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本を棄てる。

シリアスにはならないね。←ネタバレ。閲覧感謝!!

いっそ図書館に籠って、衰弱死するのを待とうか?


予想出来る退屈な未来を持て余し、だからこの私の世界の中心で終止符を打ちたくなった。乳母には散歩と伝え、向かったのは夜の図書館。明日、第二王子の親衛隊が見張っていたら、もうここには入れない。


天窓から淡い月光が射し込む通路に本を読むでもなくただ通路に立っている。痩身の人外が何処からともなく姿を現して、背後からアースノアを抱き込んだ。見た目通り冷たい腕が重い。


『何で私をこの世界に連れて来たの?』


能力的に優れた他者は掃いて棄てる程いた。凡庸。その一言に尽きる。


「ただその場にいたからだ。」


精霊は言った。


そうか。ただそれだけか。あるタイミングである場所にいた。それだけか。


それじゃあ事故死と変わらない。


第三王女は首に纏わりつく白い男の腕をやんわりと拒むと、なんだかなぁ…と複雑そうな表情を作った。長いローブを揺らす夜風が冷たく、吐息も白い。天井まで本の並んだ本棚の中央でそれら全てに背を向ける。


重厚な扉を押し出すように開き、庭園の真ん中で草花を踏み荒らしながら突っ切った。朝には無惨な草花が泥まみれになっている事だろう。部屋へ戻るなり乳母へ休むと伝えて、私は明日の狩りの為に弓の手入れを始める。


無人の図書館に入室禁止が決まれば、トントン拍子で狩りも禁止される。なら禁止される前に思う存分堪能しよう。これからの事はそれから考える。どちらにせよ退屈な時間は余りあるのだから。


日が明ける前にフードを深く被り、布で巻いた弓と籠を持ち、侍女達が使う通用口から街へ出た。


兵舎が近いので慎重に動かないと。侍女が着る丈の長いスカートを慣れた様子で着歩くだけで兵士からの視線は軟化するらしい。今の私は買い出しを言い付けられた新米侍女であり、決意した第三王女から秘密裏に弓を売り払うよう命じられた侍女である。夜更けも過ぎた頃だが兵士の中の一人に異様に泥酔した男がいて、他の兵士に絡んでいた。


「侍女の嬢ちゃーん。買い出しから帰ったら、俺サマとイイコトしない??」


しない。しない。男はそのまま同僚に抱き付いて(当然男に。)頬チューをしようとしたところで殴られていた。何だあの兵士は。蝋燭の明かりと喧騒が遠ざかる。


街を抜けて、城から真っ直ぐに森に入った。


賢王が統治する地域は魔力が比較的薄いので魔物も弱い部類らしい。


ひゅんっと風を切った矢が兎に命中し、兎は反動に地面を転がりながら息絶える。既にカモシカと兎と野鳥を狩っていた。とても一人では食べきれないがまだ物足りない。既に城を出て半日以上経過している。だが戻る気が湧かなかった。よし、今夜は野宿して、そのまま狩りは続行しよう。


城の自室には家出お決まりの捜さないで下さいの書き置きをしていた。まぁ、父の命があれば兵士達は命を投げ売ってでも命令を遂行するだろう。皆、賢王を崇拝している。私も父王を賢い人だと思う。


ガサッ


茂みが揺れて、弓を構えた。獲物の姿が見えるのを息を殺して待つ。踏まれる植物の音から獲物は若い雌鹿ぐらいの大きさらしい。馬を借りていないのでこの雌鹿を運べるか微妙だと気付いていたが止める気は湧かない。そのまま獲物が距離を積めるのを待つ。


城下町の南東部の森は魔力を持った植物が生息し、幻想的に発光する草や茸が樹齢の長い大木に生えているが、これとて他国の人間には売れる。後で摘んで袋の中に詰め込もう。


再び茂みが揺れ動いた。


「あ…ッ」

『えっ』


青年と言うのには年若い少年がひょっこり顔を出し、茂みの中で私を視野に入れると目を丸くした。一拍と待たず、その人物はこちらに跳躍し彼との距離が縮まった。弓を構えているのが見えない訳もない。盗賊が襲いかかって来るのとは雰囲気が違う。


武器は構えていなかったので誤射しないよう弓の向きを咄嗟に反らす。間一髪だった。


しかし、アースノアはぐるりと他者の力が肩に掛かった事実に「よもや暗殺者の類いなら間抜けだなぁ」と不安を抱きながら力の流れに従うのだった。視界が右横に何十度か動いて、少年のそこそこ整った顔が傍に近付いた。


「力を貸して下さい!」


腕を掴まれる。


その白い髪、白い肌、しかし瞳はエメラルドと翡翠の中間のような光彩を放ち、中性的な容姿はまるで妖精のように幻想的と言えよう。


着ている鎧は渋革色のプレートメイル。特別高くはない防具だがそこそこの品である。斧槍を背に背負い、手はボロくなった包帯を巻いていた。


僅かながら怪我をしているのか、アースノアの鼻を血の臭いがかすめた。



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