狂人の夜。悪しき精霊。
書きたい事が纏まらなくてすんません。
人形のように不自然に真っ白く、細身だが彫像のようなおよそ完璧な造形が暗い自室の中に在った。虚勢を張って対象を見続けたらクスッと鼻で笑われ、そのままこちらに見せつけるように露出の高い服…布切れに手を差し込む。しなやかな胸部の筋肉、脇腹、首筋をありありと見せつけ、面白がるような蔑むような眼差しに冷や汗が手に滲んだ。
ここで骨抜きにされてしまっては困る。精霊に魅入られれば後は傀儡。そして餌になるセオリー。それでもいいと思ってしまう程にいやらしい人外だ。
「一月ぶりか?
アースノア」
低く艶のある声。下も見たいか?と言いたげに色香を孕む男体に、息を飲んで枕下の短剣で本気で斬りかかる。
嗚呼、腰のラインから恥骨まで目撃してしまった。これから数日はムラムラするに違いない。妖術でも使っているのか心拍音が直接脳まで響いて五月蝿かった。
「止めて。」
道化師は残念そうに肩をすくめると紫色の星のペイントが施された右目でウインクを投げて、ほんの戯れだと笑った。クソ。これだから精霊は。
「芸が見たいなんて一言も言った覚えはないので早く眠りたいし、正直帰って欲しい。」
「いや、正直過ぎだろ。」
過去、二歳の段階で第三王女がこの精霊に狙われていると預言されて母が倒れた言ったが、私の記憶は四歳から始まっており、それまでの自分は日本人。ただ一つ私は《黒の道化師》とやらに言わせれば異空間で拾った魂らしい。狙う狙わない以前に迂闊に他人様に相談不可な悩みを抱え込んでしまった。
もしこれで幼い第三王女を取り殺した忌まわしき黒の道化師の手下なんて認定されたら、王国全土を巻き込んだ大処刑会が広場で催される。きっとお祭り騒ぎになって露店とか王都中に並立つんだろう。…。胃が締め付けられる思いに駆られたっ。誰かに知られる前に目の前の精霊を消滅させよう。
書庫から自室に戻り、一人で晩餐を終え、湯を浴び、髪を拭いて、バスローブ姿で本を開いたところで精霊の出現だ。今日はメリッサがいないので本格的に一人で過ごしている。前に本で読んだが精霊はそれなりに肉眼で見える存在であり、魔力の塊のような存在なので魔術師が気付かない筈もなく、この道化師を模した精霊に何故老王の部下が反応しないのか解けない。
《黒の道化師》は恐らく特殊な存在なのだろう。
「お前にいい知らせを持って来てやったのに。また悪巧みか?俺の消滅はお前の死だ。馬鹿が。」
「……いい知らせ?」
ニヤリと人相を歪めた道化師が、近々憐れな仔犬がお前の前に姿を見せるだろうと告げ、化け物染みた表情で狂ったように笑い出す。
高ぶってんな。醒めた目で叫ぶような奇声を上げる精霊を横目に、椅子に座り込んで冷めた紅茶を口に含んだ。この大声が私にしか聴こえてないとかホント吃驚。