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二股の道。

兵士は去ったがいつ戻って来るとも限らない。そして、城に戻るなら今が潮時だと薄々感じている。


もしこのまま城を出たら漠然とした未来が待っているのだろうか。私はもう思い出したから、これからは城での生活も違った形になるだろう。御兄様は五月蝿く言うだろうが、私は精霊の事を調べてみようと思う。……まぁ、余り魔力には長けてないと城遣えの魔術師が言っていたケド。一つの疑問を解き明かす為、黒の道化師の起源を探したい。書物の山を漁って過去を遡るのだ。死に付した私を助けた精霊についての全てを。


「一緒に行こう!」


だと言うのに。この少年は何を言い出すのか。白髪の少年がドラゴンの背からこちらを見下ろし腕を掴んだ。先程まで不自然な空気を放っていたアースノアだったが、それが他人の目には彼女自身訳ありに映ったのだ。


『うわっ』


アースノアは少年に思ったより強い力で引き上げられたことに吃驚して目を丸くした。ドラゴンの羽ばたきは付近を散策していた王城の兵士の耳に確実に届くだろう。


「兵士に垂れ込まれても困るしな」

「貴方が決めたならそれでいいわ。恩人さん」


ソラタの言動に付け加えるように犬の獣人と人外の女性が私を招いた。三者が三者とも違う返答を返し、ついでに真下にいるドラゴンが「ぐるるる」と呻き声を漏らす。


獣人が「えらく不満そうだな?」と肩をすくめて見せた。ぐるる、がるると要求を伝えるドラゴンの声に獣人は頷いた。この白いドラゴンは嫌いな害虫を避けるかのように私を遠巻きにしていた。随分と知能高い爬虫類だなぁ。


「うん。分からん。」

「がるっ!?」


彼には彼の訴えがあれらしい。だが、要求は通らず、私は少年に促され、葛藤を抱いたままドラゴンの背にいた。スレンダーなマユリリが貴方も助けて貰ったんだもの少しは我慢なさいとドラゴンをたしなめる。


このままでは彼等は誘拐犯になるのではないか。そう気付いてはいたが、彼等と第三王女を結び付ける関わりは同じ森にいた事実だけだろう。


高度が上がり、夜空に溶け込んだ。あれほど窮屈で閉鎖的に感じた城を一望した時、もう城に戻る気は皆無だった。


飢える事はあるだろう。寝床に困る事もあるだろう。しかし生きている実感に勝る物があそこにあるだろうか。篭の鳥はもう止めた。そう考えた自分の耳に艶やかな男の声が届いて、耳元を撫でられる感触にビクリと固まる。


「意外だな。もう少し迷うと思ったよ。」

『行動力だけはあったみたい』

「それは何より。アースノア姫」


腰に回された両腕が私を抱きすくめる。愉しそうな声は周囲に聞こえていないらしく、その空間掌握能力を発揮する精霊の異質な魔力の臭いに白いドラゴンが相変わらずうっすらと警戒しているのみで、もしや銀行泥棒もこの精霊にかかればチョロいんでない?


周囲を警戒していた三人は狩人の迷いに気付かない。


「そう言えば何をしたの? 」


兵士を避ける理由を少年に問われて視線が集まった。酔っ払った兵士を騙して城の出入り口を通ったんだよ

と応えれば、何でそんな事しようと思ったんだと苦笑いされた。違う世界が見たかったんだもの。との答えを聞いた少年は正しく意味を理解せずに、それはチャレンジャーだねと笑った。少し分かる気がする、とも呟いた。


「この平和な国の人達はどんな事を毎日考えて生きているのかな」


そう言った少年の綿飴みたいに柔らかそうな前髪が風に浮いて、緑色のその瞳が複雑な色を浮かべる。12、3歳の少年が子供とかけ離れた表情をしたものだからアースノアは違和感に内心首を傾げた。世界情勢は思ったより悪いらしく、それが子供を早熟にしたのかと深読みしたが、貴族の子息は大体早熟だ。

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