緑深い木々の奥
うちの主人公は割りとゲスい。
目の前の青少年を見て、一先ず商家か下級貴族の坊っちゃんと判断した。容姿が特徴的な為に、父は元よりこの場にいたのが近隣諸公と繋がりある兄や姉だったらもしかしたら家名まで分かるのかも知れないが生憎と私だ。
他国の下級貴族や商人を把握するには今まで機会が少なかった上に、催し物が退屈極まりなかったので横繋がりすら危うい。
彼の使い込まれた鎧や武器には確かに家紋とおぼしき模様が見える。蔦と兎だ、…………兎。何だか貴族の威厳に欠けるマークですね。
『それでゲドドリ草が必要な人は大丈夫そう?』
「っ、…毒矢を受けたのが深夜。……僕を逃がす為に大分動き回ったから廻りが早い」
こちらを完全にこの森の狩人と思っている青少年は一心不乱に樹の根元に生えた植物を掻き分けて、これもちがうあれも違うと駆けている。 中性的な分、地味目な顔立ちに見える。アースノアは、もしや太陽やら毒花に例えられる兄や姉が王公貴族的に存在感に強過ぎで美形を美形と思えて無いのかもと内心首を捻る。
白い髪がフワフワと揺れて、まるで色が抜け落ちた砂漠の狼のようだ。近隣の諸国でも真っ白な髪は老人ぐらいだろう。遠方から来て、この国に用だとすれば物資の買い付けだろうか?
王城では今頃第三王女の捜索が市内に広まっている頃だと思う。適当に遊んで帰ろうと思っているのにこの少年のお陰で遊び足りないぞ。図鑑で得た知識をフル稼働しているがまだ見つからない。
遅いのだ。ゲドドリ草は寒ければ枯れる。前の寒波で枯れてしまったに違いない。町に行けば粉末にした物が手に入るとは思うが、彼がそれでは駄目だと言う。解毒作用が少ないんだとか。
しかし、彼が助けたいという人は常人では数時間と持たない毒を受けて半日生きている……随分ゴツい人なんだなぁ。
青少年は焦燥を滲ませた緑色の瞳を歪め、土を掘り続けている。手は泥だらけ。
兵士にこのまま見つからなければ今日ぐらいは野宿してしまおうか。だが、根性論ではどうにもならないことを盲目的な青少年は割り切れず日が暮れるまで探しそうな空気。そうなればまず間違いなく追っ手に見付かってしょっぴかれる。今この時ですら安全だと保証される事は一つもない。
『ねぇ、このまま探しても見つからないしさー』
「……。それでも見つけるんだ」
『いや、だからさー。』
アースノアが呆れた口調で言うと、ようやく少年は振り返って私を見た。平静を装い切れていないのか返事に余裕は見られない。緑色に反して興奮した瞳。何この子キレる子なの
「何ですか?」
『…』
青少年の様子に一瞬言うのを躊躇ったが仕方なく告げた。森の解毒草は冬眠期でもう手に入りにくいが一ヶ所覚えがあって、森の中央にある湖畔の洞窟は内部が温室のように温かいんだとか。だが夏を過ぎると毎年のように兵士の手により閉鎖の看板が立てられる。でも多分、……魔物がいるんだと思う。
アースノアは黒い瞳を相手の斧槍に向けると思案するように目を細め、やがて「腕に覚えはある?」と森の奥を見ながら口を開いた。
『私はない。』
「行きましょう!!」
斧槍を勢いよく握り、立ち上がった青少年は行きたくないな~と、ぼうっと立ちすくんでいた私の手を握った。うわ!
若い子って恐ろしく迷いがない。