の角度からでは脳天しか見えなかった。その脳天から察するに、女の子であろう事は伺える。


 女の子に助けられた。それがショックだったわけではない。別に僕は危機的状況だったわけではないのだ。解らないのは、どうしてこの少女が動いているのか、だ。


 考えあぐねていると、視界の隅でちらりと動く気配があった。煙の巨人が再び攻撃を仕掛けてきたのだ。だが、僕に覆いかぶさっている女の子は微動だにしない。いや、微動はしている。震えている。怖かったのだろう。恐怖を振り払って、攻撃を避けようとしなかった僕を助けたのだ。


 だがどうやって? 


 振り出しに戻るクエスチョン。しかしそんな疑問は後回しだ。


 僕は弓を手放し、僕に抱きつく女の子の背中に手を回した。そのまま抱き返すようにして、横凪に転がる。一周、二周。すぐ隣へ巨人の拳が降り注いだ。コンクリートが割れる。再び破片が飛び散る。


「逃げるよ!」


 言って、回転の力を利用して一気に立ち上がる。僕は、女の子の顔も見ぬままその手を取って、巨人から離れた。後ろから巨人の咆哮が聞こえる。威嚇のつもりだろう。女の子が「ひっ」と小さな悲鳴を上げる。


 絵画世界を解除するには十秒ほどのタイムラグが発生する。その間に巨人に襲われればひとたまりも無い。だから、撤退する時は可能な限り距離を取ってからにしなければならない。


「このまま隠れられる場所へ向かうから、頑張って走って!」


 激を送るために振り向く。と、初めてその女の子の顔が見えた。服装は僕が通う高校の女子のもの。ぴょこぴょこと右側で跳ねるサイドポニーの髪。小さな顔に幅の狭い肩。こじんまりとした体。だが、走っているせいで揺れる胸と僅かに潤んだ瞳だけは、まるで別の場所から取ってつけたかのように大きかった。いや、胸は関係無いんですけどね。たまたま見えちゃっただけで。


 ともかく。それは僕の知った顔だった。


雛子ひなこ!?」


「っつ……。っ……!」


 大きく頭を振って頷く彼女は、間違いなく僕の幼馴染だ。誰かの心が具現化したものでもない。正真正銘、誰も動けないはずのこの世界で、彼女は動いている。だがやはり、考えている余裕は無かった。巨人達は未だに僕達を追ってきているのだ。ここまで追って来るやつも珍しい。二人の現状をそれほどまでに邪魔されたくなかったのか、それとも元々執念深いもとい用心深い性格だったのかは、僕にはまだ解らない。


 追ってくるなら逃げなければ。


 前に向き直り、走る。走る。すると、通りかけた路地裏からすっと手が伸びてきて、僕の肩を掴んだ。


「!?」なんだ、と思い身を強張らせたが意味はなく、おもいっきり路地裏へ引きずり込まれる。「がふっ!」


 衝撃が強すぎて建物の壁に顔面をぶつけた。


「あ、すまない」


 悪気のなさそうな、しかし誠意も無い落ち着いた声がする。雛子の声ではない。別の女だ。


 痛む鼻を押さえて振り向くと、銀と見間違うほど色素の薄い長髪を携えた、すらりと背の高い女性が居た。その人は僕の肩を掴んだまま、「こっちだ」と言って路地裏の奥へ進む。凛々しく堂々とした背中はやけに大きく見える。女性にしては長身だろう。放つオーラも、美少女というよりも美女だ。しかし服装は、僕と同じ高校の、女子のものだった。


(え……誰?)


 僕は知らない。こんな人、高校で見た事が無い。もしかして新入生だろうか。だとしたらあまりにも大人び過ぎている。


 そもそも。そもそもである。


 こんなにも美しい銀髪を見逃す程、僕の目は飾りではない。


 困惑する僕を他所に僕の腕を引っ張る銀髪の女性。訳が解らずとも幼馴染たる雛子ちゃんの手はしっかりと握る僕。


 なにがどうなっている?


 僕しか動けないはずのこの世界で、どうして二人は動けるのだろうか。






 狭い裏路地を通ったおかげで巨人達を撒く事が出来た僕達は、ようやく息を落ち着かせる事が出来た。


「……状況を、説明して欲しいのだけれど……」


 膝に手を着きながら、さっきまで僕の手を引っ張っていた女性に問う。しかし女性は威風堂々といった立ち姿で、腕組みをしながらこう返してきた。


「状況を聞きたいのはこっちだ。なんだ、ここは。どうして全ての色が逆転している?」


 凛として響く声でそう問い返されて、言葉に詰まった。どうやらこの二人は、意図的にこの絵画世界へ入ってきたのではなく、偶然迷い込んできてしまったらしい。


「わけが解らずさ迷っていたら変な怪物と戦っている貴様が居るし、かと思えば変な女を連れてこっちへ逃げてくるし。咄嗟に庇ってしまったが、結局どうなんだ。お前は現状の説明をどこまで出来る?」


 どこまで、と聞かれればどこまでも、と返す事は出来る。なにせこの世界は僕が展開した世界なのだから。だが、そこまで話してしまって良いのだろうか。そんな迷いが口を硬くした。


「その顔は何か知っているのだろう? ならば話せ。お前は何者だ。なんの力をどう使っている。これは何から借りた力だ。ここはどういった場所だ。いったいなんのために、なにと、どうやって戦っていた」


 まくし立てるように聞かれ、どう誤魔化そうかと考えるけれど、そうもしていられなくなった。現状僕を疑って敵意を向けてきている彼女の目が、白状しなければ何をするか解らないぞ、と言外に伝えてきたからだ。そうなるくらいならば、話してしまおうと思った。別に、隠し切らなければならない事ではない。


 しかし。


「説明は明日、学校でする、っていうのはどう?」


 なにせ実は今、雛子が僕の後ろで気絶しているんだよね。多分いきなり世界が変貌した事へのショックとか、色々あって脳が許容範囲を越えてオーバーヒートしてしまったのだと思うけれど、この子の家は当然ながら知っているし、早く部屋に戻して安静にしてあげたい。それに、どうせ後で雛子にもこの事を問い詰められるのだから、長くなる説明だし、いっぺんに話したかった。


「学校でだと? そういえば同じ高校の制服だが……駄目だ。逃げ出す可能性が高い」


 と、銀髪の女性は言う。完全に敵とみなされたな、と辟易しつつも、僕は堂々と胸を張ってみせた。


「逃げ出すもなにも、同じ高校の生徒なら、君は僕の事を知っているはずだよ」


 その言葉に、女性は眉をひそめる。


「お前なんぞ知らん」


 堂々と言い返されてしまった。自分の意外な認知度の低さに、少しショックだった。


 僕を知らないということは、やはり新入生か、もしくは転校生なのだろう。だから僕は答えた。


「僕は県立長窪ながくぼ高等学校生徒会会長、斎野祭吏だ。生徒会だから学校でも逃げ遂せるなんて出来ないよ」


 それは本当の事だ。


 女性はしばし怪訝そうな表情を保っていたが、それでも不承不承といった様子で頷く。


「……逃げるなよ」


 じっとりとまとわりつくような目つきで睨まれる。


「だから、逃げられないって」


 苦笑してからそう答え、ようやく話は纏まった。


 展開していた絵画世界を解除する。おおよそ十秒後、世界は元の色を取り戻した。

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