王国北方の街。
上空から眼下に広がる砦のような街を眺め、ラゴーの背で娘はフードの下の目を見開いた。竜の飛翼が上空から街に近付く度、石壁が間近に見え、建造から過ぎ去ったの年月と歴史に青い目が輝く。
『すっご!確かに本の通りめっさ古い風昌石の街!』
「出たよ、スゥの書物情報……」
目的の物は何処にあるか分からない以上街を捜索する事になるのだが、明日一日はスゥの街探索に付き合うか、スゥ当人を捜索するかの二卓になりそうと少年はボヤいた。
王都にいたくせにスゥの知識欲は変な方向に凄まじく、前に数日別行動した時、街の商店街に入り浸って驚くほど朝から晩まで其所から動かなかった。興味深く物を見ると身動ぎもしなくて、まるで亀のようだとマユリリが呆れていた。主人に銀貨を握らせて解説させる用意周到さも忘れてはいけない。
手綱を操り河上から宿屋の看板を探し出した少年は成人の冒険者の間を縫うようにして竜の身体が着地できるスペースにラゴーを誘導した。王国領土であるからそれなりに治安はいいが人の多さからスリもいそうだ。二人してフードを深く被っているので一見して小柄な亜人の旅人のように見えたが、フードから覗く抜けた色の髪と宝石のような緑目は幻想的で、彼の容姿に精霊人種かと誤認して二度見する者もいた。アースノアは露店商の飴菓子に目を奪われている。
『ソラタっ!、凄いね!ここがオリゾンテイムかぁ』
「ほら、きょろきょろしない」
彼より目下にフードを被った娘が明らかに警戒心薄い様子で軽快にステップを踏み、彼より二三年上だが危なっかしい印象を受ける。だが無邪気さが売りなのかフードからでも破顔しているのが見てとれた。リア充爆発しろと呪いのような眼差しが周囲から飛ぶ。よく見れば冒険者も兵士も男ばかり。
此処は王国最北の街。そして国内一独身率の高い街だった。第二王子ヴォルフィーニの直轄地でもある。
さて、少しつまらない話をするならば、街に着くまでの最近の旅の道程の説明かな。国外に出て精霊が住まう樹海区域から再び王国の北方領土内に入り、竜人が棲む巨大な山脈が在るために時計回りに迂回して3時の位置から9時に向かい街道を通過したのが先日の事だった。
険しい山脈は雲すら貫き、天候一つで遭難しかねない場所だと王城の書庫で読んだ通り、遠目にも雷雲に包まれていた。出来れば近寄りたくない命が幾つあっても足りない場所だよ。
旅に慣れたソラタすら避ける土地だけにホントに危険区域なんだろうな、と納得して、それでも世間一般認識で魔法資源が豊富な霊山だけに採取に分け入る達人級の山師やハンターが絶えない訳だ。
魔鉱物資源や霊薬の材料、亜人との交易の中心地であり、圧倒的に出稼ぎには持ってこいの場所だが、西部諸国は内戦に荒れ、そもそも亜人にいい顔をしない王国民の特に女性には大不評な土地。年頃の娘は皆、まだ見ぬ恋人を求め渡り鳥のように事実南下するのだとか。圧倒的に女性が足りていない街に出稼ぎに来た冒険者や兵士やエリート騎士の男達は地の涙を流すという。
一部は別の扉を開くらしいが、絶望の赴任先には間違いない。
『ん……?』
そんな裏事情を汁も知らないアースノアは串焼きを買った露店の店主から「若い娘は大体出ていっちゃうから物珍しいんだろうな」との言葉に「そういうもんか」と納得していた。目立たないようにしようと思った矢先に店主が私に耳打ちした。
「お連れの彼氏も気を付けな。」
『何を!?』
ソラタは確かに可愛格好いいがちょっと待て。
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