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理由。価値観。虫の巣窟。

昆虫が群れを成して襲って来る。飛んだり跳ねたりビョンビョンブンブン。耳が!耳があああ!!前方の進路を塞ぐ幼虫の群れ。しかもデカイ。靴サイズから中型犬程度の虫の巣窟になっている。ここはどうやら大陸各地に存在する冬を越す昆虫系魔物の冬眠スポットの一つらしい。湿っぽい洞窟の中、口から溶液を垂らした幼虫やら昆虫が頭上ひしめいていた。


『帰ろう!下手したら死体も残らない!』

「君だけでも帰してあげたいけど、道が無いんだ!ごめん!」

『やっぱりさっさと逃げとけば良かった!!』


二人して全力疾走。短剣を手に虫の脚を切り落としながら突き進んでいる。自分は泣き言を溢しつつ、斧槍を豪快に振り、昆虫を切り捨てる少年の後ろ7mを付かず離れずの距離感で走っていた。昆虫どもの分泌液で滑りやすくなった洞窟の岩肌は危険地帯だとも。走る度、バサバサと揺れる黒い長髪がここまで邪魔だと感じたのは初めてかも知れないわ。小市民には他人の命なんて背負えないのね本能的に自分優先しちゃうから。


「また道が塞がれて…!」


彼の言う通り、昆虫が横穴のような道を固めていた。弓を構え、前方を塞ぐ群生へと火矢の予備を引き絞る。不自然な炎が矢先で燃え上がって鼻に付く燃料の臭い。これは夜森で獣や魔物に襲われた時用の安全策として準備した物だ。


が、元より三本しかない、ジリ貧すぎて涙出そう。


『…』


息を殺し、指を放す。


少ない装備で無茶な魔窟に入っている。命が幾つあっても足りない状況下で冷や汗を掻かない方が変だ。燃え広がった炎の下の昆虫達をブンブンと斧槍で凪ぎ払ってゆく少年は一心不乱に奥を目指す。


遅れてアースノアが横穴を進めば、そこには広々とした空間と泉が在った。頭上の地盤の上には森の泉が存在し、地上と地中、どちらも泉な訳だ。


「あった…!」


安堵の息を漏らした少年の緑色の目が揺れる。泉の脇に生い茂る発光する植物。青々とした葉は暗闇の中でのみ淡く輝いた。


私は少年が解毒草を摘むのを眺め、周囲に気を配っていた。


しかし全力疾走した為か喉が渇いた。元より日帰りの予定だったので水の予備が無い。水筒の水は残り僅か。生水は危ないらしい。泉に手を伸ばした瞬間、少年が声を荒げていた。ハッとして背後に跳躍すれば視界の右下を這う百足。大蛇ほどの体幹部、その先の鋭利な牙が横を掠めて顔に風圧を感じる。

間を置かず身構えて短剣を握り込んだ。これは踏み込めばリーチの差から巻き取られて窒息死か首の骨を折られる可能高いんじゃないの?

自慢じゃないが雑魚以外の魔物を倒せる気がしない。

魔法が使える訳でもなく弓と短剣を活動的な娘の腕力で扱っているだくなのだから。あぁ…何て無力だ。

百足の顎を壁へと指し貫いて、のたうち回る死骸の頭をブーツの底で踏み潰しておいた。雑魚でも猛毒を持った魔物はソロ狩人の天敵ですね。


「傷は…!?」

『無い…や…』

「良かった」


脳裏の思考と少年の問い掛けがたまたま重なって会話が通じたが、本来は全く意味が異なる。


走馬灯を視た気がした。だけどそれは、ーーー悪しき妖精と正しく初めて会話した時の記憶で、思い出と共に目眩を伴った。



帰り……いや、白髪の救助相手がいる場所へ向かう途中、何となしに興味本位から少年に話しかけてみた。そんなに大切な人なのか、と。


すると彼は目をきょとんとさせて、少し言い淀み、苦笑いを浮かべて勘弁したように眉を下げた。


「……人じゃ、無いんだ」


だけど大切だと一目で分かる悲しそうな笑顔だった。人間じゃないと言われてパッと思い付いたのは精霊だ。だがそんなにほいほい喚ばれる存在ではないと本に書かれていたので確率は薄い。では他は?運搬用の騎獣か魔物に分類される亜人か。


まぁいいや。ここまで付き合ったのだから彼の大切な存在とやらの無事を確認してからにしようと思う。


「ここまでありがとう御座いました。貴女のお陰で何とかなりそうです」


別れを切り出そうとしている北方人(仮)。腰に下げた小袋を私へと差し出す。


「これは心ばかりですが受け取って下さい」


中はお金なのか鉄が擦れる音が聴こえ、アースノアは何とも形容し難い複雑な感情を抱く。タダで済ませる気は無いが、旅金が無ければ少年が困るのは目に見えている。そしてもし自分が城に連れ戻された場合、貰ったお金も貯めていたお金も取り上げられて二度と返って来ない気がした。


『いらないから連れて行って欲しい。貴方の大切な人を見たいなぁ』

「だから、人間じゃなくて…ですね。」


ワクワクした様子の若い狩人の娘の様子に、少年は諦めたのか驚かないで下さいねと溜め息を漏らした。








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